業務部門がAWSを使いこなすには:クラウド活用セミナーリポート(1/3 ページ)
Amazon Web Services(AWS)などのクラウドサービスを、部署・部門レベルで本格的に活用するにはどうしたらいいか。2014年10月9日に開催された「AWSをビジネスの武器に――業務部門のための、クラウドサービス徹底活用セミナー」から、活用のヒントを探る。
Amazon Web Services(AWS)などのクラウドサービスをビジネスツールとして活用する動きが加速している。部署・部門レベルで本格的に活用するにはどうしたらいいか。そうした問題意識に基づき、@IT編集部は2014年10月9日に「AWSをビジネスの武器に――業務部門のための、クラウドサービス徹底活用セミナー」を開催。ここではそのダイジェストをお届けする。
AWSを徹底活用する、あきんどスシロー
基調講演には、あきんどスシローの情報システム部部長の田中 覚氏が登壇。「ビジネスを伸ばすためにAWSを使い倒せ!」と題し、スシローのクラウド活用の取り組みを披露した。
スシローは、すし皿にICチップを取り付け、きめ細かな情報を基に鮮度管理と売上分析を行って成果を上げている回転ずしチェーンとして広く知られた存在だ。年商は1200億円、店舗数は全国373店舗。アルバイト・パート含めて3万5000人の規模で、AWSを“徹底活用”している。田中氏はまず、ITを活用する背景についてこう切り出した。
「他社との大きな違いは、楽しい回転ずしにこだわっていること。(注文があってからレーンに流すのではなく)お客さまに楽しんでもらうために、頑張って流している。ただ、これが難しい。常にすしが回っているということは、注文が来る前に流しているということ。当然、皿を取ってくれないと廃棄になる。そこで、予測、管理をきっちりやる必要が出てきて、ITを使うようになった」
スシローでは、まず、客が店舗に入ると、いつ何人がどの席についたかを記録する。次に、着席している人数(大人1名と子ども2名など)と経過時間を見て、席ごとの"食欲"を色分け表示する。着席直後の食欲のパワーは赤色で、時間が経つと食が満たされたとしてグレーになる。
これを店舗全体で見て、過去の統計データや、そこから作成した、食べ方のモデルに照らして、レーンに流すすしの量を決めていく。1分後だったらどのくらい、15分だったらどのくらいのすしが必要になるかという需要を予測して流しているという。
また、オペレーションの改善にも利用している。注文してから提供できるまでの時間を計り、客ごとにばらつきが出ないように、シフトの配置やレーンの状態をコントロールする。例えば、ピーク時に注文が遅れていたら、シフトやレーンの状態を変え、すばやく提供できるようにするという。
センサーによって1年に生成されるデータは10億件に達する。それらを分析することで、客の楽しさを演出しながら、廃棄率を大幅に改善するシステムを作り上げてきたわけだ。
「3年でものすごく変わった」
田中氏が入社したのは3年前。すでにDHWやデータマートを構築し、ICチップから得られるデータを蓄積して分析する環境が整っていたものの、データを十分に活用できていなかった。データ自体はあるものの、企画部門が欲しいデータをすぐに見つけられなかったり、逆にレポートの数が多すぎて、現場のオペレーションに十分に生かすことができずにいたという。経営企画や現場を経験したのちにIT部門に移った田中氏は、次のようにIT部門の状況を整理した。
「情シスの中心的な作業は安定稼働になりがち。日々の運用に結構な工数がとられ、人やお金に対しては余裕がない。また、業務の流れを全て把握できるわけではなく、要件が分からないケースが多い。ドラえもんのように頼られてきても応えられない。業務部門と言葉が通じず、最新テクノロジーに触れる機会も少ない。現状に不満を持っている──」
AWSの採用は、こうした、安定稼働との両立の難しさ、時間や予算の不足、最新テクノロジへの理解不足、業務部門とのコミュニケーション不足といった課題を解決するものだった。従来のシステム運用では、例えば、BIツールを使った分析という業務1つにしても、始めるまでに、3ヵ月から半年かかっていた。サーバーを購入し、納品まで待ち、セットアップし、サイジングを行い、ソフトをインストールし、テータをそろえるといった工程が必要だったからだ。ここでAWSを採用すると、サーバーの購入からセットアップまでの作業がなくなる。場合によっては、ツールが入ったディスクイメージを配布しているケースがあるので、ソフトのインストールすら要らなくなる。
「AWS導入後は、15分で分析が始められるようになった。BIツールは無料の体験版を用意しているケースが多く、コストはほとんどゼロ。データを入れて少し分析しても数万円で済んでしまう。もしうまく行かなければその環境を捨ててまた作ればいい」と田中氏。実際、2年半前に最初に取り組んだ40億件のデータ分析は、わずか3日でできたという。一番時間がかかったのはデータのアップロードで丸2日。分析環境自体は、1時間程度で構築できた。人員は、田中氏と部下1名の2名だけだったという。
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