Microsoft Azureのスーパーパワーで“パワフル”“フレキシブル”“オープン”な開発を:GoAzure 2015 基調講演リポート
クラウドファースト時代のソフトウエア開発者にとって、Microsoft Azureはどれだけ“使える”のか。2015年1月に開催されたコミュニティイベント「GoAzure 2015」で、マイクロソフトはクラウドとオープンシステムへの傾斜を深めた最新フレームワーク「.NET 2015」を紹介。Microsoft Azureは開発者にスーパーパワーを与えると強調した。
ソフトウエア開発者にスーパーパワーを与えるMicrosoft Azure
クラウドはソフトウエア開発者スーパーパワーを与えてくれる――。
Microsoft Azureのコミュニティイベント「Go Azure 2015」(日本マイクロソフト、Microsoft Azureユーザーコミュニティ共催)の基調講演第一部で、米国マイクロソフトのスコット・ハンセルマン氏(プリンシパル プログラムマネージャー)は、このフレーズを何回も口にした。
ハンセルマン氏は、クラウドには「迅速かつ容易な配信」「伸縮自在な能力」「使用量に応じた課金」「新しいビジネスシナリオの可能性」の四つのメリットがあると指摘。ソフトウエア開発者にとっても、キャパシティ割り当て量の自動拡張/縮小(オートスケーリング)などの機能によって、エンジニアとしての価値を高めることができると説明した。
例えば、Microsoft AzureをPaaS(Platform as a Service)として利用すれば、OSに関する管理はクラウド側に任せることができる。また、Microsoft Office 365やMicrosoft HDInsightなどのSaaS(Software as a Service)なら管理の手間はゼロ。ハイブリッド重視の設計になっているので、システム構築時の柔軟性も高く、業務システムの一部だけをMicrosoft Azure上に載せるといった使い方も可能だという。
また、仮想マシンのキャパシティや台数は、ニーズに合わせて自由自在に拡張/縮小できることもクラウド利用の大きなメリットになる。「私も自作のWebアプリケーションを20ほどのWebサイトで運用しています」と、ハンセルマン氏。「人気になってアクセス数が増えたら自動的にスケールアップ、ユーザーが離れていったら自動スケールダウン、といった運用法でメンテナンスの時間を節約できています」と語る。
さらに、Azure仮想マシンサービスには、パブリッククラウド業界最大級の能力を備えるものも用意されている。例えば、Dシリーズでは速度を60%高めたCPUと大容量メモリを装備する他、ローカルのSSDストレージにも対応。開発コード名“Godzilla”のGシリーズには、最適化されたデータワークロード、最大32CPUコア、450GBのメモリ、6.5TBのローカルSSDストレージ、最新のIntelプロセッサーなどが含まれている(関連記事:Microsoft Azureで「パブリッククラウド最大」の仮想マシンG-SeriesやDockerエンジンVM対応を発表)。
クラウドとオープンソース対応の.NET 2015でモダンWebを実現
このように優れた点が多いMicrosoft Azureをアプリケーション開発で最大限に活用できるように、マイクロソフトはASP.NET 5、.NET Core 5、.NET Compiler Platform(開発コード名“Roslyn”)などの最新技術で構成される「モダンWeb」(オープンWeb)を2014年11月に発表した。
「.NET 2015は、Common(共通基盤)の上でASP.NETと.NET Coreをサイドバイサイド(並立)で動作させる構造になります」と、ハンセルマン氏(図1)。
図1 ASP .NETと.NET Core(Linux/Mac OS Xにも対応)がサイドバイサイドで動作。共通基盤のRyuJIT、.NET Compiler Platform、NuGetパッケージはどちらからも利用でき、.NET、Node.js、PHP、Python、Javaの各言語をサポートする
ASP.NET側ではASP.NET 5、ASP .NET 4.6、Windows Presentation Foundation(WPF)、Windows Formsのそれぞれが動作するので、Windowsアプリケーション開発環境で作られたアプリケーションの稼働に向く。一方、小型軽量の.NET Frameworkエンジンに位置付けられている.NET Coreは、ASP.NET Core 5の他、.NET Native(プロセッサー依存バイナリーコードへのコンパイラー)、ASP.NET Core 5 for Mac、ASP.NET Core 5 for Linuxに対応していることが特長だ。
共通基盤となる「Common」に含まれるのは、64ビット版ランタイムエンジンのRyuJIT(Next Gen JIT)、Compiler as a Serviceとして企画された.NET Compiler Platform、NuGetパッケージとして供給される.NET Framework 4.6 Librariesと.NET Core 5 Librariesなど。使用できるプログラミング言語は、.NET、Node.js、PHP、Python、Javaだ。
ASP.NET 5/.NET Core 5ベースのモダンWebの特長としてハンセルマン氏が挙げたのは、「モジュール化」「クラウドへのシームレスな移行」「オープンソースへの貢献」「迅速な開発スタイル」「エディターや開発ツールの自由な選択」「クロスプラットフォーム」「高速化」の7点。
例えば、オープンソースソフトウエアのOmniSharp(C#用エディタープラグイン)をローカルホストで動作させてキーボード入力を取り込めば、LinuxやMac OS Xの世界で一般的に使われているエディターにもIntellisense並みの予測入力機能を付与できるという。
リージョンごとにサーバー60万台、世界19リージョンでデータを処理
続く基調講演第二部では、日本マイクロソフトの澤円氏(マイクロソフトテクノロジーセンター センター長)がエンタープライズ向けクラウドとしてのMicrosoft Azureについて分かりやすく解説した。
澤氏は、「2020年にはIoT(Internet of Things)でネットにつながるモノが2120億台に達し、そこで生み出される40ゼタバイト(ZB)のデータは、クラウドで処理されることになります」と指摘。「ハイパースケール」「ハイブリッド」「エンタープライズグレード」の三つの特長を持つMicrosoft Azureは、そうした“データの爆発的な増大”にも十分に耐えられるとアピールした。
ハイパースケールな能力の源となっているのは、東日本/西日本を含む世界19リージョン(地域)に設置されたMicrosoft Azureのデータセンターだ。各リージョンには最大16棟のデータセンタービルディングがあり、1リージョン当たりのサーバー台数は最大で60万台にも達するという。澤氏は「この60万台という数は、日本国内で年間に出荷されるサーバー台数のほぼ1.5倍になります」と説明。
また、パブリッククラウド、パートナークラウド、顧客データセンターを一つのプラットフォームとして扱うハイブリッド環境であることも、Microsoft Azureの大きな特長である。稼働環境(.NET 2015)、運用管理のAPIとインターフェース、プログラミングモデルの全てが共通化されているので、システム管理者の育成に要するコストを抑えたり、期間を短縮できるだけでなく、運用コストの増加やビジネス機会の損失リスクも避けられる。
セキュリティとネットワークでもエンタープライズレベルを実現
さらに、Microsoft Azureはエンタープライズレベルの企業がクラウドに求める「セキュリティ」と「セキュア/高パフォーマンス/高信頼性のネットワーク」の二つの条件もきちんとクリアしている。
「マイクロソフトは、世界で2番目に多くサイバー攻撃を受けている組織です」と、澤氏。Microsoft Azureを含むマイクロソフトの製品やサービスには、そうしたさまざまな攻撃の手法や傾向を分析して得られた知見が反映されているだけでなく、米連邦捜査局(FBI)や国際刑事警察機構(ICPO)などの機関と連携して、インターネットそのものを安全にするための活動にも積極的に取り組んでいるという。
例えば、米国のマイクロソフト本社内に2013年11月に設置されたサイバー犯罪研究機関「Cybercrime Center」は、マルウェアに感染しているコンピューターをIPアドレスの単位で調査しているとのこと。同センターの日本の窓口も務める澤氏は、「アジア地域に限っても、この2年間で152万件のマルウェア感染事例を発見しました」と胸を張る。
また、Microsoft Azureデータセンター内のデータについて、マイクロソフトは完全なプライバシーと保護を与えると約束している。同社COO(最高執行責任者)のケビン・ターナー氏のコミットメントを引用するかたちで、澤氏は「いかなる国や行政機関であっても、保管されているデータは一切渡さないことを宣言します。必要であれば提訴も辞さない覚悟です。また、政府や関連団体に対し暗号キーを渡すこともありません」と述べた。
セキュア/ハイパフォーマンス/高信頼性のネットワークとしては、Microsoft Azureとの閉域網(専用線)接続サービス「Microsoft Azure ExpressRoute」(開発コード名“Golden Gate”)が日本国内でも2015年1月15日から利用できるようになった(図2)。
ExpressRouteがインターネット経由の一般的な接続方法と異なるのは、Microsoft Azureデータセンターと顧客データセンターとの間を専用線サービスで直結する仕組みであること。このため、セキュリティレベルや安定性は社内ネットワークと同程度に高く、回線のレイテンシ(遅延)も小さい。
国内のExpressRoute接続パートナーは、インターネットイニシアティブ(IIJ)とエクイニクス・ジャパンの2社。提供パートナーとしては、通信事業者6社とシステムインテグレーター28社が名前を連ねている。
最後に澤氏は「今、マイクロソフトはクラウドに本気で取り組んでいます」とあらためてアピール。オープンソースとコミュニティの世界にも活動領域を広げているMicrosoft Azureをビジネスに生かしてほしいと述べた。
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