アプリ屋がつくった分散ストレージソフトウェア「Scality RING」が普通でない理由:日本法人を設立
スケールアウトストレージソフトウェア「Scality RING」を開発・提供する米スキャリティは3月5日、日本法人スキャリティ・ジャパンを設立した。この製品は他とどう違うのかを、米本社COOに聞いた。
米Scalityは3月5日、日本法人スキャリティ・ジャパンを設立、日本での本格的な事業展開を開始した。国内大手携帯キャリア3社のうち2社が電子メール用ストレージとして採用するなど、すでに国内における販売実績もある。日本法人社長に就任した江尾浩昌氏は、最優先事項として技術サポート体制の充実を挙げている。
ペタバイトレベルのデータがある組織のためのストレージ
Scality RINGは、汎用サーバーを用い、大規模なオブジェクト/ファイルストレージを構築できるソフトウェア。200TB以上のストレージニーズを持つ組織が利用の目安だが、1PBを超えるあたりから同製品の優位性が明確化してくるという。同社は導入事例として、数十PB、数百PBといった規模のデータを管理している組織を列挙している。
用途として、米スキャリティのCOO、アーワン・メナード(Erwan Menard)氏が第1に挙げるのは、大規模メールサービスや、ビデオ配信などのコンテンツサービスにおけるデータ管理。第2に「アクティブ・アーカイブ」があるという。これは、これまで一次ストレージの容量あるいはコストの観点から、バックアップ媒体に移行せざるを得なかったようなデータを一次ストレージにとどめて、分析などに活用することを指す。この用途では、研究機関や諜報機関における導入例があるという。その他、ハイパフォーマンスコンピューティング、Internet of Things(IoT)、企業におけるストレージ統合に使われている。IoT/ビッグデータ関連ではHDFSインターフェイスも提供している。「IoTで本格的に使われるには、まだ時間が掛かるだろうが、製品としては十分準備ができている」とメナード氏は話す。
単独インタビューで、メナード氏に、Scality RINGが他の製品と決定的に違う点は何かと聞いた。同氏は「私たちは、世界中の組織が、少数のクラウドサービスにデータを預けるようになるような状況を考えて製品を開発している」と答え、Scality RINGは次の3点を満たす数少ない製品だと続けた。
第1は「拡張性」のレベル。Scality RINGでは、リング状のメタデータ管理により、分散型のストレージを構成する。この設計でパフォーマンス上のボトルネックを回避するとともに、汎用サーバーをクラスタに追加するだけで、容量を拡張できるようにしている。いずれかのサーバーあるいは記憶媒体に障害が起こっても、クラスタの動作に影響は生じない。「こうしたアーキテクチャを売り物にしている製品は他にもあるではないか」と聞くと、「50PB規模のデータを実際に管理している顧客の数がどれくらいいるかを、(競合ベンダーに)聞いてみてほしい」と答えた。
第2は、ソフトウェアとハードウェアの完全な分離。「(Scality RINGは)標準的なLinux上で、アプリケーションとして動作する。ハードウェア認定はしない。ハードウェアに限定されることは全くない」。これは、ホワイトボックスサーバーを最大限に活用できることを意味するが、ニーズに応じ、ヒューレット・パッカード(HP)のようなベンダーの製品を積極的に採用することもできると、メナード氏はいう。いずれにしても、クラスタを構成するサーバーのベンダーやプロセッサーを統一する必要はない。
第3は、オブジェクトストレージだけでなく、ファイルストレージとしてのアクセスに対応していること。「オブジェクトとしてのデータ管理により、拡張性や高速性を実現しようとする製品は多い。だが、現実には、ファイルストレージとして使いたい人たちがたくさんいる。このニーズは、今後も絶えることはないだろう」。
Scality RINGで特に注目したいのは、単一拠点内だけでなく、世界をまたぐ複数拠点にわたり、単一のネームスペースで、大規模な単一のストレージプールを共有できる点だ。「例えば米国とインドで、CADデータを共有するなどの用途で使われている」。逆に、この製品では「リング」(メタデータ情報)を複数に分けることで、単一の物理ストレージプールを論理的に分割することもできる。
現在スキャリティが開発に力を入れているのも、「グローバルな(複数拠点にまたがる)ファイルシステムとしての機能を高めること」だとメナード氏は話す。この製品は、ファイル単位の排他制御機能を備えているが、2015年末には、よりきめ細かな排他制御を実装するという。また、スナップショット機能の実装も進めているようだ。さらに将来に向けては、遠隔拠点間のレプリケーション、アクセス頻度などに基づく複数拠点間の自動データ再配置といった機能も開発していくという。
「大規模なスケールアウトNASを、しかも地域をまたがる形で運用したいと考える人は多く、ここに膨大な市場機会がある。だから、当社は開発努力の多くをこれに費やしている」
「このストレージを使いこなすのはLinuxエキスパート」
メナード氏は、「この製品は、ストレージの問題で痛い目にあったアプリケーションエンジニアによって、生み出されたものだ。ハードウェアの管理とストレージプールの管理を分離するため、本当の意味での抽象化レイヤを構築するという考えは、ここからきている。このことは、ハードウェアの進化を即座に取り込めるというメリットにもつながっている。新しい記憶媒体が生まれたとしても、われわれにとってはストレージプールの一構成要素にしか過ぎない。また、この製品を使うストレージ担当者は、従来の意味でのストレージ専門家ではなく、Linuxエキスパートであるべきだ。大規模展開には、Saltなどのスキルも求められてくる。テーマは、Cumulus Networksと同じだ」と話している。
スキャリティ・ジャパンの社長に就任した江尾浩昌氏は、通常日本法人ができると、販売ばかりに力を入れるところもあるが、同社では技術サポート体制を整備するという。販売面では、これまで製品を扱ってきたオープンウェーブシステムズ、Zimbra Japan、TwoFiveとの関係を強化するほか、グローバルパートナーである日本HPおよび日本シーゲイトと協力していく。また、国内ディストリビューターとして、ブロードバンドタワーが名乗りを上げている。
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