2025年問題、マイナンバー、改正薬事法――開発者が「唯一の成長市場」ヘルスケア/医療に参入する際の課題とは:ヘルスケアだけで終わらせない医療IT(1)(2/2 ページ)
医療、ヘルスケアに関連したテクノロジビジネスやスタートアップの動向を、エンジニアやビジネスマンに対して紹介するイベント「Digital Health Meetup Vol.2」の講演「医療政策の動向から読み解く、これからの医療・介護業界」の模様からヘルスケア/医療業界に横たわる課題をまとめてお伝えする。
医療業界への参入は「お金の流れ」を知るところから
ここからは、同じくメディキャストの濱中洋平氏が、病院の経営コンサルタントを長く務めた経験から、「市場」としての医療・介護業界の現状について紹介した。現在、医療・介護分野は「唯一の成長市場」と言われている一方で、病院経営が厳しさを増しているといった話も聞かれる。一見矛盾しているこの状況は、どういった背景によるものなのだろうか。
医療・介護分野は「唯一の成長市場」だが
官公庁などが公表する資料を基にした推計では、医療および介護の市場規模は、2000年と比較して、2015年には「約40%」の高成長となっているという。また、国民医療費についても、2000年以来、毎年約3%(約1兆円)ずつ増大しており、2025年には56兆円規模になると見られているという。
「実際に市場に入る金額は増える一方で、それがどこから出て、どのように流れていくのかを把握していなければ、たとえ良い製品を作ったとしてもマネタイズが難しいというのが医療・介護業界の特徴です。それが、他の業界から、医療・介護ビジネスに参入する企業にとっての一つの障壁になっているのではないかと感じています」(濱中氏)
一般的な病院の支出内訳を見ると、人件費に約50%が掛かっている。その他、材料費や減価償却費などがあり、結果的に利益となるのは、収入の約3%程度だという。また、売上は年々上がっているものの、利益として残る金額は大きく変化していないという。
そうした中で、今後増加が見込まれている医師、看護師、介護士に向けた「IT活用」による業務効率化の提案などは、期待できる分野になるのではないかとする。一方で、特に製薬会社などは、広告に対する自主規制などが厳しくなっており「医療関連メディアで、製薬会社から直接広告費をもらうようなビジネスモデルは難しいだろう」という。ただ、前者の場合であっても「今後、医療関係施設の利益率が大きく改善する可能性は低く、その点で施設を相手にしたビジネスというのは簡単ではない」というのが濱中氏の見解だ。
「質」「コスト」「アクセス」の同時成立が求められる「ヘルスケア」市場
その上で、濱中氏は医療・介護を含む「ヘルスケア」の市場を、「自助」「互助」「共助」「公助」の四つのセグメントで考えることで、参入の容易さや資金の流れ方をある程度区別して検討できるとした。
「自助」とは、消費者(患者)個人が自費で行う介護予防や健康維持のためのサービスを扱う市場であり、この分野は「競合は増えるが、他のセグメントに比べれば参入障壁は低くなる」とする。これが「互助」「共助」「公助」へと進むに従い、潜在的な市場規模は小さくなり、法的な問題などから参入余地も少なくなっていく。総合的に見ると「規模は魅力的だが、全体としてみるとマネタイズは難しい」市場になっているという。
濱中氏は、この市場において特にITのノウハウを持つ業界に期待するところとして、医療における「質」「コスト」「アクセス」の良さを、全て同時に成立させるようなサービスや商品を求めているとした。
「医療・介護業界では、この三つを同時に成立させることは極めて難しいと言われています。これをITの力で打破することへの期待は大きいのです。特にアクセスは、拠点と患者、拠点と拠点との物理的な距離の問題であり、インターネットを中心とした距離の隔たりを無意味にする技術によって何らかのブレイクスルーが可能になると思われます」(濱中氏)
また、最後に濱中氏は「個人的な意見」とした上で、医療・介護業界に参入するに当たって「この分野に貢献したいという思いが強いかどうかが重要だろう」と述べた。
「市場としては魅力的に見えるかもしれませんが、今回お話ししたように、実際にその中でビジネスを続けていくためには、忍耐と誠実さが求められる業界でもあります。単なる市場拡大だけを目当てに参入したところで、うまくいくのは難しいということを理解していただければと思います」(濱中氏)
次回は、「医療革命! 医師のIT活用とその未来について」
次回は、「Digital Health Meetup Vol.2」で行われた「医療革命! 医師のIT活用とその未来について」と題するパネルディスカッションの模様をお届けする。
特集:ヘルスケアだけで終わらせない医療IT
IoTやウェアラブル機器の普及で広まりつつあるヘルスケアIT。しかし、そこで集まる生態データは電子カルテや医療で生かされていないのが、現状だ。本特集ではヘルスケア/医療ITベンダーへのインタビューやイベントリポートなどから、個人のヘルスケアだけにとどまらない、医療に貢献できるヘルスケアITの形を探る。
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