2025年問題、マイナンバー、改正薬事法――開発者が「唯一の成長市場」ヘルスケア/医療に参入する際の課題とは:ヘルスケアだけで終わらせない医療IT(1)(1/2 ページ)
医療、ヘルスケアに関連したテクノロジビジネスやスタートアップの動向を、エンジニアやビジネスマンに対して紹介するイベント「Digital Health Meetup Vol.2」の講演「医療政策の動向から読み解く、これからの医療・介護業界」の模様からヘルスケア/医療業界に横たわる課題をまとめてお伝えする。
編集部より
IoTやウェアラブル機器の普及で広まりつつあるヘルスケアIT。しかし、そこで集まる生態データは電子カルテや医療の現場で生かされていないのが現状だ。@IT特集「ヘルスケアだけで終わらせない医療IT」ではヘルスケア/医療ITベンダーへのインタビューやイベントリポートなどから、個人のヘルスケアだけにとどまらない、医療に貢献できるヘルスケアITの形を探る。
初回は、医療、ヘルスケアに関連したテクノロジビジネスやスタートアップの動向を、エンジニアやビジネスマンに対して紹介するイベント「Digital Health Meetup Vol.2」の講演「医療政策の動向から読み解く、これからの医療・介護業界」の模様からヘルスケア/医療業界に横たわる課題をまとめてお伝えする。
社会を構成する人口の「高齢化」によって生まれる諸問題は、日本のみに限らず、世界の先進諸国でも対応を検討すべき課題となりつつある。特に医療やヘルスケアの分野において、IT活用は課題の有効な打開策の一つとなることを期待されている。また、インターネットやデジタルデバイスを活用した効率的な医療サービスの提供や、これまでになかった形のヘルスケアサービスの登場は、ビジネス面でも有望視されている。
2015年4月20日に東京都港区のグリーオフィスで開催されたイベント「Digital Health Meetup」は、まさしくそうした医療/ヘルスケア分野におけるIT活用の今後を占うものとなった。Digital Health Meetupは医療、ヘルスケアに関連したテクノロジビジネスやスタートアップの動向を、エンジニアやビジネスマンに対して紹介するイベント。主催は、グリーグループでベンチャーキャピタル事業を行うグリーベンチャーズ。2015年1月に第1回が開催されており、今回が2回目となる。
開会に先駆け、グリーベンチャーズ代表取締役社長の天野雄介氏は「今回は特に医療の分野にテーマを絞って、業界の現状を知り、今後のビジネスチャンスにつながる切り口がどこにあるのかを考えられるようなプログラムを用意した。ぜひ楽しんでほしい」とあいさつした。
直面する「2025年問題」打開に向けてITに期待されていること
最初のセッションは「医療政策の動向から読み解く、これからの医療・介護業界」と題し、メディキャスト マーケティング事業部の山口聡氏と濱中洋平氏によって行われた。同社は医療/ヘルスケアに関する情報提供や、関連企業へのコンサルティング、同業界に関連するメディアの企画開発を行っている。
山口氏は、国の医療政策の動向を考えるに当たって重要なポイントは「2025年問題」であるとする。この呼称は、日本の全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が30%を超え、団塊の世代の多くが75歳以上の後期高齢者となるのが、10年後の「2025年」であることに由来する。
また、2025年には、65歳以上の高齢者のうち5人に1人が認知症を発症するという予測もあり、このタイミングで「若者世代の負担増」「老老介護、認認介護(認知症患者同士での介護)」など、既存の福祉や医療の枠組みだけでは対応が難しい問題が多発すると見られている。
「地域包括ケアシステム」の課題
こうした「2025年問題」は、特に人口が集中している都市部から顕在化していくと考えられており、国では、まだ健康上の問題が少なく、活動的な精神状態、経済状態にある1940年代後半生まれの「アクティブシニア層」(いわゆる「団塊の世代」)の、地方への移住を支援する政策を推進しつつあるという。
2025年問題によるインパクトを軽減するためには、日本のどの地域、場所に住んでいたとしても、その人にとってふさわしい医療、介護サービスが受けられる体制の構築が急務となる。その体制が「地域包括ケアシステム」と呼ばれるものだ。山口氏は「現状で行われている国のさまざまな政策や施策は、全てこの地域包括ケアシステムの実現に向けて行われているといっても過言ではない」とする。
このシステムの中で、医療サービス提供の拠点となる病院は、その役割がより明確になる。いわゆる「かかりつけ医」が日常の医療を受け持ち、救急や手術などの高度医療が必要な「急性期」には、その機能を持った専門病院が担当する。そして、回復期におけるリハビリテーションなどは、また別の病院が受け持ち、患者を早期退院へと導いていくことになる。
ここで重要になるのは、それぞれの役割を担う医療機関同士、さらには地域行政や介護関連機関との効率的な「連携」だ。
「今後、病院を中心とした医療機関の整理や規模の縮小は進んでいく傾向にあります。そこでポイントになるのは、点在する医療機関、地域行政機関、介護施設といった拠点の距離を、どのように埋めていくかということです」(山口氏)
効率的な連携を実現するためには、いくつもの課題がある。情報共有を行うための書類作成のような事務作業や、利用者やサービス担当者の拠点間移動の効率化。これらによって、少しでも捻出された時間を他の課題に割り当て、例えば、早期退院の推進により在宅での看護が必要になる重症患者への対応を、できる限り周囲の負担が少ない形で実現していくための方法を考えることになる。
「全体での負荷を軽減しつつ、連携を促進して、効率化を目指すという課題に対し、患者と医療関係者の双方で取り組んでいくことが求められます。例えば患者の立場であれば、『症状から、まずどの医療機関にかかるのがいいのか』が分かるような情報をすぐに収集できる環境を整えるといったことも考えられるでしょう」(山口氏)
「マイナンバー」と「改正薬事法」
こうした「連携」を、システム面で手助けするための枠組みも整えられていく。例えば、今年から本格的な運用がスタートする「社会保障・税番号制度」、いわゆる「マイナンバー」もそうした枠組みの一つだ。医療分野については、2018年からの活用開始を目標に、今後その利用方法や、セキュリティの確保をどのように行うかについての議論が進められるという。
その他、山口氏は、特にIT業界に関連の深い政策として、2014年11月に施行された「改正薬事法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」(厚生労働省)に配慮するよう促した。従来の薬事法において、医療関係のソフトウエアは、医療機器としての認定を受けるに当たりハードウエアに組み込まれている必要があった。
改正薬事法では、「医療機器で得られたデータを加工・処理し、診断または治療に用いるための指標、画像、グラフ等を作成するプログラム」および「治療計画・方法の決定を支援するためのプログラム」については、ソフトウエア単体でも「医療機器」の範囲に含まれることになったという。
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