FinTechの要はAPI公開――公開側、利用側、ソリューション提供側が語る、その実践ノウハウとは:特集:FinTech入門(2)(2/2 ページ)
本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。今回は、「API公開・活用・管理」について、マネーフォワードや住信SBIネット銀行、日本IBMの取り組みなどを紹介。日本におけるAPIビジネス拡大の今後を占う。
APIはモバイル・IoT時代におけるデータ活用の要
ベンダーセッションでは、日本IBM システムズ事業部 インテグレーション&スマータープロセス テクニカルセールス 主任ITスペシャリストの石井陽介氏が「API活用最前線 企業のAPIを支える技術」と題した講演を行った。
石井氏は、「APIの数は増え続けており、企業におけるビジネス活用が広がっている。この理由には、API活用によって自社の売り上げ拡大につながる新たなチャネルを立ち上げることと、APIを整備しておくことで他社とのサービス連携を行う際のリードタイム短縮とコスト削減を図る狙いがある」と、企業がAPI活用を進める背景を説明。APIは一般公開されているものが全てではなく、限定公開のAPI、非公開のAPIなどさまざまな種類があり、それぞれ目的に応じて使い分けていく必要があるとした。
また、「APIは、これから迎えるモバイル・IoT時代においてデータ活用の要となる役割を担う」と石井氏。「モバイル・IoT時代では、各種デバイス・センサーなどからさまざまなデータを収集し、そのビッグデータを蓄積・分析して、モバイルデバイスで活用していくことになる。この中で、分析されたデータを、実際にビジネスで使えるようにするためには、APIによるゲートウェイが必要不可欠になる」との考えを示した。
一方で、APIの公開に伴い、企業では「暗号化」「スパイク対応」「認証・認可の仕組み」「仕様公開の方法」「ユーザー管理」「アプリケーション管理」「サポート対応」など、多くの周辺課題が発生すると指摘。こうした課題に対して、日本IBMでは、APIの設計・保護・共有・分析を迅速に実現する包括的なAPI基盤ソリューション「IBM API Management」を提供しているという。
このソリューションは、APIの作成、公開、管理、保護、分析のために必要となる機能を専用のポータルUIで提供する「IBM API Management」と、セキュアでハイパフォーマンスなゲートウェイ・アプライアンス「IBM DataPower」で構成され、クラウド環境でもオンプレミス環境でも利用することが可能となっている。石井氏は、画面イメージを見せながら、APIゲートウェイ、APIマネジャー、開発者ポータル、クラウド管理コンソールといった「IBM API Management」が提供する主要機能について説明した。
さらに石井氏は、API領域におけるIBMのグローバルな取り組みとして、StrongLoopの買収、OPEN API INITIATIVEの推進、API Harmonyの提供、APIクイックスタートプログラム、金融機関向けIBM FinTech Programを紹介。
「このようにIBMでは、セキュアで安定したAPIゲートウェイ、およびオープンで包括的かつ柔軟なAPI基盤ソリューションを提供するとともに、エンタープライズクラスの幅広いニーズに対応できる支援体制を整えている。IBMはAPI領域においても業界をリードし、今後も企業のAPI活用を支援していく」(石井氏)
日本におけるAPIビジネスの拡大へ向けて
セミナーの最後には、「自社データ外部活用の課題と解決策 日本におけるAPIビジネス拡大へ向けて」と題した特別講演が行われた。特別講演には、マネーフォワードの浅野氏、住信SBIネット銀行の吉本氏、日本IBMの石井氏が参加し、これからAPIを公開したいユーザーに向けて、API公開側、API利用側、ソリューション提供側、三者の視点から意見を交わした。モデレーターは@IT編集部 編集長の内野宏信が務めた。
API公開のビジネスインパクト
まず、API公開のビジネスインパクトについて、浅野氏は、「FinTechビジネスは、API公開こそが最も重要なカギだと考えている。FinTechプレイヤーだけが成長するのではなく、銀行がAPIを公開し、外部サービスと連携することで、FinTechプレイヤーと銀行が一緒になってFinTech市場を拡大していく必要がある」との考えを示す。
吉本氏は、「API公開は、銀行にとって大きなビジネスチャンスだ。今までの銀行は、新しいサービスを立ち上げようと思っても、リリースまでに数年かかることも珍しくない。API公開をしておけば、迅速に新たなサービスを開発し、リリースすることが可能になる」という。
石井氏も、「銀行がAPI公開を検討する目的は、売上アップと業務効率化の2つに集約される。このうち、ビジネスインパクトが大きいのは売上アップに向けた取り組みで、当社の案件でも最終的にAPI公開を決断するのは、こちらの方が多い」と、API公開は銀行のビジネス拡大につながるものであると強調した。
APIを公開し、自社データを外部活用する際の三つの技術的課題
APIを公開し、自社データを外部活用する際の技術的課題について、石井氏は、「パフォーマンス、セキュリティ、インテグレーションの3つが挙げられるが、API公開で最もネックになるのがセキュリティである」と指摘する。これに対して浅野氏は、「やはり、API公開に当たってセキュリティを懸念する銀行は多い。しかし、実はAPI公開することで、照会権限と資金移動の権限を分けることができ、逆にセキュリティは向上する」と、セキュリティ課題への見解を述べる。
吉本氏は、「実際にマネーフォワードにAPI公開する際に、セキュリティを不安視する声もあった。ただ、公開範囲は限定的で、アクセスできるのは情報参照と認証のみであり、セキュリティ面での課題はクリアできた」と、API公開は必ずしもセキュリティを低下させるものではないと訴えた。
API公開に当たって組織としてはどう取り組んだらよいのか
では、API公開に当たって組織としてはどう取り組んだらよいのか。
APIを公開する立場として吉本氏は、「金融機関は保守的なので、社内でブレーキがかかることがある。そこで、IT部門だけではなく、コンプライアンス部門やリスク部門と協力しながら、プロジェクトを推進していくことが重要である」と提言する。
「現在、FinTechプレイヤーは、金融機関から敵対視されかねない状況にあると感じている。そこでマネーフォワードでは、API公開をお願いするばかりではなく、あくまで中立的な立場でFinTech業界活性化に貢献するとともに、金融機関との協業展開も積極的に進めている」と、FinTechプレイヤーとしての取り組みを語る浅野氏。
「API公開を技術的に支援するのが当社の役割だが、業種によってはコンサルタントチームもいるので、要望に応じて組織面から技術面まで一気通貫でサポートすることもできる」と、石井氏は、組織面まで含めてAPI公開を支援しているとアピールした。
API公開に向けて最初に何をすべきなのか
最後は、API公開に向けて最初に何をすべきなのかについて。
浅野氏は、「API公開をする以前に、APIを使って何をしたいのか、その目的を設定することが第一である」。吉本氏は、「API公開は手段なので、まずどんなことをしたいかを考えて、その実現のためにFinTechプレイヤーとの提携も含めて具体的なソリューションを検討するべき。その結果として、必要に応じてAPI公開という手段を用いて実現していくのがベスト」。石井氏は、「API公開そのものが目的にならないよう、最初にAPI公開のスコープとビジネス上の目標を明確にすること。そして、その目標に向けて現実的な方法を選んでほしい」と、それぞれの立場から意見を述べた。
次回は、ブロックチェーンについて
本特集の次回は、昨年末に開催された「ブロックチェーンサミット」の模様をレポートする。
特集:FinTech入門――2016年以降の金融ビジネスを拡張する技術
「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を足した造語である「FinTech」。その旗印の下、IT技術によって金融に関わるさまざまな業務や処理を利便化し、ビジネスの拡大を図る動きが国内金融業界から大きな注目を浴びている。大手銀行からスタートアップまで「FinTech」という言葉を用い、新しいビジネスを展開するニュースが相次いでいる。言葉が氾濫する一方で、必要な技術について理解し、どのように生かすべきか戦略を立てられている企業は、まだ多くないのではないだろうか。本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。
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