目指すのはユーザーの身近にマイクロソフトのエンジニアがいる世界:クラウド時代のビジネスを加速する新たなパートナー施策
“クラウドファースト”の時代が到来し、エンドユーザーのニーズは大きく変化した。クラウドに不慣れなシステムインテグレーターやソフトウェア開発ベンダーは、今や窮地に立たされている。そこで、マイクロソフトはパートナー戦略を大きく変革し、パートナーのクラウドビジネスを強力にサポートする体制を整えた。
「マイクロソフト」の壁を越えてクラウド時代のサービスを提供するために
ITの導入や移行について、クラウドを前提として検討する「クラウドファースト」が、多くの企業で一般的になりつつある。企業ITの設計や構築、開発を担うシステムインテグレーターやソフトウェア開発ベンダーにとっても、大きな時代の変革といえる。オンプレミスのシステムだけを手掛け、クラウドに対応できない事業者は、ビジネスの拡大を望めない状況が続くことは容易に想像できる。
このクラウド時代の荒波を乗り越えるには、クラウドサービスをエンドユーザーのニーズやビジネスに最適化したソリューションとして提供する“力”が必要となる。だが、いきなりクラウドビジネスへ転換するのは容易なことではない。技術やソリューションの提案だけでなく、月額課金が基本となっているクラウドは、収益の仕組みもソフトウェアやハードウェアの販売とは大きく異なるからだ。
そうした事業者に対して、長年にわたって技術とサポートを提供してきたマイクロソフトも、この数年で大きくクラウドに舵を切っている。
日本マイクロソフトの米田真一氏(パートナービジネス推進統括本部 プログラムマーケティング本部 本部長)は、「今も、WindowsやOfficeなどのパッケージソフトウェアのイメージが強い当社ですが、Officeを含め、既に多くのプロダクトがクラウドへとシフトし、サービスとして提供されています。同時に、他のオープンソースソフトウェアをサポートしたり、.NETをオープンソース化したりと、マイクロソフト以外の技術に関しても積極的にコミットしています。Microsoft Azureのマルチプラットフォーム対応にも注力しており、Microsoft Azure上で稼働するLinux仮想マシンの割合は3割を超えました。また、2015年11月にはレッドハットとクラウドに関して包括的な提携を結びました」と述べる。
マイクロソフトは、Windowsやその他のマイクロソフト・テクノロジーという“壁”を崩して、さまざまな技術やプレーヤーの参入を受け入れ、クラウドファースト時代へ柔軟な対応を進めているというわけだ。
初めてのクラウドビジネスを成功に導くためのパートナー支援強化
特に重要な点は、こうしたクラウドファースト時代への取り組みが、同社のパートナー戦略にも強い影響を与えていることだ。
マイクロソフトは、旧来のパッケージソフトウェア販売で形成されたピラミッド型のパートナーシップではなく、同社をハブとした「アメーバ状」のエコシステムを形成したいと考えているのだ。ユーザーのニーズに合わせて柔軟に形を変えることのできるパートナーシップこそが、クラウドの時代には必要とされているというわけだ。
日本マイクロソフトの田中啓之氏(パートナーセールス統括本部 ストラテジックビジネス営業本部 本部長)によれば、このエコシステムでは従来のマイクロソフトのエンドユーザーも同社のパートナーになり得るという。
「例えば、今、最も注目されている技術の1つとして『IoT(Internet of Things:モノのインターネット)』が挙げられます。ロボットやセンサーを開発・製造するベンダーは、従来はマイクロソフトのソフトウェアのユーザーでした。これが、IoTの分野でクラウドビジネスを展開することで、当社のクラウドサービスを組み合わせて提供するパートナーとなれるのです。クラウドファースト時代には、これまでは弊社のパートナーではなかった方々を、クラウドをビジネスとすることでパートナーにしていくことが重要と考えています」(田中氏)
そこで、マイクロソフトは新しいパートナー戦略の1つとして「Start Up Microsoft Cloud !!」という取り組みを開始している(図1)。
「『Start Up Microsoft Cloud !!』は、これまでオンプレミスを中心にマイクロソフトのソフトウェアを提供していた事業者はもちろん、これまでマイクロソフトと直接関わりがなかった事業者も積極的に参加できるように、新しくクラウドビジネスを立ち上げたいというニーズに応える施策になります」(米田氏)
この取り組みにおいて、マイクロソフトはクラウドビジネス専門のグループを用意し、メールや電話を中心とした相談窓口も設置している。
前述のように、従来のパッケージソフトウェア販売におけるフロー型ビジネスとは異なり、クラウドビジネスはストック型ビジネスである。ストック型ビジネスには一定のメリットもあるが、短期的な収益の減少など、ビジネスモデルが大きく変化することに対する不安は否めないだろう。
そうしたギャップを埋めるために、単に技術や手法を紹介するだけでなく、ビジネスモデルの立案からマイクロソフトが支援するというわけだ。
Start Up Microsoft Cloud !!によって、クラウドビジネスのスタートを決めたら、「Microsoft Champ プログラム」に参加して具体的なビジネスをはじめることになる(図2。このプログラムでは、エンドユーザーとの商談から実際の開発や導入まで、全てのビジネス活動においてマイクロソフトの支援を受けることができる。
まず、マイクロソフトとパートナーで協業のゴールを設定し、同プログラムの契約を締結することから始まる。これ以降、パートナーはマイクロソフトの社内情報の一部へアクセスできるようになる。これは大きなメリットの1つである。クラウドインフラの開発は非常に急ピッチで進められるため、最新情報をリアルタイムで取得することが重要な意味を持つからだ。
その後、商談情報を共有することで、細かなトレーニングや技術提供、個別の相談や案件の紹介といった支援を受けられるようになる。こうした支援によって商談の成功率を高められると共に、提案力や技術力の向上、ナレッジの蓄積を図ることができるというわけだ。
世界に販路を広げられるソフトウェア開発ベンダー
マイクロソフトでは、独立系ソフトウェア開発ベンダー(ISV)に対しても、大きく門戸を開いていく構えだ。特に、Microsoft Azure上でソフトウェアを提供するベンダーに対しては、さまざまな支援を提供するという。
マイクロソフトでは、2015年7月からGo-to-Market戦略を強化し、アプリケーションやソリューションの営業・販売に強力なサポートを提供する体制を整えている。
その施策の1つが「Microsoft Azure Marketplace」だ(画面1)。ISVは、開発したソフトウェアを直接アップロードし、ユーザーはそれらをネットワーク上で購入できる仕組みである。既に3500以上のプロダクトやサービスがアップロードされ、各種アプリケーションやLinuxディストリビューションなど、マイクロソフト以外の製品も利用できるようになっている。
Microsoft Azureのユーザーはさまざまなアプリケーション/サービスをシームレスに組み合わせて、自由にシステムを構築することができる。システムインテグレーターにとっても同様で、ISVが開発したアプリケーションやサービスを組み合わせて、エンドユーザーのニーズに最適なシステムを構築し、ソリューションとして提供できる。
これこそが、マイクロソフトがハブとなるエコシステムの体現といえるだろう。
日本マイクロソフトの陣内裕輔氏(デベロッパーエバンジェリズム統括本部 ISVビジネス推進本部 パートナービジネス推進部 部長)は、「2016年から、日本のAzure MarketplaceでもISVが直接アプリケーションやサービスをアップロードして、販売できるようになりました。エンドユーザーも、これまでは米国やその他の地域のものしか入手できなかったものが、国産のアプリケーション/サービスを直接購入できるようになったというわけです」と述べる。
これは朗報である。国内のISVにとっては、欧米や中国、インドなど、Microsoft Azureが提供されている世界86カ国のユーザーを顧客として、自社のアプリケーションを販売できるようになるからだ。
さらに陣内氏によれば、日本マイクロソフトでは国内のISVを支援する独自のサポートも推進しているとのこと。その1つとして「マイクロソフト パートナーソリューション デジタル カタログ」が開始された(画面2)。
このWebサイトは、国内のISVがMicrosoft AzureやOffice 365向けに開発したアプリケーションやサービスを紹介するために用意されたもので、詳細をカタログPDFとしてダウンロードができるだけでなく、掲載製品の購入や販売に必要な資料も併せて入手できるとともに、サイトから直接マイクロソフトへの問い合わせも可能だ。キーワードや業種で検索することができ、国内外のアプリケーションが混在しているMarketplaceよりも、日本企業向けの製品を見つけやすい作りとなっている。
「ユーザーやISVだけでなく、販売パートナーにとっても、重要な情報源となると考えています。オープンしたばかりですが、今後もどんどんクラウド対応製品が追加されていく予定です。利用や掲載は無料なので、気軽に利用していただきたいと思います」(陣内氏)
マイクロソフトのパートナー戦略は、クラウドファーストの潮流に合わせて、より幅広く、より強力で、柔軟なものへと変革している。エンドユーザーは、システムインテグレーターやソフトウェア開発ベンダーを通じて、単にマイクロソフトのテクノロジーを利用するだけでなく、さまざまな環境に適した高度なサービスを受けられるようになった。
「私たちのパートナープログラムの最も重要な点は、当社と同等の技術力・ノウハウを持ったパートナーを全国に拡大することです。エンドユーザーにとっては、迅速かつ的確に対応してくれるマイクロソフトのエンジニアが、ごく身近にいるという環境が得られます。そうした世界を、私たちは目指しています」(田中氏)
数十倍もの価値を得られるパートナーのメリット
マイクロソフトでは、「マイクロソフト パートナー ネットワーク(MPN)」という支援制度を設けて、パートナーを強力にサポートしている(図A)。無料で参加できる「コミュニティ」の他、有償の「サブスクリプション」「シルバーコンピテンシー」「ゴールドコンピテンシー」という4つのメンバーレベルが用意されており、それぞれにさまざまな特典が設けられている(図B)。
年会費4万円から参加できるサブスクリプションでも、基本的な技術サポートに加え、Microsoft AzureやOffice 365、Dynamics CRM Onlineといった各種サービスの社内使用ライセンスが提供され、自由に利用することができる(図C)。標準的な費用に換算すれば、360万円分に相当する特典だ。ゴールドコンピテンシーでは、40万円ほどの年会費で3500万円相当の価値を持つ特典を受けられる。
また、クラウドビジネスの専門性を認定する「クラウドコンピテンシー」も2014年から提供されており、メンバーレベルに応じた特典が設けられている。例えば、Microsoft Azureを提供する「Cloud Platformコンピテンシー」のゴールドメンバーであれば、100万円相当の社内使用ライセンスが提供されるとのことで、それだけでも大きなメリットといえるだろう。
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