IoT/クラウド時代に、「ハードウェアの知見」が求められる理由:特集:インフラエンジニアのためのハードウェア活用の道標(1)
激しい市場競争の中で、年々高度化・複雑化しているビジネス要件。これに応える手段として、今「ハードウェアの進化」が大きな注目を集めている。
コモディティ化したインフラだけでは、ビジネス要請に応えられない時代に
2011年、ビッグデータブームのころから、多くの企業にとって最優先課題となり続けている「データ増大への対処」と「データの有効活用」。昨今のIoTトレンドの本格化はそうした傾向に拍車を掛け、「膨大なデータをいかにスピーディに処理するか」「いかに迅速にビジネスに有効なインサイトを取り出すか」というテーマが喫緊の課題となっている。
もちろん課題は「データ処理・分析」だけではない。およそ全てのビジネスをITが支えている今、社外向け、社内向けを問わず、“データをアクションに変える”アプリケーションの重要性が一層高まり、その機能や使い勝手、パフォーマンスが収益・ブランドを左右するほどのインパクトを持つまでになっている。とりわけB to Cの世界では、FinTechトレンドが象徴するように、「これまで考えもしなかったようなITサービス」をスピーディに開発するために、APIを通じて他社サービスと連携するなど、アプリケーションはますます複雑化する傾向にある。
年々増大するデータと、より高度なレベルが求められているアプリケーション――ITのパフォーマンスがビジネスのパフォーマンスに直結している中で、これにどう対応するかはビジネス差別化のカギを握っているとも言えるだろう。
こうした中で、今「ハードウェア」があらためて注目を集めている。例えば「データ処理のスピードアップ」という面で、従来はデータベースチューニングやSQLの見直しなど、ある意味“職人技”が不可欠とされてきた課題についても、フラッシュストレージによって、パフォーマンスの問題を大幅に解決することが可能になっている。大量データを速く加工・蓄積・分析できるコンピューティング環境を構築する上で、GPUやFPGAのアクセラレーションも注目を浴びている。
「ビジネス要請に迅速・確実に応える、より高度なIT」という点では、「目的」に特化したハードウェアも見逃せない。例えばミドルウェアやサーバ、ストレージ、ネットワークも含めて使用目的に最適化したコンバージドシステムや、ストレージ内蔵型のハイパーコンバージドシステムを複数のベンダーがリリースしている。マルチベンダー製品を組み合わせて1つのシステムを作るオープンシステムのアプローチでは、どこか一つを強化すると他の要素がボトルネックとなる「ボトルネックが移動する」問題も考慮しながら、最適な組み合わせを考える必要があった。だがそうした課題も、ハードウェアの進化によってカバーできるようになったわけだ。
だが何より重要なのは、こうしたハードウェアの進化そのものというより、「高度化・複雑化するビジネス要請と、それに迅速・確実に応えられるより高度なITが強く求められている」という背景があることだろう。
例えば、「増大するデータ」や「スピード」への対応策として、第一の解となり得るパブリッククラウドも、全ての要件に対応できるわけではない。自社にとって重要なデータは「セキュリティポリシー上、外に出せない」こともあれば、機能追加・変更などを頻繁に行わないようなシステムの場合、クラウドに移行するとかえってコストがかさむケースが多いという現実もある。こうした観点から、オンプレミスとパブリッククラウドを使い分けるハイブリッド環境や、プライベートクラウドを構築・運用するケースも増えつつある。
すなわち、高度化・複雑化するビジネス要請に応える上では、技術面でも、セキュリティポリシー/コンプライアンスなど社内制度面でも、これまでのようなコモディティ化したハードウェア、コモディティ化しつつあるパブリッククラウドだけでは対応しきれない時代になりつつあり、そうした状況の中でハードウェアが重要性を増すとともに、その目を見張るような進化が注目を集めているというわけだ。
ハードウェアを「気にしない」ままでは、合理的な設計は難しい
だが、ここ数年のクラウドの浸透によって、“ハードウェアを気にしない”傾向が非常に強まっている。例えば開発者なら、仮想マシン上でアプリケーションやミドルウェアが動くかどうかは気に掛けても、CPUやメモリ、ストレージなどハードウェアまでは考慮に入れないケースが多い。さらにクラウドネイティブな若い世代の出現によって、そもそもハードウェア知識を持たないエンジニアも増えつつある。
だが前述のように、ビジネス要件が高度化・複雑化しつつある今、チップ、サーバ、ストレージといったハードウェアまで考慮に入れなければ、期待する機能・性能を発揮するアプリケーションを設計、開発することは難しくなりつつある。
特にエンタープライズにおいて差別化の源泉となるシステムについては、アプリケーションやミドルウェアを根底で支えるハードウェアの知見が、その設計や作り込みの精度、合理性に大きく影響すると言えるだろう。クラウド全盛時代ではあるが、開発・運用エンジニアが「ビジネスに寄与する」上では、ハードウェアの知見も持ち、その進化をキャッチアップしているか否かが大きな意味を持つ状況になっているのだ。
本特集では「なぜ今ハードウェアの知識が求められるのか」、アナリストやエンジニアへの取材によって浮き彫りにするとともに、チップからサーバー、ストレージまで、“ハードウェアの今”を俯瞰する。これを通じて、ソフトウェア中心の知識でインフラを構築してきたエンジニアがハードウェアの知識を身に付け、使いこなすための一つの道標を示していく。ぜひ参考にしてほしい。
特集:インフラエンジニアのためのハードウェア活用の道標
ビッグデータ/機械学習、そしてIoTの潮流により、大量のデータを速く加工・蓄積・分析できるコンピューティング環境を構築するためにGPUやFPGAのアクセラレーションが注目を浴びている。また、Flashストレージ製品は増加し、その特性を理解した上でシステムを構築する利点を訴えるベンダーが多いなど、現在はかつてないほどハードウェアの知識がインフラエンジニアに求められている。一方で「クラウド/仮想化時代にハードウェアの知識なんて必要ない」と思っているエンジニアも少なくないのではないだろうか。本特集では、なぜ今ハードウェアの知識が求められるのかを浮き彫りにし、今までソフトウェアの知識中心でインフラを構築してきたエンジニアが、チップからサーバー、ストレージまで、ハードウェアの知識をいかにして身に付け、活用していくべきかの道標としたい。
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