クラウド時代だからこそ知っておきたいハードウェア動向――今後のストレージ活用で押さえておきたい3つのキーワードとは:特集:インフラエンジニアのためのハードウェア活用の道標(2)(1/2 ページ)
なぜ今ハードウェアの知識が求められるのか。今回は、ガートナー ジャパンの鈴木雅喜氏に、「クラウド時代だからこそ知っておきたいハードウェア動向」「今後ストレージをビジネスで活用する上で押さえておきたい3つのキーワード」について聞いた。
特集:インフラエンジニアのためのハードウェア活用の道標
GPUやFPGAのアクセラレーションが注目を浴び、Flashストレージ製品が増加するなど、現在はかつてないほどハードウェアの知識がインフラエンジニアに求められている。一方で「クラウド/仮想化時代にハードウェアの知識なんて必要ない」と思っているエンジニアも少なくないのではないだろうか。本特集では、なぜ今ハードウェアの知識が求められるのかを浮き彫りにし、今までソフトウェアの知識中心でインフラを構築してきたエンジニアが、チップからサーバー、ストレージまで、ハードウェアの知識をいかにして身に付け、活用していくべきかの道標としたい。
“コスト”の面から見直されるオンプレミスとハードウェアの意義
クラウドの登場は、企業インフラやIT部門の在り方を一変させた。
一昔前までのIT部門は、経営層や事業部門から降ってくる要件を実現するためのシステム構築と安定稼働が主要業務だった。しかし、必要なリソースを必要なとき、臨機応変に利用できるクラウドが登場。「持たざるITでコスト削減」というマーケティングメッセージを追い風に、一気に普及した。それに伴い、IT部門の業務内容はクラウド活用や仮想環境ベースのインフラ設計や提供へと移行。いつしかハードウェアからやや離れた、ソフトウェアやアプリケーションの上位レイヤーでリソースをやりくりすることが増え、ハードウェアよりもソフトウェアの方に知識や技術力が集中、ハードウェアの知見が薄まる兆候さえ見える現場もある。
しかし、ここに来てハードウェアを含めてオンプレミス環境を見直す機運が盛り上がっている。その先頭を行くのが、ストレージだ。
「ファイルサーバを例にとると、ここ3〜4年はクラウドに持っていきたいという顧客からの相談が相次いだが、大半はコスト面で実現を見送っている」
そう述べるガートナー ジャパンの鈴木雅喜氏は、「最近は8TBのディスクが安価に購入できる時代。企業が保有するデータ量が20〜30TB程度とした場合でも、クラウドの月額利用料やシステム構築工数を考えると、実績も信頼性も得やすいオ ンプレミスがいいと判断する流れがある」と指摘する。データが増え続け、今後ビジネスアナリティクスや機械学習などで膨大なデータを扱う場合、オンプレミスの方がコストや転送遅延などで圧倒的に有利だろう。
「最近はファイル共有・転送サービスのDropboxやBoxなど、企業向けにセキュリティ強化機能を提供するところもある。(外部提携企業との共同プロジェクトなど)用途に特化して利用するのであれば有用だが、企業のファイルサーバは、例えば忘年会の写真がアップロードされるなど、大きな“バケツ”として活用されることが多い。何か分からないファイルまでクラウドに移行し、ファイルの数をむやみと増やして、簡単に使えるサービスをわざわざ使いにくくするのは得策ではない」
“ビジネス推進”を目的に据えた上でのオンプレミスとハードウェア活用の意義
このようなクラウドのコスト面での課題に付け加えて、鈴木氏はオンプレミスとハードウェア活用の意義について、“ビジネス推進”を目的に据えることを説いた。
まず、鈴木氏はIT部門が担うべき役割について、2015年7〜8月にガートナーが実施したアンケート調査の結果を踏まえて次のように強調する。「市場を活性化させているのはテクノロジーだが、IT部門はテクノロジーを目的にするのではなく、ビジネス推進を目的にするべき。これからの企業は、デジタルと物理の境界を曖昧にすることで新しいビジネスを創造する『デジタルビジネス』へ移行するとされている。調査でも、7割の日本企業が準備を進めていると回答している」。
また、「5年後にIT部門は、どのような役割を担っているか」という質問で、次の4つに対して回答を求めたところ、全体の4分の3は「1、2、3を少なくとも担うべき」と回答し、半数は「1、2、3と4の一部または全部に深く関わるべき」と回答。1のみとしたのは、回答者の1割にも満たなかったという。
- 従来のIT
- テクノロジーの共通基盤とクラウド管理
- テクノロジー活用とセキュリティに関するガバナンス
- ビジネス部門のテクノロジー活用
調査では、回答者の8割は「IT部門が従来のIT基盤に加えて、テクノロジー活用、クラウド管理、セキュリティに関するガバナンスを担うべき」と考えていることが分かった。IT部門の管理下において、ビジネス部門がテクノロジー活用を進めるイメージだ。また「深く関わるべき」の意味は、IT部門とビジネス部門が連携してテクノロジーを活用することを意味する。
事実、激しい市場競争の中で、ビジネスの要件は年々高度化し、移り変わるビジネス要請にスピーディに応えながら、自社独自の強みを着実に打ち出していかなければ、差別化も存続もままならない状況になりつつある。そのためには、パブリッククラウドのような標準化されたサービスだけでは十分とはいえず、自ずと“自社独自の要件に応えられる、自らコントロールできるITインフラ”が強く求められることになる。今、オンプレミスとそれを支えるハードウェアが見直されていることには、そうした背景があるのだ。
一方で、問題はそうした「攻め」の側面だけではない。ビジネス推進におけるガバナンスの面からも、クラウドからオンプレミスへの回帰が見直されている。
「特にクラウドの登場で、ビジネス部門がIT部門を通すことなくオンラインストレージサービスやSaaSなどを利用する傾向が見られる。このままでは、ガバナンスの効かないシャドーITやサイロ化のリスクが高まり、非効率なだけではなく、セキュリティや信頼性の問題に発展する可能性もある」
「オンプレミスでビジネスニーズをどこまで迅速に吸収できるか」「そのために必要なソフトウェアは何か、ハードウェアは何か」――今、IT 部門が率先して、また主体的にビジネスインフラを検討することが求められている。そして、知見を高めながら、ビジネスを支えるインフラをシンプルかつ安価に管理できる環境を構築することが、 IT部門やインフラエンジニアが担う役割の1つなのだ。
こうしたオンプレミスへの回帰、ストレージ活用を後押しするのが、3つの技術キーワードだ。
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