IBM、“Watson”を使うセキュリティサービス「Watson for Cyber Security」を発表:Watsonが非構造化データから推論
IBMが、セキュリティについて訓練されたWatsonのクラウド版「Watson for Cyber Security」を発表した。高度化するサイバー攻撃対策と、セキュリティ要員のリソース/スキル不足をWatsonの認知技術でカバーする。
米IBMは2016年5月10日(米国時間)、Watsonを使うクラウド型セキュリティサービス「Watson for Cyber Security」を発表した。2016年内にβ版の開始を予定する。
Watson for Cyber Securityは、IBMが推進するコグニティブ技術「Watson(ワトソン)」に関する研究プロジェクトの一環として、特にセキュリティについて訓練されたもの。Watsonは一連の訓練により、セキュリティ研究の細部まで学習を進め、他の方法では見逃されかねない隠蔽されたサイバー攻撃や脅威のパターンや証拠を発見するまでになったという。
昨今、高度化し、脅威が増しているサイバー攻撃に対し、サイバーセキュリティ対策のリソース不足が危惧されている。Watson for Cyber Securityは、「データ」「新たな脅威」「対策の関連付け」を自動化するWatsonのコグニティブ(認知)システムを活用することで、セキュリティアナリストの能力や効率を高めるのが狙いだ。
IBMのセキュリティ研究開発機関「X-Force」の研究ライブラリが、Watson for Cyber Securityの訓練教材の中心を占めることになる。このライブラリには、20年に及ぶセキュリティ研究成果、800万件のスパムおよびフィッシング攻撃の詳細、10万件以上の脆弱(ぜいじゃく)性を解説した文書が含まれる。2016年秋より、カリフォルニア州立工科大学ポモナ校、ペンシルベニア州立大学、マサチューセッツ工科大学、ニューヨーク大学、メリーランド大学ボルチモアカウンティ校、ニューブランズウィック大学、オタワ大学、ウォータールー大学と協力して、より知見を高める訓練プログラムも進める予定とのこと。
IBM Securityのゼネラルマネジャーを務めるマーク・ヴァン・ザデルホフ氏は、Watson for Cyber Securityのリリースの背景と意義について、「2020年までにサイバーセキュリティ分野で150万人の求人があると推計されている。仮に業界がこれだけの人員を雇えたとしても、セキュリティスキルに関しては危機的な状況に陥るだろう。今後、セキュリティに関するデータが生成される量および速度の伸びは、サイバー犯罪に対処していく上で最も厄介な問題の1つだ。膨大な非構造化データにコンテキストを与えることは人手だけではもう不可能。しかし、Watsonならば可能だ。われわれはこのWatsonの能力を利用して、新しいインサイトや助言、知識をセキュリティ専門家に提供していく。これは上級レベルのサイバーセキュリティアナリストによる分析のスピードや精度の向上につながり、駆け出しのアナリストのOJTに役立つ」と説明している。
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