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「ヒューマンエラー」は個人の責任ではない「セキュリティ心理学」入門(5)(2/3 ページ)

人間にまつわるセキュリティを考える本連載。今回のテーマは「ヒューマンエラー」です。個人の意識だけに原因を求めてもうまくいかないヒューマンエラー対策について考えます。

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人は集団になると力を抜く

 ただし、複数人で対応しても、必ずしも1人のときより良い結果になるとは限りません。これはエラーに関するものではないのですが、フランスの研究者マクシミリアン・リンゲルマン(Maximilien Ringelmann)が行った興味深い実験があります。リンゲルマンは、被験者に1人、2人、3人、8人と順にチームを組ませてロープを引かせ、それぞれのケースで、被験者がロープを引く力を測定しました。

 結果は、図表4に示す通りです。1人で引いたときの力を100%としたとき、2人で引くと各人が93%しか力を発揮せず、3人のときには85%、そして8人では49%にまで落ち込むことが分かりました。

被験者数(人) 1 2 3 8
各人の割合(%) 100 93 85 49
図表4 リンゲルマン効果(出典元:『リンゲルマン現象と社会的手抜き』、小窪 輝吉、一部編集)

 つまり、集団が大きくなればなるほど、「他の人が何とかしてくれる」と思い、人は手を抜いてしまうというわけです。これを社会心理学の世界では「リンゲルマン効果(Ringelmann Effect)」と呼んでいます。「社会的手抜き」や「タダ乗り(フリーライド)」などと呼ばれることもあります。

 ヒューマンエラーには「組織的な対応」が不可欠ですが、同時に、組織の人数が増えると“手抜き”などが発生することには注意しておく必要があります。

ヒューマンエラーへの対応――「教育」「訓練」「動機付け」

 それでは、ヒューマンエラーを防ぐ対策にはどのようなものがあるでしょうか? 組織的な対策の1つとして考えられるのが、「教育」「訓練」「動機付け」などの取り組みです。

 図表5は、ヒューマンエラー対策を「教育」「訓練」「動機付け」の観点から見たものです。図表5にある通り、これらの取り組みは、ある“標準”などのルールを「知らない」「できない」「守る気がない」人が引き起こすヒューマンエラーに対して有効です。これにより、ヒューマンエラーの被害をある程度軽減することができます。

図表5 ヒューマンエラーに対する教育・訓練・動機付けについて
図表5 ヒューマンエラーに対する教育・訓練・動機付けについて(出典元:『人間信頼性工学:エラー防止への工学的アプローチ』、中條武志、一部編集)

 ただし、図からも分かる通り、「ルールの全てを理解し、遂行することができて、守る気もある人」が、それでもエラーを起こしてしまう場合については、残念ながら教育などは効果がありません。

 これに対しては、教育などの対策に加えて、「作業環境を整えること」が重要です。従業員の集中力を奪ったり、見逃し/見間違いを誘ったりするような作業環境は、ヒューマンエラーを減らす上で望ましいとはいえません。例えば、「電話対応や顧客対応を行う場所と作業場所が同じ」といった作業環境では、ヒューマンエラーが発生する危険性が高まってしまいます(実際そのような環境で事故が起きています)。教育や訓練などを補うものとして、作業環境の整備を行うようにしましょう。

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