NECのAI技術は、「世界」に通用するか:松岡功の「ITニュースの真相、キーワードの裏側」(2/2 ページ)
米国勢がリードしていると言われるAI(人工知能)分野で、画像認識技術などに強みを持つNECが世界市場での躍進を虎視眈々(たんたん)と狙っている。果たして同社のAI技術は世界に通用するか。
データ、情報、知識、そして知性の領域に近づくAIへ
では今後、NECはさらなるAI技術の活用に向けてどのようなことを考えているのか。山田氏は図3を示しながら次のように説明した。
「AI技術の方向性として、青色の矢印がまさしく今取り組んでいるプロセスを描いたものだ。ゴールが定まった問題に対して、AIを活用することで圧倒的な効率化を目指している。それとともに、赤色の矢印が示す、“ゴールが1つに定まらない問題”に対しても、多様な視点から考える能力を高めて知性のレベルにまで高度化を図る。それが、人とAIが協調するということだと考えている」
この図3では、横軸で表されたデータ処理の流れとともに、縦軸にあるデータの変化に注目してもらいたい。この意味とNECの取り組みについては、2015年11月に遠藤信博会長(当時、社長)が自社イベントの基調講演で語った内容が非常に印象深かったので、以下に記しておきたい。
「多種多様な“データ”をたくさん集めて分類すると、“情報”になる。その情報を分析すれば、“知識”になる。知識によって、情報のさまざまな因果関係を見いだすことができる。そして、これまで分からなかったことが分かるようになってくる。この知識を活用することがAIの最初の段階である。機械学習の技術などによって、今、まさにそれが実現できるようになってきている」
さらに同氏はこう続けた。
「知識に対応するところまで発展してきたAIを、最終的には“知性”の領域にまで近づけたい。ただし、知性は人間特有のもの。知識を向上させるだけでなく、倫理観も必要なことから、AIが知性を持つまでにはまだ高いハードルがある。そこで、知識の分析力を磨くことで予測の確度を高め、人間がさまざまな判断を行う際に的確な知識を提示できるようにしていきたい。それがひいては、知性の領域に近づくAIの実現につながると私たちは考えている」
NECのAI技術への取り組みは、この考え方がベースになっている。
IT担当者はどう向き合うべきか:“システムの最適化”が、AIの本質
では、IT担当者、技術者、そしてトップ層は、AIについてどう考えていくべきか。
山田氏は、「AIは現在、ICTの中でも何か特別な技術のように受け止められがちだ。しかし私は、以前からIT部門に対して言われている“システムの最適化”が、実はAIの本質だと考えている。従って、AIは今後さまざまなシステムに組み込まれていく技術であり、そして、特別に構えることなく向き合えばいいと思う。当社のAI技術が多くの皆さんに注目され、必要とされ、活用していただけるように今後も尽力していきたい」と語った。
山田氏の見解に全く同感である。筆者もAIはICTの進化における必然の方向だと考える。だからこそ、現在のところ米国勢がリードしていると言われるこの分野で、日本勢も世界で活躍する企業や研究機関がどんどん出現してほしい。NECにはぜひその先陣を切ってもらいたいものである。
筆者
松岡功(まつおか いさお)
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。Facebook
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- IBMがWatsonを「AI」と呼ばない本当の理由
「コグニティブコンピューティング」と呼ぶAI(人工知能)領域のテクノロジーに注力するIBM。だが、同社はAIという表現を使っていない。その背景を探る。 - 第191回 AIブームがやってきた?
将棋や囲碁の対戦でコンピュータが勝利するなど、人工知能(AI)に関する話題が新聞をにぎわせている。さまざまな分野での応用が発表され、1980年代に続く、AIブームを巻き起こしている。はてさて、今度のAIブームはモノになるのだろうか? - 人工知能の歴史と、グーグルの自動運転車が事故を起こさないためにしていること
本連載では、公開情報を基に主にソフトウエア(AI、アルゴリズム)の観点でGoogle Carの仕組みを解説していきます。今回は、ロボットの思考と行動のサイクルのうち「行動計画の立案」と「計画した動作の実行」について解説。最後に人工知能の歴史も。