オラクルは、なぜ「Oracle Cloud Machine」を投入したのか:松岡功の「ITニュースの真相、キーワードの裏側」(1/2 ページ)
オラクルが、自社の“パブリッククラウド”サービスをユーザー企業内で利用できるようにした「Oracle Cloud Machine」を市場投入した。クラウドサービスを“箱”で提供する奇策にも見えるが、どうやら同社にはしたたかな野望があるようだ。
この連載は……
近年、さまざまな技術トレンドが注目され、ニュースとして盛んに取り上げられています。それらは社会、企業に対してどのようなインパクトを及ぼすのでしょう。ベンダーを中心としたプレーヤーたちは何を狙いとしているのでしょう。
それらのニュースから一歩踏み込んで、キーワードの“真相”と“裏側”を聞き出す本連載。今回は「Oracle Cloud Machineの真意」を取り上げます。
Oracle Cloud Machineは「パブリッククラウドサービスの新形態」
「オラクルはこれまで高速データ処理専用機をはじめ、各用途に最適化した“エンジニアドシステム”と呼ぶ統合システム製品(アプライアンス)をオンプレミス向けに提供してきた。一方で、ここ数年は、IaaS(Infrastructure as a Service)/PaaS(Platform as a Service)/SaaS(Software as a Service)の全てをカバーしたパブリッククラウドサービスにも注力している。今回、市場投入した“Oracle Cloud Machine”は、その両方のユーザーメリットを併せ持つ、当社ならではの“サービス”として広く利用していただけると確信している」
表題の疑問にこう答えてくれたのは、日本オラクル 執行役員クラウド・テクノロジー事業統括Fusion Middleware事業統括本部長の本多充氏である。今回は、日本オラクルが2016年4月下旬(米国本社では3月下旬)に発表した「Oracle Cloud Machine」に焦点を当て、そのユニーク性とともに、オラクルがこの新サービスに込めた野望を探ってみたい。
オラクルのパブリッククラウドサービス「Oracle Cloud」を、“ユーザー企業内”で利用可能にしたOracle Cloud Machineは、見た目こそハードウェアだが、中身の機能をサブスクリプション制で利用できるようにした、れっきとした「サービス」である。この独自の形態について、日本オラクル 取締役 代表執行役社長兼CEOの杉原博茂氏は発表会見で、「パブリッククラウドサービスの新しい形態」と表現した。
具体的には、ハードウェア、ソフトウェア、クラウド管理、サポート、IaaSを月額料金で提供するとともに、Oracle DatabaseやJava開発環境などのPaaSを定額または従量課金で提供。Oracle Cloudとの完全な互換性を備えつつ、オンプレミス(プライベートクラウドを含む)環境で利用できるようにしたものである(図1)。
既存システムの“モダナイゼーション”を支援
では、Oracle Cloud Machineにはどんなユーザーメリットがあるのか。本多氏は「セキュリティ」「運用・管理」「ネットワーク」の3つのキーワードを挙げて、次のように説明した。
まず、セキュリティについては、“自社内/自社データセンター内”にOracle Cloudを導入できるということで、パブリッククラウドの利点を享受しながらも、「データが自社ネットワークの外に出ないよう管理できる」のが大きなポイントだ。例えば、金融業や公共機関では法制度上、データを外部へ持ち出すことが規制されている。一般的なパブリッククラウドでは、社外のネットワークに出てしまう。それに対し、Oracle Cloud Machineのサービスの仕組みならば、機密データを手元に置いたまま、クラウドサービスを利用できるようになるというわけだ。
なお、ハードウェアも含めて運用と管理についてはオラクルが担当するため、ユーザー企業は自社内に設置したマシンにおいてもOracle Cloudと同様の操作性や利便性を享受し、常に最新の機能を使用することができる。さらに、オンプレミスとクラウド間のハイブリッド利用についても、同一のツールセットやAPIを用いてワークロードの可搬性を実現したり、変化するビジネス要件に基づいて、オラクルおよびオラクル以外のワークロードを容易に移動することができる。
そしてネットワークについては、自社ネットワーク内にマシンがあるので、物理的な通信遅延の課題を解消できることに加えて、その間においてはネットワーク課金も発生しなくなる。また、既存のシステム資産も有効に活用しやすくなる。本多氏によると、2016年現在は既存のシステムと連携する要件が多岐にわたることから、ネットワークダイレクト接続が行えるメリットを重視するユーザー企業も多いという。
こうしたユーザーメリットをもたらすOracle Cloud Machineの利用形態を描いたのが、図2である。この図から、多種多様なアプリケーション連携が図れたり、既存システムとの連携や拡張性、さらにはハイブリッド利用によって幅広い用途に適用できることが分かる。
本多氏はこの利用形態について、「既存システムとの連携や融合を図ることができるので、新サービスの導入を機にクラウドへの移行をにらんで“モダナイゼーション”に取り組むケースも見受けられるようになってきた」という。さらに、「日本の企業においてモダナイゼーションのニーズは、まだまだ非常に大きなものがある。新サービスでそのニーズにお応えできるようにしていきたい」とも語る。
確かに、Oracle Cloud Machineで既存システムを生かし、“モダナイズ”できるとなれば、グローバルと比較してとりわけクラウド化に慎重な日本の企業にとっては非常に大きなメリットになりそうだ。
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