CiscoのDNAに生まれ始めた「オープン」の遺伝子:キーワードは「セキュリティ」と「オープン」(1/2 ページ)
サーバやストレージに比べ、仮想化やオープン化、プログラミングによる自動化といった分野で取り残されがちだったネットワーク。シスコはその状況を変えるため、自ら変わろうと試みている。
「Infrastructure as Code」といった言葉が広がる中、ネットワークは長らく“取り残された領域”という扱いを受けてきた。サーバやストレージといったリソースで仮想化が進み、ソフトウェアを用いた柔軟なプロビジョニングなどの制御ができるようになった一方で、ネットワークを構成するルーターやスイッチ機器は、ハードウェアとソフトウェアを垂直統合したプロプライエタリな製品で占められてきた。
最近でこそ、ホワイトボックススイッチ(ベアメタルスイッチ)とネットワークOSの組み合わせが注目を集め始めているが、それもまだ一部の先進的な企業での採用が始まった段階に過ぎない。ChefやPuppet、Ansibleといったインフラ自動化ツールや、OpenStackをはじめとするクラウドオーケストレーションのためのツールを用いて、サーバやストレージと同じようにネットワークを制御する方法を模索し続けているのが現状だ。
このように、インフラ全体をオープン化し、プログラム可能な形を目指そうとする潮流が強まる中、どちらかというと消極的な印象を持たれがちだったネットワーク業界と米シスコシステムズ(シスコ)だが、同社は2016年7月に開催した「Cisco Live 2016」において、ネットワークにはプログラマビリティが必要であると明言し、開発者向けのさまざまな取り組みを紹介した。
「Cisco DNA」を特徴付ける2つのキーワード
シスコでは企業のデジタルトランスフォーメーションを支える基盤としてネットワークを位置付けている。同社のCEO チャック・ロビンス氏は、企業がデジタルトランスフォーメーションを加速し、新たな価値を生み出す基盤として、セキュリティや自動化といった要素を備える「デジタルレディネットワーク」が必要だと解説。それを具現化する存在として「Cisco Digital Network Architecture(DNA)」の強化を発表している(関連記事)。
Cisco DNAには幾つかのコンセプトがあるが、中でもロビンス氏が強調したキーワードが2つある。1つは、後付けでなく初めから組み込まれた「セキュリティ」。もう1つが「オープン」だ。
これまでのシスコのアプローチからすると意外にも思えるが、今回のイベントで同社は、各種APIやツールを公開し、開発者コミュニティと協調しながら「プログラム可能なネットワーク」を実現していくという姿勢をさまざまな場面で示した。
もちろん、「より多くの帯域やデバイスを扱う以上、ハードウェアの力はまだまだ必要だ」(ロビンス氏)。ただ、これまでにない革新的なアプリケーションを実現し、トランスフォーメーションを加速するには、「ハードウェアとソフトウェア、双方のバランスを取った、よりオープンでシンプルなネットワークが必要だ」(同氏)という。
シスコのネットワーキングおよびセキュリティ事業担当シニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャ、デビッド・ゴックラー氏は、「デジタルトランスフォーメーションを実現するには、ネットワーク業界自体のトランスフォーメーションも必要だ。Cisco DNAによって、真に柔軟で、オープンで、プログラマブルなネットワークを実現する」と述べている。
また、エンタープライズインフラストラクチャならびにソリューショングループ担当シニアバイスプレジデント、ジェフ・リード氏は「Cisco DNAでは、顧客やパートナーが活用可能なオープンなAPIを提供する。これによってさまざまな洞察を得ることができ、アジリティやセキュリティも実現できる」と述べた。
「過去、ネットワーク担当者とソフトウェア担当者は別々に分かれており、仲もそんなに良くなかった。それが自動化やプログラマビリティによって大きく変化しようとしている。ネットワークもソフトウェアも分かるインフラエンジニアによって、バリューチェーンが構築されるだろう」(リード氏)
開発者会議のような雰囲気を醸し出した「DevNet」コーナー
そうした言葉を裏打ちするように、Cisco Live 2016の会場には「DevNet」コーナーが設けられ、大きなスペースが割かれていた。PythonやRuby on Rails、GitHubにPostmanといったツールを活用し、開発手法を学ぶワークショップが連日開催され、まるでアプリケーション開発者会議のような雰囲気を醸し出していた。
シスコは既に、さまざまなアプリケーションからREST APIを介してソフトウェアやハードウェアを活用できるよう、複数のAPIを公開しているという。
ネットワークを制御するAPIC-EMやNETCONF/RESTCONFにはじまり、同社のビジネスコミュニケーションツール「Cisco Spark」の他、「Cisco Jabber」や「Cisco Tropo」といったコラボレーションツールを活用できるAPI、またコンタクトセンターと連携したり、クラウドベースの無線LANアクセスポイント「Cisco Meraki」の位置情報を取得したり、InfoBloxの脅威インテリジェンス情報を活用したりできるものまで、その範囲は非常に幅広い。シスコはこれらを通じて、クラウドとネットワーク、セキュリティをプログラム可能なものにしていくという。
DevNetの会場では、これらのAPIの活用法も紹介された。例えば、ロケーションAPIを活用してアクセスポイントからリアルタイムに情報を収集し、「今、何台のデバイスが接続されているか」「障害が起こっている端末はどれか」を確認したり、BGPの経路情報をグラフィカルに表示するインタフェースを提供するといったものだ。
中でも最も印象的だったのは、AR/VRを組み合わせてコラボレーションを行うためのフレームワーク「EVAR(Enterprise Virtual and Augmented Reality)」の活用例だ。会場では、本社エンジニアと地方拠点の担当者が3Dディスプレイを装着し、目の前にある機器の状況をネットワーク経由で共有することで、リアルタイムに状況を把握しながらリモートメンテナンスを行うデモンストレーションが実施された。これが活用できれば、ラインカードの交換やポートへの接続といった作業を進めるのに、電話などで“もどかしく”指示する必要がなくなる。
シスコのバイスプレジデント兼CTOのスージー・ウィー氏は「これらは単に技術上の問題を解決するだけでなく、サービスの品質や顧客満足度を向上させ、ビジネス上の問題を解決することができる」と述べている。
またウィー氏はDevNetの次の段階として、「IoTやAR/VR、ボットといったテクノロジーとの連携によって、さらに可能性は広がる」と説明した。同氏は、Sparkを介してボットと対話しながら、さまざまなセンサーを備えた電車の模型を制御するデモンストレーションを紹介し、「APIを介してさまざまなものをデジタル化できる。DevIoTを通じて、本当の輸送機関やビル、製造ラインなどをコントロールすることも可能になる」と述べた。
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