子どもは絵本やダンスでプログラミングの考え方を身に付ける〜『ルビィのぼうけん』ワークショップレポート:特集:小学生の「プログラミング教育」その前に (2)(1/2 ページ)
政府の新たな成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され多くの議論を生んでいる。本特集では、さまざまな有識者にその要点を聞いていく。今回は、プログラミングの考え方を身に付けられる絵本『ルビィのぼうけん』に関するワークショップイベントの模様をお伝えする。
特集:小学生の「プログラミング教育」その前に
政府の成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され、さまざまな議論を生んでいる。そもそも「プログラミング」とは何か、小学生に「プログラミング教育」を必修化する意味はあるのか、「プログラミング的思考」とは何なのか、親はどのように準備しておけばいいのか、小学生の教員は各教科にどのように取り入れればいいのか――本特集では、有識者へのインタビューなどで、これらの疑問を解きほぐしていく。
今回は、プログラミングの考え方を身に付けられる絵本『ルビィのぼうけん』に関するワークショップイベントの模様をお伝えする。
世界的なベストセラーになったプログラミング絵本
2016年7月30日、「親子のための『ルビィのぼうけん』ワークショップ」(共催:翔泳社、CA Tech Kids)がTech Kids School東京渋谷校で開催された。『ルビィのぼうけん』とは、フィンランドの女性プログラマー、リンダ・リウカス氏が創作した絵本『ルビィのぼうけん こんにちは!プログラミング(原題: Hello Ruby)』(翔泳社刊:鳥井雪 訳)のこと。クラウドファンディングのKickstarterを利用して38万ドルの資金を調達し、3年かけて出版にこぎ着けると瞬く間に世界的なベストセラーになった絵本だ。現在、19カ国で販売されている。
内容は、好奇心旺盛な女の子「ルビィ」が、宝石集めを通して、プログラミングに必要な考え方に触れていく物語。絵本の後半には「自分でやってみよう!」という練習問題があり、物語に登場したプログラミングの考え方をゲームのように実践できる作りになっている。
例えば、ルビィは「こうしなさい」と言われるのが嫌いだ。「学校に行くからお洋服を来なさい」とパパに言われると、パジャマの上から服を着て「まずパジャマを脱ぎなさいなんて言わなかったじゃない」とパパを困らせてみせる。また、「おもちゃを片付けなさい」と言われると、ぬいぐるみやブロックは片付けるのに鉛筆は片付けないで床に置いたままにする。そして「鉛筆は、おもちゃじゃないものね」とシシシと笑ってみせる。
子どもっぽいこうしたいたずらも、よく考えると「シーケンス(順番に並んだ命令)」や「パターンの分類」につながっていることに気付く。実際に後半の練習問題では、これらについて「ご飯を順番通りに食べるにはどうしたらいいか」「ルールに沿って服を着せ替えるにはどうしたらいいか」などと楽しみながら体験できるようになっている。
なお、主人公のルビィはプログラミング言語「Ruby」にちなんでいる。この他、“スパゲティが大嫌い”な「ペンギンたち」や、“パイソンという名のヘビのペット”を飼っている少年「ジャンゴ」、“禅とヨガ”が好きな「雪ひょう」、“お菓子作り”が好きな「ロボット(アンドロイド)たち」、植物のタネと一緒に“虫”も育てる「きつねたち」などが登場する。プログラミングの世界を知る大人が呼んでもクスリと楽しめる仕掛けがちりばめられている。
ワークショップには、著者のリウカス氏自身が来日するとあって、絵本の愛読者を中心に5〜9歳の子どもたちが集結。25組50人の親子がリウカス氏と共に体を動かしながら練習問題に取り組んだ。
イベントの後半では、CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏やリウカス氏による大人向けの講演とTech Kids Schoolによる子ども向けのScratchワークショップが同時に開催された。
ワークショップで「プログラミングに必要な考え方」を学ぶ
まずは、2時間にわたって行われたワークショップの内容から紹介しよう。
「フィンランドには皆さんもよくご存じのキャラクターがいます。そう、ムーミンです!」──ワークショップは、リウカス氏のそんな弾けるような第一声で始まった。続けて、フィンランドという国がどこにあるのか、子どもたちはどんな暮らしをしているのか、リウカス氏自身がなぜ絵本を書いたのかなどを語りかけるように説明していった。
フィンランドは、学力テストがないことや大学までの無償教育を行うことなど教育先進国として知られる。また、2016年8月からは小学校でのプログラミング必修化がスタートするなどプログラミング教育先進国としても注目を集めている。『ルビィのぼうけん』は、そうした中でも、「楽しみながらプログラミングに必要な考え方が学べる教材」として高く評価されているようだ。日本国内でも、Ruby開発者のまつもとゆきひろ氏をはじめ、この絵本の内容に対し多くの賛同者がいる。
実際、ワークショップでリウカス氏が子どもたちに問い掛けると、あちこちから手が上がり、率先して練習問題に取り組む姿勢が見られた。
ダンスでループ処理を体感する
最初の練習問題は、「ダンス、ダンス、ダンス!」だった。これは、絵本では、88〜89ページの「れんしゅう12:ループ」に当たる部分だ。
この練習問題では、まずホワイトボードに、「手をたたく」「足ぶみ」「ジャンプ」「まわる」「キック」という色分けされたカードが貼り付けておく。次に、上から下に向かってカードを並べ変える。そして、その指示の通りに、皆で体を動かして一緒にダンスを踊る。上から下までダンスしたら、また上に戻って繰り返すことがループというわけだ。
子どもたちは指導員のスタッフと共に、カードの組み合わせを変えたり、ループの回数を変えたりする。複雑なダンスを踊ることで、楽しみながらループの考え方を身に付けていくことができる。さらに、「何をしたらループが始まるか」「何をしたらループが終わるか」といったルールを決めることで、条件分岐につなげることもできる。子どもたちの中には、カードを横に2枚並べた上で「まわりながら手を叩く」「ジャンプしながらキックする」といった“並列処理ダンス”を楽しんでいたグループもあった。
TPOに合わせたコーディネートで条件分岐を学ぶ
続いて行われたのは、「ルビィのおしゃれのルール」だ。これは、絵本では、96〜97ページ「れんしゅう16:作り出す力とプログラマーらしい考え方」に当たる部分だ。条件分岐を洋服の着せ替えで表したゲームで、例えば、「雨の日には、ルビィは何を着ればいい?」という設問に対して、「もし雨降りなら、そのときは{長靴とカッパ}を着る。そうでなければ{ワンピース}」と答えるようにする。{〜}内に着せ替えのパーツを当てはめることで楽しみながら条件を考えられる。
同じように、「海に行くには何を持っていけばいい?」「冒険の日にはどんな用意がいる?」「気分が良くないときには何を着ているのがいいかな?」といった問い掛けを行い、条件とそれに適した服の選択を行うことを自然に学ぶことができる。逆に、先に服を選んでおき、その服に合った条件を皆で考えるといった遊び方も可能だ。目で見て手で触れる着せ替えゲームにすることで、コンピュテーショナルシンキングを体感できる。
リウカス氏は「場合分け(条件分岐)は、どこでも発見できます。例えば、もしも電子レンジがスタートボタンを押されたならば、食べ物を30秒間温めます。もしも、あるフロアでエレベーターが上/下に行くボタンを押されたならば、そのフロアにやってきます。コンピュータには、どんなときに何をするかを教えてあげる必要があるのです」とまとめた。
日常生活をフローチャートで考える
次に行われたのは「こまったこと」。これは、絵本では104ページの「れんしゅう20:デバッグ(バグつぶし)」の部分だ。ループや条件分岐で学んだ一連の動作の中で何か間違いが発生した場合にどうするかをフローチャートで考える練習問題だ。
例えば、「はじめ」→「おさらを並べる」→「スプーンをならべる」→「おたんじょう日ケーキをテーブルにのせる」→「テーブルクロスをひろげる」→「おわり」という順番だった場合、間違いを見つけ、正しい順番に並べ替える。この場合はテープルクロスを広げるのを先にすることになる。
最後に子どもたちが取り組んだのは、「設問もルールも自分で考えてプログラミングすること」。「発表したい人は?」というリウカス氏の呼び掛けに対し、ある子どもは「歯磨きのプログラム」として「上の歯」「下の歯」「奥歯」「前歯」を手順通りに磨き、最後に「うがいをする」といった一連の動作を発表。リウカス氏から「もう立派なプログラマーです」と太鼓判をもらっていた。
続いて行われたリウカス氏の講演では、リウカス氏が絵本に込めた思いが披露された。
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