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元三井物産情シスの「挑戦男」、黒田晴彦氏が語るAWS、情シスの役割、転職の理由独占ロングインタビュー(3/3 ページ)

三井物産で、IT推進部の副部長およびチーフITアーキテクトを務めてきた黒田晴彦氏が転職した。@ITではこれまで数々の最新IT技術にチャレンジしてきた同氏に、情報システム部のあり方や、今後やろうとしていることについて聞いた。

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なぜ、デル日本法人の最高技術責任者になったのか

――デルに転職した理由は何なのでしょう?

黒田氏 2015年にデルの本社を訪問した際、そこで見たことと、デルの日本におけるイメージとのギャップに、大変驚きました。デルは面白い会社だなと思いました。他の米国IT企業の本社を訪れたことは何度もありますが、ここまでのギャップを感じたことはありません。

 これまで、私はサーバにOSを載せて動かしてみると、思った通りに動かないという経験を、たくさんしてきました。これはソフトとハードの境界の問題であるため、ユーザーが自らの責任で、自ら納得のいくまで事前検証を重ねるしかないと思っていました。

 ところがデル本社で見たことは、「Windows Serverが確実に動き、高いパフォーマンスを発揮するためにはどうしたらいいか、そのためのハードウェア、BIOS、ドライバはどうしたらいいか」を、担当者から幹部レベルまで、長年マイクロソフトと一緒になって、非常に丁寧にやっている。「最終ユーザーにとってプラスになることは何か」を議論しているわけです。マイクロソフトとだけではなく、他のOSベンダーとも同じようなことをやっています。そこで、「ハードウェアベンダーが、これほどまでにユーザーのメリットを考えてやっている」ということが、非常に面白いと思って帰ってきました。

 日本では、デルがこうした努力を重ねていることが、全く知られていません。

 その後、話を聞くほど、マイケル・デルと、彼の経営するデルは面白いと思うようになりました。デルが上場を廃止した理由も、四半期ごとの結果よりも、5年後、10年後に会社としての価値を高めることを目的とした経営のためです。トップから現場まで、顧客にとって何がいいのかを考えて実行し、それによって評価される会社になろうと真剣にやっています。

 面白いと感じるほど、「日本で知られていないことがもったいない」と思うようになりました。日本のユーザーはこれで損をしているのではないか、そうであれば、「選択肢の1つとして、デルという企業があるのだ」ということを、知ってもらう役割を果たす人が必要なのではないかと考えるに至りました。

 一方、米デルの幹部に「日本企業と一緒に新しい価値を生んでいるようなケースはあるか」と聞くと、「あまり聞いたことがない」と言われました。つまり、せっかくグローバルに展開しているデルのような組織があるのに、日本企業がこれを活用できていないのではないかと考えるようになりました。

 日本企業では、ユーザー企業もITベンダーも、今後グローバルな活動がますます重要になってきます。それなのに、「ここでつくったものが、世界中で使えるぞ」「こうしたら自分の商品を世界中に展開できるぞ」「新しい価値が出せるぞ」ということが、パブリッククラウド以外ではできていません。

 米デルの幹部と話していて、「面白いことは一緒にやろうよ」という強い姿勢を感じました。デルはグローバルにスケールのあることはやるが、個別の部分はパートナーと組んで、「私たちのプラットフォームの上にソリューションをつくってもらいたい、あるいは一緒につくりたい」という、エコシステムを重視する企業だということが分かってきました。そこで、「これは日本の企業がデルの製品を買う、買わないということだけではなく、デルの上に載せて、世界中でビジネスができる」と思いました。

 日本のITベンダーも、米国企業と競争するところは競争しながら、協力できるところは協力したら面白いのではないか。日本対米国ではなく、いかにエコシステムをうまく組むか。強いところをお互い利用して、新しい価値をつくろうと。そんなことをお手伝いできたら面白いな。デルが日本であまり知られていないだけに、やりがいがあるのではないかと考え、そういう仕事を任せてもらえるということでしたので、デルに入りました。

 私の役割は、まずデルの姿を知ってもらうことです。すると、顧客にとって何らかのヒントがあるのではないか。デルと話すことで「なるほどそういう視点もあるのか」と気が付いてもらうというのが最初ですね。

 顧客は、デルがどういう会社なのかを知ると、きっと何か言いたくなるだろうと思います。「そんなことを言っているけれど、こういうところが課題ではないか」ということを言ってもらって、日本の視点に基づく意見をぶつけてもらいたい。最終的に、顧客の思いと、デルのグローバルなスケールおよび技術力を合わせて、新しい価値を生み出せればいいなということを、先日マイケル・デルと話しました。

「単なるITベンダー」が面白い理由

――黒田さんが、なぜそれほどまでにデルが面白いと感じたのか、具体的に説明していただけますか? 「デルはハードウェア中心のITインフラ製品ベンダーに過ぎない」とも言えると思いますが。

黒田氏 「顧客の声を聞いています」という企業はたくさんあります。しかし、デルの場合はレベルが違うと思っています。

 例えばストレージ装置については、EMC以前の話として、ストレージベンダーの買収により、小・中・大規模環境用の3つの製品ラインを持っています。その上で、アレイコントローラのソフトウェアの統一を、3年もかけてやっています。デル自身にとっては、開発チームを統合できるメリットがありますが、ユーザーは製品ライン間でレプリケーションや自動階層化管理といった機能を統一的に利用でき、記憶媒体も高速SSDから安価なハードディスクドライブまで柔軟に選択できます。また、デルにはソフトウェアストレージもあります。ハードウェアストレージと異なる方式を採用していますが、両者の間でAPIの共通化を進めています。

 アレイコントローラのソフトウェア統一により、顧客はその時々のニーズに応じて柔軟に製品を選択しながら、運用がばらばらにならず、統合的に行えるようになります。要するに、品ぞろえをするだけでなく、買収を基に、顧客が喜ぶものを作り出そうとしています。どうすれば顧客にとって便利になるのかを考えてやっているわけです。

 そもそも、マイケル・デル自身が、顧客の声を聞いて回っています。それが、アレイコントローラの共通化のような話として戻ってきます。これが、現場のプログラマーの活動にまでつながっています。全てのエンジニアリングラインで、プログラムのソース1行に至るまで、1つのコンセプトで、「お客さまが欲しいものを提供するためにどうしたらいいか考えようじゃないか」と。ですから彼らはみな、議論が好きですよ。しかも決めたらやり切る。ここもすごい。

 自社の製品を理解し、これに対する顧客の声を聞き、顧客が欲しいものを作り出すというサイクルが、トップから現場まで、従業員数11万人の大会社なのに回っている。これができている企業はなかなかないと思います。

――日本のユーザー企業やITベンダーと協力して、新しい価値を作り上げたいという話ですが、どのように実現できるのでしょう?

黒田氏 例えば、デルは、「ブループリント(青写真)」という名称で、業種別アプリケーションについて、ハードとソフトの最適な構成を考えて検証し、稼働を保証しています。それもただ動くというのではなく、OS、さらにはSDKにこだわったチューニングを徹底的にやった上で、動くことをコミットしています。

 用途に特化したサーバを開発するわけではありません。サーバの開発コストではスケールメリットを出して、単価を下げる。その上で、業界ごとにこのソフトを動かすにはこうしたほうがいいということがあれば、パートナーと協力し、一生懸命チューニングをかけています。

 このブループリントは、米国で作っています。しかし、日本で考えたブループリントが、デルのプラットフォームを通して、世界中で提供できるチャンスがあるのではないかと思います。そこまでいくと、日本のIT企業にとっても面白い。また、日本のユーザー企業も、「このアプリケーションを、世界中ですぐに動かしたい」と思うと、それができます。

 AWSのようなパブリッククラウドでもできるわけですが、全世界、全ての用途をクラウドでカバーできるわけではありません。さまざまな理由で、やはりサーバを置かなければならない。その時に、デルのソリューションであれば、世界中で立ち上げやすくなります。システムインテグレーターが、自社のソリューションを載せれば、同じソリューションを全世界で同様に提供できます。

 これまで日本の企業にとって、世界中でソリューションを提供していくのは大変でした。これをプラットフォームについてはデルが協力して、一緒に世界で展開していけるということになれば面白いのではないかと思っています。

――最後に、日本の一般企業の情報システム部、およびITベンダーに、今一番伝えたいことは何ですか?

黒田氏 昔、ピーター・ドラッカーが「まだIT技術は印刷技術ほど世の中を変えていない」と言いましたが、これはついに適切な表現でなくなりました。ITは印刷技術以上に世界を変え、国家体制にも影響を与えるような存在になってきています。今後、企業がビジネスをやっていく上で、ITをいかにうまく使うかを考え続けなければなりません。その重要性を理解せずに行動しないうちに、企業がまるごとなくなってしまう。ついに、こういうことが起こり得る時代になりました。

 従って、そこにはピンチとチャンスがあります。自社が今強いからといって、明日も強いとは限りません。今苦労しているところも、それを逆手にとって逆転ホームランを打てるかもしれません。さらに今世界中で、IT技術が一握りの人のものではなく、誰でもいろいろなところで、工夫することによって使えるようになってきました。クラウドもデバイスもソフトもそうです。比較的簡単に手に入れて、やれる時代になりました。

 先ほどの情シスの在り方の話とも関係しますが、「こんなことをやりたい」と思ったら、すぐ試せる時代です。試すことは明らかに必要になっています。このため、本当に勝ち抜くためには、私は一握りの天才よりも、一生懸命汗を流しながら考える人、そして「自分だけ良ければ」ではなく、メリットベースで仲間と一緒にやっていこうという考えが求められます。

 こうしたときに、日本企業は、日本の良さを生かしながら、グローバルな企業とうまく連携してエコシステムを築き、この大変革の時期を乗り切っていくべきなのではないか。私はこれに力を注ぎたいと思っています。

 今ITに関わっている方々にとって、こんなにエキサイティングな時期はないです。これはもう、やめられませんよ。皆さんと一緒に頑張りたいと思います。

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