人工知能とは何か――強いAIと弱いAI、チューリングテストとチャットボット、中国語の部屋:ロボットをビジネスに生かすAI技術(1)(2/2 ページ)
Pepperや自動運転車などの登場で、エンジニアではない一般の人にも身近になりつつある「ロボット」。ロボットには「人工知能/AI」を中心にさまざまなソフトウェア技術が使われている。本連載では、ソフトウェアとしてのロボットについて、基本的な用語からビジネスへの応用までを解説していく。初回は、人工知能/AIという言葉について、あらためて整理する。
チューリングテスト
強いAIの視点から見て、コンピュータはどれくらい人間に近付いたのでしょうか。それを測るひとつの指標とも言えるのが「チューリングテスト」です。1950年にアラン・チューリング博士が考案し、機械が知的かどうかを判定するテストで、人間と区別できないほど自然に、機械が対話等の知的な振る舞いができるかどうかが問われます。
「人間に近いか」を測る尺度
チューリングテストでは、1人の人間と1基の機械(コンピュータ)に対して、審査員が自然言語のテキスト文字で対話を行います。それぞれは相手の姿が見えないようにして、いくつかの質問と回答を行って、審査員はどちらが人間かを判定します。確実に区別できなかったと判断された場合(30%以上の判定者が区別できなかった場合等)に合格となります。
開発者の視点で見れば、多くの審査員に人間だと思い込ませる機械を作る、ということが目標です。審査員はどんな内容を質問しても構いませんし、物語や音楽の感想を聞くなど、意見を求めることもできます。
チューリングテストに関わる代表例として2つのシステムが知られています。1966年に発表された「ELIZA」(イライザ)と1972年に発表された「PARRY」(パリー)です。
ジョセフ・ワイゼンバウム氏によって発表されたELIZAは、当時のコンピュータの性能は高くないこともあって、できることは限られていました。そこでルールベースの回答を基本にしたシステムを作ります。質問の内容をワード分析し、機械にとって既知のワードがあればそれについて回答しますが、わからないことについては「その質問は重要ですか」など、人間が日常でよく使う受け流しで返すことで人間らしさを演出しました。これは心理療法のセラピストの受け応えを参考にしたとも言われています。
ELIZAとPARRYはチューリングテストに合格したわけではありませんが、それぞれ30%、50%弱の判定者が判断を誤ったことから、やがて近い将来、テストに合格する機械が登場すると言われて来ました。チューリングテストによって試されるのは「人間らしい振るまい」なので、すべての質問に正解で回答する必要はなく(人間であってもできるとは限らないし、質問に正解のない種類のものも多い)、人間を模倣する技術や話術が重要になります。
チャットボットなのか?
このチューリングテストに初めて合格した機械はロシアのウラジミール・ベセロフ氏とウクライナのユージーン・デムチェンコ氏が開発したスーパーコンビュータ「Eugene」(ユージーン)。「ウクライナ在住の13歳の少年」という設定で挑戦しました。チューリング博士の没後60周年の2014年に英レディング大学で開催された「Turing Test 2014」において5分間のチューリングテストが実施され、33%の判定者から機械とは判別できず、初の合格者とされました。
Eugeneはインターネット上で公開され、テキスト会話ができるホームページが期間限定で用意されていました。
一方で、「シンギュラリティ」を唱えたレイ・カーツワイル氏をはじめとして一部の識者がこの合格に対して異論を唱えました。その理由として、「ウクライナ在住の13歳の少年」という設定のため英語が堪能でないという前提がある、試験時間が5分間では短すぎる、実際にインターネットでEugeneと対話したが会話を追従していなかった、などを挙げ、Eugeneはコンピュータではなくただの「チャットボット」だとしています。
人工知能研究の視点で見ると、チャットボットは知性を持っているとまでは言えず、理解できない内容の質問に対しては、はぐらかして回答をすることで人間らしく見せる技法を使うだけだという意見をよく耳にします。
その一方で、チャットボットには社会を変えるインパクトがあると言う人もいます。2016年4月にサンフランシスコで開催されたFacebook開発者向けカンファレンス「F8」においてFacebook社のCEOマーク・ザッカーバーグ氏は「Botsfor the Messenger Platform」を発表し、チャットボットによる可能性を大きく打ち出し、ビジネスIT業界では注目のキーワードに躍り出ています。
COLUMN 中国語の部屋
チューリングテストは知能がある機械かどうかを判定するテストですが、これに合格したとしても知能があるとは言えないと反論する識者もいます。哲学者であるジョン・サール氏が1980年に論文で発表した「中国語の部屋」もそのひとつです。
英語のみ話す人を部屋に閉じ込めます。その部屋には紙をやり取りできる小窓があって、外部から中国語で文章を書いた紙を小窓から投入すると、やがて部屋からは中国語で書かれた文字が返されるとします。これで中国語による会話は成立しているかのように見えますが、部屋の中には中国語がわかる人は存在せず、小窓から投入された文字を見て、それに対する中国語の返答が完璧に記述されたマニュアルを見ながら書いて返しているなら、それは中国語を理解しているとは言えないし、知能を測る行為とは言えないという主旨の反論です。この中国語の部屋に対する反論も起こっていますが、本書ではそういう視点もあるという紹介にとどめておきます。
ちなみにジョン・サール氏は前述の「強いAI、弱いAI」というワードを唱えたことでも知られています。
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