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人工知能とは何か――強いAIと弱いAI、チューリングテストとチャットボット、中国語の部屋ロボットをビジネスに生かすAI技術(1)(1/2 ページ)

Pepperや自動運転車などの登場で、エンジニアではない一般の人にも身近になりつつある「ロボット」。ロボットには「人工知能/AI」を中心にさまざまなソフトウェア技術が使われている。本連載では、ソフトウェアとしてのロボットについて、基本的な用語からビジネスへの応用までを解説していく。初回は、人工知能/AIという言葉について、あらためて整理する。

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連載目次

書籍の中から有用な技術情報をピックアップして紹介する本シリーズ。今回は、秀和システム発行の書籍『図解入門 最新 人工知能がよーくわかる本(2016年7月4日発行)』からの抜粋です。

ご注意:本稿は、著者及び出版社の許可を得て、そのまま転載したものです。このため用字用語の統一ルールなどは@ITのそれとは一致しません。あらかじめご了承ください。


強いAIと弱いAI

 「人工知能」という言葉には二種類あります。これから人工知能や、人工知能のビジネス利用について勉強する人にとって、この違いはとても重要です。その二種類は「強いAI」と「弱いAI」です。カリフォルニア大学バークレー校のジョン・サール教授が提唱しました。

二つの立場

 人工知能にはいろいろな解釈がありますが「人間と同様の知能をコンピュータ等の機械で実現するためのしくみや技術」を言います。英語では「Artificial Intelligence」で、略称の「AI」が知られています。「Artificial」は「人工的な」という日本語訳の他に、「模造の」「偽りの」という訳もあります。これは今のAIが、(良い意味で)あくまで似せて作られている模造した知能であることを暗示しているとも言えるでしょう。

 一般社団法人人工知能学会は、ホームページで解説している「What's AI」の冒頭で「人工知能は『まるで人間のようにふるまう機械』を想像しますが、これは正しいとも間違っているともいえます。人工知能の研究には二つの立場があって、一つは人間の知能そのものをもつ機械を作ろうとする立場、もう一つは人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする立場」と言っています。

「強い」は「汎用的」の意味

 ニュースや記事などで「人工知能と聞いて何を思い浮かべるか」という設問をよく目にします。近未来を描いた映画やコミックでは人工知能がしばしば登場します。映画『2001年宇宙の旅』で宇宙船に搭載されていたコンピュータ「HAL(ハル)9000」でしょうか。それとも『ターミネーター』に登場する「スカイネット」でしょうか。いずれにしても欧米の映画では人工知能によって人間社会が脅かされるというテーマのものが多く、人工知能を危険視する意見が多いと思いますが、これらはいわゆる「強いAI」に該当します。強いというのは「汎用的な知能」を意味しています。人間がいろいろな場面や状況に応じて対応できるように、コンピュータが様々な分野や状況において人間と同様に振る舞える知能を持ったものが「強いAI」に分類されます。強いAIは「人工汎用知能」や「AGI」(Artificial General Intelligence)と呼ばれ、会話やニュース等で「AI」ではなくあえて「AGI」と呼称している場合はこれを指しています。

 多くの人工知能研究者はこれを目指しているものの、実現にはまだまだほど遠く、知能をコンピュータで実現するために、いろいろな能力の計算モデル化を試行錯誤している段階で、その結果、コンピュータが可能なある作業に限って、知的に振る舞っているように見えるようなったに過ぎません。

「弱いAI」とは?

 最近、ニュースや報道で話題になり、ビジネスに導入されたり、実用化が進められたりしているのは「弱いAI」です。

 「人工知能の導入」「人工知能の実用化」というニュースの見出しを見ると、仕事を完璧にこなすコンピュータが導入されたように錯覚してしまいますが、やがて強いAIを実現するための基礎技術がシステムに導入されたことを示しています。例えば、画像認識処理にディープラーニングの技術を使うと、「人工知能で画像を高い確率で認識」といった表現が使われることがありますが、ディープラーニング自体は人工知能ではありません。本書では「人工知能関連技術」と呼んでいますが、人工知能そのものが導入されたわけではなく、強いAIを実現する上で研究されてきた技術が使われている、と表現するのが正しいのです。

 次の図は、普通のコンピュータソフトウェアよりは人の脳に近く、学習や推論、認識などを行うのが「弱いAI」、それが集積されてコンピュータ上で脳を再現するのが「強いAI」であり、それは人間の脳に極めて近いことを示ています。

人の脳とAIの汎用性についての比較

実用化の途上

 とは言え、AIでなくてもディープラーニングの能力は評価され、成果を上げ始めています。しかも、人工知能関連技術に対して、多くの研究機関や企業が資金をかけ、競って取り組みを始めると、技術は一気に大きく進歩することもあります。

 これら人工知能関連技術は既に実用的な領域に入っています。例えば、1990年代のチェス専用に開発された前述のIBMのディープ・ブルーの基礎技術。人間とAIの囲碁対決で勝利したGoogle DeepMindの「AlphaGo」。iPhoneの「Siri」、Androidの「OK Google」、ソフトバンクのロボット「Pepper」、テストが開始されている自動運転車など、さまざまなシーンで導入がはじまっています。ビジネス分野では「弱いAI」や「人工知能関連技術」が急速に拡がりを見せていて、今、勉強しておかなくては出遅れてしまうのではないか、と感じるほどです。

 ちなみにAGI、汎用型人工知能の実現にはほど遠いと解説しましたが、ほんの少しずつですが近付いていることも知っておきたいところです。

 かつてアメリカのクイズ番組で人間のクイズ王を破ったコンピュータ「IBM Watson」は日常会話の技術が進歩し、人間の会話を理解することで汎用的な能力を持とうとしています。IBMは「強いAI」ではなく、万能型でもないため、IBM Watsonを人工知能とは決して呼びません。一貫して「コグニティブ・システム」と呼称しています。「全知全能のWatsonが存在するわけではなく、業務に特化した専門的なWatsonを導入し、学習させることによって実用的になる」としています。まさに正論ですが、いま最もAGIに近いコンピュータはIBM Watsonと言えるでしょう。

 また、「AlphaGo」の基本システムであるGoogle DeepMindの「DQN」(deepQ-network)はブロック崩しやスペースインベーダ等、他のビデオゲームもこなします。その意味ではゲーム専用ではあるものの、汎用的にゲームをこなすとも言え、汎用的な方向に活用の幅を拡げているとも言えるでしょう。

 次の表は、人工知能を実現するための研究分野や要素技術が「弱いAI」として、ビジネスや社会での実用化が急速にはじまっていることを示しています。

人工知能関連技術
ゲーム エキスパート・システム 情報検索
ヒューマンインターフェース 音声認識 データマイニング
画像認識 ニューラルネットワーク ロボット
感性処理 自然言語理解 マルチ・エージェント
推論 探索 プランニング
知識表現 機械学習 遺伝アルゴリズム
出典 総務省『平成26年版情報通信白書に掲載している調査』から
「ICT先端技術に関する調査研究」(株式会社KDDI総研作成)に基づいて作図

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