シンギュラリティ(技術的特異点)――人間の脳を超える「強いAI」はいつ生まれるのか:ロボットをビジネスに生かすAI技術(3)(2/2 ページ)
Pepperや自動運転車などの登場で、エンジニアではない一般の人にも身近になりつつある「ロボット」。ロボットには「人工知能/AI」を中心にさまざまなソフトウェア技術が使われている。本連載では、ソフトウェアとしてのロボットについて、基本的な用語からビジネスへの応用までを解説していく。今回は、シンギュラリティ、2045年問題、トランジスタと人間の脳、ムーアの法則について。
トランジスタが人間の脳を超えるとき
コンピュータが人間の脳に少しずつ近付いていて、それによって社会が大きく変わる可能性があることをソフトバンクグループの孫正義氏も、能力と情報量の2点から唱えています。
ムーアの法則
2010年、ソフトバンクの株主総会でのこと。グループ代表の孫正義氏は、創立30年を迎えるにあたり、次の30年間について考える「新30年ビジョン」の講演を行っています。その講演によれば、人類はかつて経験したことのない人類を超えるもの「脳型コンピュータ」の実用化を迎える可能性があると言います。脳型コンピュータは電子回路で人間の脳をつくろうというもので、実用化に向けた研究は以前から進められています。
孫氏はプレゼンテーションの中で「ムーアの法則」に触れ、それに基づいて計算をすると「2018年にマイクロプロセッサ(ICチップ)に入るトランジスタの数が300億個に達し、人間の大脳にある脳細胞の数を超える」という試算を紹介しています。
「ムーアの法則」とは、1965年にインテルの共同創業者であるゴードン・ムーア氏が経験則に基づいて発表した論文が元になっている、IT業界では有名な法則です。パソコンの頭脳である「CPU」の処理速度は年々高速になっていますが、マイクロプロセッサは18〜24ヶ月ごとに2倍の性能に進化するという内容です。
ICチップの内部はトランジスタ(半導体素子)で構成されていて、その個数が性能に大きく影響します。その法則によれば、トランジスタの集積密度は24ヶ月ごとに倍増していく(18ヶ月ごとという説もあります)としています。この法則は広く支持されていますが、それは実際にほぼその通り推移してきて、「性能向上」で見れば1.5〜2年ごとに概ね2倍になっているためです。講演で孫氏は、これまでのトランジスタ性能の推移に触れ、次の図のように、100年で3500兆倍に高速化されていることを指摘しています。
脳とトランジスタ
コンピュータのトランジスタの数と人間の脳の性能を比較することが可能なのか、意味があるのかと疑問に思うかもしれません。実は人間の脳とマイクロプロセッサのトランジスタのしくみは非常に似ています。
マイクロプロセッサのトランジスタはスイッチの役割をしています(ほかに信号を増幅する働きもあります)。ひとつひとつのトランジスタの役割はオンとオフの切り替えという単純なものですが、これが膨大な数で構成されると演算や制御といったさまざまなことが可能になります。コンピュータの複雑な計算や作業はすべて「2進数」で処理されていることは一般にも知られていますが、2進数とは「0」か「1」で、トランジスタのオンかオフかということと同じです。コンピュータの処理能力が年々高速化している理由のひとつは、技術の進歩によってトランジスタの集積度が上がり、その数が年々増加していることによります。
パソコンのマイクロプロセッサで有名な米インテル社によると、1971年に発表した「4004マイクロプロセッサ」はトランジスタの数がたったの2,300個でしたが、約35年以上という年月を経て2008年に発表した「4つの実行コアを搭載したこのとき最新のインテルCore i7プロセッサ」(パソコンに詳しい人にはお馴染みのCPU)では、7億7400万個にまで増大しています。計算するとこの間、トランジスタの数が約25カ月ごとに2倍の割合で増えてきていることになり、これは「ムーアの法則」がほぼ正しいことを表している」としています。
そして人間の脳もまた、スイッチのオン/オフで繋がる脳神経細胞(ニューロン)で構成されています。
人間の大脳には神経細胞があります。その数は諸説ありますが、100億個超とも約300億個とも言われています。それぞれの神経細胞には間隔があって情報伝達物質を伝わって信号が伝えられ、ものごとを考えたり、覚えたり思い出したり、いわゆる脳の機能が行われています。脳の「シナプス」という言葉を聞いたことがあると思いますが、その伝達部分や構造そのものがシナプスで、神経細胞を接続する役割を持っています。
神経細胞はシナプスが離れた状態でオフ、シナプスがくっつくことで情報の伝達をオンにして処理をしています。すなわち脳とコンピュータ(マイクロプロセッサ)はスイッチのオン/オフ、いわば2進法と同じしくみで基本的な処理をしているといえるのです。だからこそコンピュータで人間の脳を作るという突拍子もないような発想は決して絵空事ではないのです。
こうした理由から、脳の神経細胞の数とマイクロチップのトランジスタの数の比較は意味のないこととは言えません。ムーアの法則でトランジスタの数が増え続けたとすると、やがてその数は大脳の神経細胞の数を超える日がやってきます。孫氏の計算によると、次に示す図のように、それは2018年だと言います。
実際にはそれが2020年であったり、2030年であったりしても、ここでは大きな問題ではありません。要は単純計算上で、人間の脳とコンピュータの脳の能力は既に近いところまで来ているということなのです。
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