もう1つの「点をつなぐ」――ジョブズを追放した男が考える「この先、生き残るエンジニア」とは:Go AbekawaのGo Global!〜John Sculley編(3/3 ページ)
アップルの黎明期をスティーブ・ジョブズと共に作り、今なお、若いエンジニアたちを支援するIT業界の巨人、ジョン・スカリーが考える「世界の変え方」とは――。
もう1つの「点をつなぐ」
阿部川 @ITを読んでいるエンジニアたちに、メッセージをいただけますか?
スカリー氏 全ては好奇心から始まると思います。リーダーになりたければ、飽くことのない好奇心を全ての物事に対して抱くことです。そして自分が行っている全ての事柄を意識してうまく利用すること。常に注意を怠らず、自分が行っていることをしっかり見つめ、学び、知識や人とのネットワークを構築して、機会を見逃さないようにしてください。そしていつも一所懸命働くこと。がんばって仕事をして、リスクを恐れずにとってください。
もちろん、(リスクをとることは)日本の文化にはそぐわない点もあることは承知しています。日本にはさまざまな、そして長い歴史がありますし、多くの日本の代表的企業は100年以上の歴史を有しています。とはいえ、現代は「緊急性(urgently:スピード感が求められる)の時代」。昔は10年かかったことが3年で、3年かかったことが3カ月で実現する時代です。
伝統ある企業がスピードに敗北した例をお話ししましょう。2007年にイーストマン・コダック社は、単一フィルムカメラの生産に集中していました。イーストマン・コダックはデジタルカメラを発明した企業ですから、当然デジタルフォトとは何かということはよく分かっていたはずです。また将来的には携帯電話が写真機能を持ち、それが、当時発表されたばかりではありましたが、3Gネットワークの中でやりとりされるだろうということも予測していました。しかし、電話のチップの入った初代iPhoneを発表して、先にその市場を独占したのはアップルでした。3年後、当時2兆円企業だったコダックは倒産します。
日本の未来のビジネスリーダーは、今後、2つの異なった考えを同時にうちに秘めておく必要があると思います。それは「伝統」を尊重しつつ、同時にまだ起こっていない「未来」を好奇心を持って見つけ出すということ。
「きっと起こるだろう」と人ごとのように言わず、「きっと起こすことができる」と考えてほしい。現在手元にあるテクノロジーを駆使したり、応用したりすることで、不可能は十分可能になると思うのです。私はそれを「adaptive technology(現実に適応するテクノロジー)」、あるいは「adaptive company(テクノロジーに適応する企業)」と表現しています。
ダーウィンは「種の起源」で、「(ある種類の)種が生き残った」ではなく、「状況に適応できた種族だけが、生き残った」と言っています。これこそが革新的なテクノロジーのための考え方です。大きな問題があるときに、テクノロジーを適応して解決できないかと考えられれば、今よりももっと、テクノロジーはわれわれの身近になると思います。
成功する企業が他社と違っていることは、テクノロジーの優劣ではありません。テクノロジーはどんどん変化しますし、陳腐化のスピードも速くなっていきますからね。そうではなく、その企業が持っている「独自の専門的な洞察力」は何かが、違いを生み出すのです。
スティーブはよく「ズームイン」「ズームアウト」という表現を使っていました。時には「ズームアウト」して、今の状況をぐっと引いた目で俯瞰して、重要だと思われる点と点をつないでみることが大切だと。
私たちは、物事が直線的に変化しない「非線形」の世界に生きています。日本の伝統はリニア(直線的)ですが、非直線的なもの、指数関数的な、いきなりの変化が起こることもあるのです。
このような「相反する」、しかし「並列に存在する」世界を意識することで、必ず世界に貢献できると思います。
Go's think aloud〜インタビューを終えて
25年ぶりの再会に当たり、「絶対にやらない」と心に決めていたことがあった。昔話で盛り上がったり、往年の活動を自画自賛したりするようなことだ。
しかし杞憂だった。
話の随所に過去の逸話があるものの、話は現在に、そして未来に飛んだ。いや重厚な過去があるからこそ、そこを足場に、豪快に今を飛び越せるのか。
“noble cause”と何度も繰り返し、切り出した。「高い理想」「崇高な理念」のことだ。スカリー氏は起業家の持つ「高い志のこもったビジョン」という意味で表現していたと思う。同時に、日々の運転資金にすらきゅうきゅうとしていた過去のアップルの話もしてくれた。
経営者は、片手にはビジョンを、もう片方には今日の売り上げを、つまり「相反する、しかし並列に存在する世界」または「2つの異なった考えを同時にうちに秘めて」いる必要がある。
25年の歳月を、あっという間に飛び越えたひと時だった。歯切れの良い論理的な物言いも健在だった。私もまだまだ、負けてはいられない。
阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)
アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、キャスター・リポーター
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語トレーナー、コミュニケーションに関する執筆、講座、講演も行っている。
編集部より
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