成長が自己責任になった令和を、きみたちはどう生きるか:ホワイト化が進むニッポンのIT業界で、いま何が起きている?(1/3 ページ)
日本社会のホワイト化により「強制的なチャレンジ」が激減し、エンジニアの成長は自己責任の時代へ。AIの進化と「2029年問題」が迫る中、きのこる先生が現状維持の危機を訴える。
年の瀬も近づき、街はクリスマスムード。聖なる夜のメニューにきのこ料理はいかが?――ということで、菌類にしてエンジニア採用担当、人呼んで「きのこる先生」が久しぶりにお目にかかります。
というわけで、はじめまして、もしくはお久しぶりです。きのこる先生です。
このごぶさたの期間に菌類、独立しておりました。ひとり法人を設立し、会社員ではなくフリーランスとして活動しています。いままでは企業に所属してエンジニア個人のキャリアや生産性向上のお手伝いをしてきたのですが、もうちょっとメタな立場でエンジニアのキャリアとエンジニアリング組織の生産性向上を支援すべく、「技術広報」「採用」「組織開発」という3つの軸で、複数の企業をお手伝いしています。
菌類が聞いた人類が成長していない話
さて、そんな仕事のうち、1社ではEM(エンジニアリングマネジャー)のコーチング、というスタイルで支援をしています。
そのコーチングの場で最近、「メンバーの成長意欲が低い」という悩みを聞くことが複数回ありました。チームメンバーである若手のエンジニアたちは何となく現状に満足しており、技術的な向上心もチャレンジも、仕事的な野心や出世欲も感じられないというのです。
ハードワークとむちゃぶりでキャリアを積み重ねてきた生存バイアスの権化である菌類としては、にわかには信じ難い話でした。テクノロジーの領域は進歩が速いので、現状維持は後退しているのと同じです。また、責任ある仕事や立場をつかみ取っていかないと、職場での評価、つまり給料が上がることもありません。若手の皆さん大丈夫? 生活できてる? 何か欲しいものはない?
そんな時、SNSに「ゲーム業界ホワイト化の光と影」というスライドが流れてきました。「EGG '24」というカンファレンスでの発表のようです。菌類のエンジニアキャリアは20世紀のゲーム業界からスタートしたので、スライドの内容は思い当たることだらけ。涙なしには読めませんでした。ああ、発表を現地で聞きたかったなあ……。
そして、前述のEMのお悩みの原因にも思い当たりました。日本社会はホワイト化が進んだ結果、ハードワークを強制することが許容されなくなり、結果としてエンジニアがキャリアを積んでいくための「成長」は自己責任の時代になったのです。
ということで、このスライドに強く影響された菌類、Web系若手エンジニアに向けた切り口でスライドを作り、若手メンバーが所属するチームに向けて講演させてもらいました。この記事はその内容を、インターネットで読みやすいように菌類の軽口で再構成したものです。
日本社会のホワイト化
いまではとても信じられませんが、かつての日本は「24時間戦えますか」の国でした。これはバブル景気真っ最中の1989年、ドリンク剤(いまでいうエナドリ)のCMソングとして、「流行語大賞」にもなったフレーズです。興味がある方は「YouTube」で検索してみてください。びっくりしますよ。
戦後の高度経済成長期、バブル景気、その後に続く「失われた30年」、どの時代も日本人はハードワークで社会を支えてきました。深夜も休日もおかまいなしの長時間労働は人的コストを押し下げるので、企業が生存するためには欠かせないものだったのです。
しかし、ハードワークは確実に人をむしばみます。タフな働き方を経験したおじさんたちは「いまの若いものは苦労を知らん」なんて言いますが、それは生存バイアスそのものです。その陰にはたくさんの心身の健康を損なった人、そして命まで失った人がいました。
ニュースでセンセーショナルに取り上げられた痛ましい過労死事件がきっかけとなり、2018年に「働き方改革関連法」が施行されました。ここには時間外労働の上限設定、有給休暇の取得義務、割増賃金の引き上げなど、ハードワークを強く規制する内容が盛り込まれています。
これにより、ハードワークを強制する「ブラック企業」は、少なくとも表面的な長時間労働という面においては駆逐されつつあります。つまり、日本社会は「ホワイト化」が進んでいるのです。
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