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AIが新人の成長機会を奪うなら、新人は上司の椅子を奪えばいい27卒以降は“つらたん”というけれど

AIの進化により、新人の初歩的な仕事や修行の場が奪われ始めた。では、これからの新人は、どうやって基礎力を身に付ければいいのだろうか。その答えもAIが持っていた――。

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 AI(人工知能)がホワイトカラーの仕事を効率化しています。Googleの最新AI「Gemini 3」は、正確な日本語が書かれたプレゼンテーション資料を簡単に作れる、と大きな話題になりました。

 面倒な仕事を代替してくれるのは、うれしい変化のはず。でも、「自分の仕事が奪われていくのでは……この先、飯を食えるんだろうか」と不安になっているホワイトカラーは、筆者だけじゃないと思います。

 特に、若い皆さんの不安は相当のものでしょう。AIが進化し続ける時代をどう生き抜けばいいのか、考えてみます。

「若手の修行機会」をAIが奪っている

 エンジニアの世界では、就職のハードルが上がっているそうです。理由はAIの進化だけではなさそうですが、AIも背景にあるようです。

 最近、「27卒以降のITエンジニア就職って大変そうだよね」というブログが話題になりました。これによると「現在AIが代替している分野は、本来であれば新卒で入ったエンジニアが行っていたような領域」だそうです。

 筆者は記者として2003年から働いてきましたが、この分野の仕事でも近いことが起きています。新人記者の最初の仕事である「リリース起こし」を、AIがある程度代替できるようになってきたからです。

 リリース起こしは、企業が発表したニュースリリースを要約し、記事の体裁に整える作業。新人の最初の仕事であり、記事のスタイルを体にたたき込む修行でした。

 20年前、新人だった筆者は、「リリース起こしの質が低い」と毎日デスクに怒られ、ボロボロに赤入れされていました。PCの新製品記事を書いたとき、ファンの直径が「35mm(ミリ)」なのに「35m(メートル)」と書いて激怒&爆笑されたことはいまでも忘れません。

 「背中を見て覚えろ」スタイルで鍛えられたため、「なぜここを直されたんだろう?」と疑問に思っても質問もできず、直された部分をファイリングし、繰り返し確認していました。半泣きになりながら。


Nano Banana Proで作った(以下、同)「昔の新人」。つらみが深い……

 しかしいまは、ニュース記事を書く媒体の多くが、リリース起こしにAIを併用していると思われます。AIが書いたものをそのまま記事にはできませんが、新人に任せるよりはだいぶマシな草稿が完成するので、ちょっと手を入れれば掲載レベルにできます。新人はリリース起こしに1時間や2時間かかることもありますが、AIならかかって数分です。

 その結果、「新人やインターンにリリース起こしのイロハを教えるより、AIにリリース起こしのプロンプトを覚えさせる方がラクで早い」という状態になってきています。

 教育目的の指導でも「パワハラ」と非難されるリスクがある昨今、新人にパワハラと思われないよう、メンタルケアをしながら教えるよりも「AIに書かせた方が早い」のです。

 AIの原稿は手直しが必須とはいえ、新人が頑張って書いた原稿をバッサリ直すよりよほど気楽です。直しながら「分かりづらい」「へたくそ」と悪態をついても、AIは傷つかないし。

 こうした変化は」記者業界だけでなく、エンジニアや士業など、他の業界でも起きていると思います。新人の教育機会が奪われているのです。


修行をすっ飛ばして「創造的な仕事」に取り組めと言われる「いまの新人」。これはこれでつらたん……

AIを「最高の教師」にして上司を超えろ!

 “いま”のホワイトカラー分野の新人は、どうしたらいいんでしょう?

 大丈夫。AIが進化すればするほど、若手は「上司いらず」で成長できるはずです。

 Rubyの父として知られるまつもとゆきひろさんは、AIを「最高の教師」と評価しています。自分のレベルに合った問題をいくらでも出してくれますし、何度同じ質問をしても怒らず、機嫌が悪くなることもない。人間の教師や上司と違い、「こんなことを聞いたら怒られるかも」などと萎縮せずに学びを深められます。

 これは、記者の修行にも応用できます。例えば、先輩の記事と自分が書いてみた原稿をAIに見せ、「どう書けば良くなるか」を尋ねたり、先輩から過去に受けた指導内容をAIに教えて、「自分の草稿をより良くして」とブラッシュアップの方法を聞いたり。AIと上手に壁打ちしながら、指導内容を読み解いて身に付けられれば、先輩や上司に頼ることなく、能力を高められそうです。

 上司や先輩世代は、大人の硬い頭で何とかAIを使いこなそうと努力していますが、若い人ほどAIが身近にあるはず。“AI教師”の使い方は、ベテラン世代の私たちより、若い方々の方がうまいでしょう。

 「上司が新人を修行させる」場はAIによって減っていくかもしれませんが、若い人が“AI教師”を使いこなす可能性は広がっています。しかも今後、AIの能力はさらに上がっていき、上司の能力を超える可能性があります。

 AIが上司を超えたとき、新人のあなたは、AIという「上司を超えた最高の教師」に手取り足取り教えてもらうことができ、上司の枠をはるかに超えた能力を身に付けることができるはずです。

 上司世代である私も、うかうかしてられないな。


「AIを教師にして、らくらく学習する新人」。つらくなーい!

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