無免許、無料で利用できる長距離無線通信規格「LoRa」を使ったIoTインフラ事業にPaaS基盤が欠かせなかった理由:Bluemixでビジネス拡大、その事例とは
市場が本格的に立ち上がりつつあるIoT。SIerやITソリューション提供者にもIoT技術を活用した新たな付加価値システムの提案が求められている。こうした中で、IoTビジネスの可能性にいち早く着目し、ビーコンO2O事業からIoTインフラ事業へとビジネスを拡大した企業を紹介しよう。
ビーコンO2O事業からIoTインフラ事業へとビジネスを拡大
今までは言葉だけが先行していた感があったIoT(Internet of Things)だが、最近ではさまざまな分野で具体的なIoTソリューションが登場し始め、市場が本格的に立ち上がりつつある。これに伴い、SIerやITソリューション提供者にもIoT技術を活用した新たな付加価値システムの提案が求められている。こうした中で、IoTビジネスの可能性にいち早く着目し、ビーコンを活用したO2O(Online to Offline)クラウドサービス事業を展開しているのがシーア―ルアイジャパン(CRI Japan)だ。
「これからのSIerやITソリューション提供者は、単に業務システムを開発、提供しているだけでは、大きな事業成長は難しい。そこで、第4次産業革命ともいわれ、世界的なムーブメントとなっているIoTを活用したシステム開発を手掛けることが、当社の強みになると考えた」と話すのは、CRI Japan 代表取締役社長の吉田秀利氏。「2013年、アップルのiOS 7に無線技術『iBeacon』が標準搭載されたことを機に、これを新たなビジネスチャンスと捉え、『iBeacon』のセンサー機能を活用したO2Oクラウドサービス事業を立ち上げた」という。
「iBeacon」によるO2Oクラウドサービス事業の展開に当たっては、ルーマニアのiBeaconハード&CMSベンダーであるOynxBeacon社と協業。「iBeacon」に対応したビーコン端末やビーコンCMSを共同開発している。2014年には、米IBMが提供するイベント/セミナー向けアプリ「IBM Event Connect」のバックエンドとして、同社のビーコンシステムが採用された実績を持っている。
無免許、無料で利用できる長距離無線通信規格「LoRa」とは
そしてCRI Japanは、IoTビジネスをさらに加速させるべく、世界主要国で利用が拡大しつつある最新の省エネ長距離無線通信規格「LoRa」を採用したIoTインフラ事業を開始した。「LoRa」は、無免許で利用できる無線地域「サブGHz帯」を使った無線技術。「Long Range」の頭2文字を付けた造語だ。
LoRaの通信チップは、半導体メーカーの米SEMTECHが、米IBMの研究所と共同で開発・商品化し、2015年に非営利団体「LoRa Alliance」を設立。2016年7月に開催された「LoRa Alliance」の会議では、オランダ、韓国、米国をはじめ合計世界12カ国で「LoRa」の無線通信ネットワークが構築されており、地方都市レベルでは、すでに約100カ所の都市で「LoRa」を使うネットワークが利用されているという。
CRI Japan 開発事業部 事業部長の尾鷲彰一氏は、LoRaの特徴について、「LoRaは、市街地で2km、見通しの良い場所では最大15kmという長距離の無線通信が可能で、広範囲のIoTネットワークを実現できる。また、消費電力が小さいため、1日に数度のデータ送信であれば、センサーのバッテリーを数年間交換せずに利用することが可能となっている。そして、何より通信利用料が無料である点が大きな魅力だ。これによって、IoTインフラに掛かる通信コストを大幅に抑えることができる」と説明。
またLoRaの事業化を決断した理由について尾鷲氏は「オランダのアムステルダムでは、市内全域にビーコン端末を配置し、LoRaを使ったIoTネットワーク『LoRaWAN』を構築することで、一般市民の生活をIoTで快適にしようとするプロジェクト『IoT Living Lab』が進んでいる。この事例を知ったときに、LoRaを活用したIoTインフラ事業は、日本でも確実にビジネスになると確信した」と述べている。
LoRaによるIoTインフラ事業の立ち上げに向けて、CRI Japanは、中国のIoTベンチャーDragino社と協業。LoRaWANを構築するプラットフォーム製品として、Dragino社が開発する、ArduinoやRaspberry Pi向けLoRa通信モジュール「LoRaシールド」の取り扱いを開始した。また、LoRa対応のIoTゲートウェイ製品「LG01」とさまざまなセンサーに接続するLoRa対応クライアントノード「LoRa mini」を日本国内の電波法(技適)をクリアし、2017年1月から出荷開始した。しかし、単にLoRaWANを構築するだけでは、IoTインフラ事業にはならない。「IoTゲートウェイに収集される膨大なデータを分析・解析できるサービスの提供が必要不可欠になる」(尾鷲氏)。そこで同社が採用したのが、日本IBMが提供するPaaS「IBM Bluemix」である。
なぜBluemixだったのか、どの機能を使い、どんなメリットがあったのか
IoTインフラのデータ収集・分析基盤を担うPaaSの選択肢としては、Bluemixの他にも、幾つかのサービスを検討したが、尾鷲氏は、Bluemixの採用はベストプラクティスだったと強調した。
「現在使われている代表的なPaaSについては、ほとんどを候補に挙げて、サービス内容や機能を比較・検討した。しかし、IoTに対応できていなかったり、機能的に十分でなかったりと、どれも決め手に欠けるものだった。その中でBluemixは、IoTインフラに最適化された機能を豊富に備えており、ビーコン端末やセンサーからのデータ取得、格納、管理まで、すべてPaaS上で完結できる。これに加えて、コグニティブサービスの『IBM Watson』も用意されているので、データの分析、解析機能も申し分ない。実際に、アムステルダムのIoT Living Labの事例でも、PaaSとしてBluemixが活用されており、当社が求めるニーズを全て満たしていた」(尾鷲氏)
現在、CRI Japanが提供するIoTインフラで活用されているBluemixの機能は、「Watson IoT Platform」のMQTT(MQ Telemetry Transport)サポート機能、「Node-RED」「IBM Cloudant」の3つ。
MQTTは、ゲートウェイと通信し、収集したデータをアプリに届ける通信プロトコル。IoTゲートウェイに収集されたセンサーデータをBluemix上のIoTプラットフォームに一度格納し、そこから各種デバイスにデータを送る仕組みとなっている。これにより、不安定な通信環境でもデータの確実性を担保でき、BluemixのIoTサービスを背後で支える重要な役割を担う。
Node-REDは、IoTデバイスやデータベース、Watson、ソーシャルなどBluemix上のサービスを含むあらゆるノードを接続しアプリ開発を行うツール。ブラウザ上のフローエディタを活用し、ノンプログラミングで各種ノードへの接続を簡単に作成できる。
Cloudantは、NoSQLデータベースで、アプリケーションとデータベースの間で高速で中断されることのないデータフローを実現する。
「これらのBluemixの機能を活用することで、2日程度でLoRaWANのIoTインフラを構築可能だ。Bluemixとその上のサービスを活用することで、高速なアジャイル開発を簡単に実現できた。それだけ、Bluemixを活用するメリットは大きいと考えている」(尾鷲氏)
IoTインフラの活用でビジネスや社会がどう変わるのか
こうしてCRI Japanは、ビーコンをベースに、DRAGINO社のIoTゲートウェイと通信モジュール、そしてBluemixを組み合わせることで、LoRaWANによるIoTインフラを構築できる体制を整備した。さらに、販売に当たっては、尾鷲氏が代表を務めるオープンウェーブがパートナー企業として、顧客へのソリューション提案やSI、R&Dの活動を支援しているという。
「オープンウェーブでは、IoTに関する調査、検証、プロトタイプ開発などを請け負う『IoT探偵事務所』というサービスを展開している。最先端の無線通信規格であるLoRaは、急速に広まってきているとはいえ、国内ではまだ導入検討する顧客も手探りの部分が多いのが実情。そのため、IoT探偵事務所のノウハウを生かして、CRI JapanのIoTインフラ事業の立ち上げをサポートしていく」(尾鷲氏)
現在、国内で積極的にLoRaWANのIoTインフラソリューションの提案を進めており、「本稼働にまで至っている事例はまだないが、導入に向けたインテグレーション案件はすでに10件前後動いている。長距離無線通信が可能なLoRaWANならではの、比較的大規模の案件が中心となっている。また、LoRa対応IoTゲートウェイや通信モジュールなどのハードウェアについても、20〜30件の引き合いが来ている」(吉田氏)と、順調にビジネスは立ち上がりつつあるようだ。
具体的な活用イメージについて吉田氏は、プロトタイプで構築したという警報機システムを例に挙げて説明。ショッピングモールや病院、高層ビルなどの大規模施設では、火災が発生したときに、警報が鳴ってもどこに逃げればよいのか分からず、迷ってしまうケースがある。こうした問題に対して、LoRaWANのIoTインフラを活用した警報機システムでは、施設内の各所にビーコン端末を配置し、火災発生時には警報を鳴らすとともに、ビーコンでキャッチした位置情報に合わせて、メールなどで個別に避難ルートを通知するサービスを実現した。これによって、「大規模施設でも迷うことなく、迅速に避難することが可能になる」(吉田氏)という。
吉田氏は、分かりやすい活用イメージとしてもう1つ、自動販売機の在庫管理システムの例を挙げ、あらためてコストメリットの優位性をアピールした。「現在、自動販売機の在庫管理では、3GやLTEの回線を使ってネットワーク接続しているケースがほとんど。これでは、自動販売機の数に応じて、多額な通信費用が掛かってしまう。しかし、LoRaWANによるIoTインフラを活用すれば、通信費用を無料にすることができ、3G回線のシステムに比べてコストを10分の1に抑えることができる。最先端の技術を短期間で実装し、サービス開始するには、Bluemixとその上のサービスがあったから実現できた」(吉田氏)。
今後、CRI Japanは、WatsonをはじめとしたBluemixのさまざまな機能を活用することで、ソリューション提案の幅を広げ、LoRaWANによるIoTインフラ事業をさらに加速していく考えだ。IoTインフラの活用でビジネスや社会がどう変わるのか、今後の展開が楽しみでならない。
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