Sansanが名刺データをAPI公開した理由から探る、「API×ビジネス」のヒント:「先進企業が語る、API活用最前線」レポート(後編)(1/2 ページ)
2017年3月15日に開催された@IT API活用セミナー「先進企業が語る、API活用最前線」の中から、テクマトリックス、日本アイ・ビー・エム、Sansanの講演模様をお届けする。
@IT API活用セミナー「先進企業が語る、API活用最前線」が2017年3月15日に開催された。このセミナーでは、先進企業のAPI公開・活用事例を基に、つかめるビジネスチャンス、そしてAPI公開における課題と解決策を探った。
前編では、セミナーで行われた基調講演、セッション1、セッション2の講演内容を紹介した。後編の本稿では、セッション3、セッション4、特別講演の内容についてレポートする。
APIでつながるシステム開発におけるAPI活用の課題とその解決策
セッション3「APIテストの自動化とAPIの仮想化」では、テクマトリックス システムエンジニアリング事業部 ソフトウェアエンジニアリング技術部の飯山正史氏が、APIでつながるシステム開発におけるAPIの利用者と開発者が抱える品質の課題と、APIテストの自動化と仮想化がもたらす効果について紹介した。
まず飯山氏は「APIでつながるシステム開発では、『API利用者』と『API開発者』の2つの役割が存在する。API利用者は、公開されたAPIを活用してアプリケーションを作成し、新しい価値を創造する。一方、API開発者は、APIを使った新たなビジネスモデルを模索している」と説明。これに加えて、「API利用者とAPI開発者のどちらもAPIの品質の面で課題を抱えている」と指摘する。
API開発者が抱える課題
「低品質のAPIを公開してしまうと、API利用者にさまざまな不利益を与えることになり、結果的に誰にも使われない『ムダなAPI』になってしまう」と、飯山氏はAPI開発者側の品質課題を挙げる。これに対しては、APIの公開前にしっかりテストを行い、品質を高めることが重要だという。
「一般的なAPIテストは、整合性の確認などを手動で何度も繰り返す必要があり、手間と工数が掛かっていた。そこで、当社が提案しているのが、APIテストの自動化だ。テスト自動化によって、APIの品質を効率的に検証することが可能になり、品質向上を図ることができる」
飯山氏は、同社が推奨しているAPIテスト自動化ツールとして「Parasoft SOAtest」を紹介。Parasoft SOAtestは、テスト実行と検証を完全に自動化し、ユースケースに即したシナリオテストでバグを早期に発見できるという。また作成済みのテスト資産をそのまま使って、性能・負荷テストを実行、自動化することも可能となっている。
API利用者が抱える課題
次にAPI利用者側の課題については、「APIとの結合テストに必要な環境をすぐに用意できず、(開発のスピードが求められている中では)APIを利用するアプリケーションの品質確保が難しい」という点を飯山氏は指摘。この課題に対する解決策として、APIの仮想化が効果的だと訴える。
「アプリケーションが利用するAPIを仮想化することで、業務シナリオといった特定のユースケースにおけるシナリオテストをいつでも実行できるようになる。また存在しないAPIや実在するAPIを仮想化することで、開発の初期工程から結合テストが可能になる」と、API仮想化がもたらすメリットを説明した。
APIテスト環境の仮想化ツールとして、同社が提案しているのが「Parasoft Virtualize」だ。この製品は、接続先のシステムを仮想化することで、開発の早い段階から好きなときに何度でもテストを実行でき、早期の品質確保が可能になるという。またリリース時期を早める“Shift-Left”を実現する他、実際のテスト環境や本番環境では実施困難な異常系のテストも実行できる。さらにParasoft Virtualizeは、ユーザーインタフェース(UI)テスト自動化ツールと組み合わせることで、より効率的な品質検証が可能になると飯山氏は紹介する。
APIエコノミーが実現するバリューチェーンとAPI公開するときに気を付けるべき点
セッション4「APIエコノミーを実現する!〜企業のAPIを支えるIBM APIソリューション」では、日本アイ・ビー・エム クラウド事業本部 Mobile&API Economy セールス・リーダーの纓坂進氏が、APIエコノミーのバリューチェーンを説明した。その上で、各業界で進んでいるAPI公開のシナリオおよび安全かつ効率的なAPI公開をサポートするソリューション「IBM API Connect」について紹介した。
まずAPIエコノミーが実現するバリューチェーンの仕組みについて、纓坂氏は次のように説明する。「さまざまな企業が自社の持つデータやサービスをAPIとしてWebに公開する。外部の開発者がその公開されたAPIを見つけ、新たなアプリケーションを考案。これにより、複数企業のサービスが連携された新規アプリケーションが誕生し、ユーザーに新しい顧客体験をもたらす。ユーザーが、このアプリケーションを購入・利用することで、APIを公開した企業に対して間接的に送客され、バリューチェーンが生まれる」
幅広い業界で進むAPIの公開
APIエコノミーは、数年前から「FinTech」をキーワードに金融業界がけん引してきた。しかし現在では、金融にとどまらず幅広い業界でAPI公開が進められているという。纓坂氏は、API公開が行われている業界として、金融に加えて、製造や通信、エネルギー、情報、メディア、リテール、航空、行政を挙げる。
「金融業界では、FinTechアプリケーションの活用による新たなビジネス開発が進みつつある。製造、通信、エネルギー業界では、社内サービスをAPIで標準化して再利用を促進。さらに、IoT(モノのインターネット)データにアクセスする機能をAPIとして社外へ公開して活用の拡大を図っている。情報・メディア業界では、コンテンツへのアクセスをAPIで管理してマネタイズを実現する傾向が出てきている。またリテール業界では、商品情報やオーダー受付をAPIで外部アプリケーションに直接提供したり、配送や1人1人の顧客に特化した『個客キャンペーン』、SNS活用をAPIでアウトソースしたりする動きがある」
この他、飛行機の発着情報などを外部アプリケーションにリアルタイム提供することで旅行者へのサービス向上を実現している航空業界の例がある他、行政についても「オープンデータをAPIで公開し、市民のアプリケーション開発を推進することで、地域連携に貢献できると考えている」という。
企業アセットをAPI公開するときに突き当たる4つの課題
一方で、企業アセットをAPI公開するに当たって、「セキュリティ対応」「ライフサイクル管理」「APIの利活用促進」「APIの開発・実行」の4つの課題があると指摘。同社では、これらの課題を解決するソリューションとして「IBM API Connect」を提案しているという。
「IBM API Connectは、既存システムの変更を最低限に抑えながら、APIに対するセキュリティの付与や、公開APIの追加、カスタマイズを容易にできる。従来のように、個別にAPIを開発する必要がなくなる。IBM API Connectが、API仕様の差異を吸収することで、迅速で低コスト、かつセキュアにAPIを公開することが可能になる」
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