Sansanが名刺データをAPI公開した理由から探る、「API×ビジネス」のヒント:「先進企業が語る、API活用最前線」レポート(後編)(2/2 ページ)
2017年3月15日に開催された@IT API活用セミナー「先進企業が語る、API活用最前線」の中から、テクマトリックス、日本アイ・ビー・エム、Sansanの講演模様をお届けする。
Sansanが名刺データをAPI公開した狙いとAPI公開するときに必要な考え方
特別講演に登壇したのは、Sansan Sansan事業部ビジネス開発部 兼 カスタマーサクセス部 プロダクトアライアンスマネジャーの山田尚孝氏。「Sansanが明かす、『使ってもらえるAPI』の作り方 〜名刺データ公開による価値の再発見〜」と題し、「使ってもらえるAPI」を提供するにはどうしたらよいのか、名刺データをAPI公開し、ビジネス拡大へとつなげているSansanの取り組みを基に、「API×ビジネス」のヒントをアドバイスした。
Sansanが提供している法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」は、“名刺を企業の資産に変える”をコンセプトに、会社内の名刺を共有して組織で活用することを支援するサービス。現在、業種・規模を問わず5500社の導入実績があり、国内の名刺管理サービス市場において大きなシェアを獲得している。
「当社は、2015年11月からSansanの名刺データをAPI公開した。名刺情報は従来、紙だけで管理されていたが、現在はデータ化され、検索・共有などが可能になっている。そこで、この名刺データをもっと自由に活用できる環境を提供できないかと考え、APIでオープン化することにした」と山田氏は、名刺データをAPI公開した狙いを語る。
Sansanが公開したAPIとは
API公開した名刺データは、オブジェクトとして、下記の情報を外部のサービスから参照することができるという。
- company_idやperson_id、名刺交換日、名刺登録日などの「名刺プロパティ」
- 姓や名、部署、役職、emailなどの「人物情報」
- 会社名や所在地、電話番号、FAX番号などの「会社情報」
こうした名刺データのAPI公開がもたらす未来像について、山田氏は、次のように考えを示した。「例えば連絡先管理では、名刺データのAPIを活用することで、取り込んだ名刺の連絡先を自動的にメーラーに追加したり、どの端末からでも同じように使用したりすることができる。顧客管理では、顧客情報やキーパーソンの情報を、データ化された名刺情報によって常に最新に保ち、より強力な営業支援システムを実現できる。事務・経理関連では、日報を記入するときに名刺情報を呼び出せば、自動的に最寄り駅を判定して交通費精算することが可能になる。この他、名刺情報に付いたタグを選択するだけで、昇進祝いやお礼状などを印刷から配達まで一括で行えるシステムや、名刺交換した顧客の情報が地図上にプロットされ、近くの営業先をすぐに参照できるシステムなども実現可能だ」
名刺データのAPI連携で生まれたサービス
名刺データのAPI連携による具体的なサービス事例として、CRM連携やアドレス帳連携、MA(マーケティングオートメーション)連携、分析系連携を挙げ、それぞれのメリットについて紹介した。
CRM連携は、名刺から顧客リストにデータを取り込んで、さまざまなアプリケーションに活用する連携パターンだ。営業担当者が名刺データを入力する手間を大幅に削減できるため、CRMを定着しやすくなるというメリットがある。
アドレス帳連携は、Sansanに登録した名刺情報を、自動的に「Office 365」の「Exchange Online」の連絡先に取り込むサービス。名刺の情報は、名刺交換相手が提供する情報のため、アドレス帳の情報ソースとして極めて正確性が高いことが大きなメリットだ。またメーラーのオートコンプリートをオンにしておくことで誤送信のリスクを減らせる。その他、オンラインアドレス帳をスマホと同期させておけば、携帯電話にかかってきた電話が誰からなのか、会社名・部署名レベルで把握することが可能になるという。
MA連携については、Sansanによる「Marketo」の導入事例を紹介。「ビジネスインフラを加速させトップオブファネルを広げることを目指し、MarketoとSansanのAPI連携を行った。これにより、オンラインのMarketo、オフラインのSansanの両方で漏れなくリードナーチャリングを実行可能になった。またSansanのタグを利用して複雑な条件分岐を組み込み、このタグに応じた処理をMarketoで実現できるようにした」と山田氏は言う。SansanはMA連携の成果として、半年間で受注件数が2倍にアップしたとしている。
分析系連携では、機械学習機能を内蔵するデータ解析プラットフォーム「bodais」との事例を挙げた。bodaisとSansanの名刺データを連携することで、名刺情報から受注率の高い案件を分析できるサービスを実現。「分析系ツールとのAPI連携によって、会社資産として必ず保有している名刺情報をビッグデータのソースとして活用できるようになる」という。
「使ってもらえるAPI」のために必要なこととは
こうしたSansanの事例を踏まえて、山田氏は、API公開を検討している担当者に向けて、次のように提言した。「企業の中で正規化されていて、かつ大量に集まっているデータには、思っている以上の使い所がある。ただし、ここで重要になるのが、データの精度が高く、しっかり整備されていること。重複、ゆらぎ、抜けがあるデータは価値を感じてもらいにくい。データの価値が認められれば、想定を上回る使い手が現れる可能性がある」
“使ってもらえるAPI”のために必要な思考として、「API公開の際には、想定される顧客や、どのような情報群をどのような単位で公開するかを考え、その上で、ビジネスモデル(課金の仕組み)を考えることが大切だ。また、APIを活用するパートナーや顧客がいる状態でリリースできることが何より大事。それが、その後の利用連鎖を生む引き金になる」とアドバイスした。
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