「インテリジェンス」はシステム開発とユーザー体験をどのように変えていくのか:de:code 2017基調講演(前編)(2/2 ページ)
日本マイクロソフトは2017年5月23、24日に「de:code 2017」を開催。基調講演では、AI(人工知能)が今後のシステム開発やユーザー体験にどのような変化を起こしていくのか、多数のデモを交えて紹介された。
日本発のAIベンチャー「PFN」とDeep Learning分野で協業
Guggenheimer氏は、「今後もエコシステムを活用しつつ、コグニティブサービス群の強化を進めていく」と述べた。その一環として発表されたのが、Preferred Networks(PFN)とのディープラーニングソリューション分野における協業だ。
PFNは「AI」と「IoT」の融合によるイノベーションの創出を掲げ、2014年に創業したベンチャー企業。東京に本社、米国のカリフォルニア州に支社を置く。登壇した代表取締役社長の西川徹氏は、Deep Learningによるミニチュアカーの自動運転のデモ映像を流しながら、「デバイスから得たデータを学習するだけではなく、その結果をデバイスそのもののロバストな制御に結び付けられる点が、PFNのAIソリューションのポイント」であると説明した。
PFNでは、Deep Learningの研究開発を加速させることを目的に、オープンソースソフトウェア(OSS)のフレームワーク「Chainer」も公開している。2017年5月にリリースしたマルチノード対応の「ChainerMN」においては、画像分類のために必要な学習時間が、他の一般的なフレームワークより短く、より精度の高いモデルを作成できる点が優れているとする。
MicrosoftとPFNの協業では、PFNが開発する「Chainer」や「DIMo(Deep Intelligence in-Motion)」といったDeep LearningフレームワークのテンプレートをAzureプラットフォーム上でソリューションとして提供する他、Deep Learning人材の育成、共同でのワークショップの開催といったマーケティング面でのコラボレーションなど、広範な取り組みを行っていくという。「今回、PFNとして大きなチャンスを得ることができたが、これにはMicrosoftのサポートが必要不可欠だった。あらためて感謝の意を表したい」(西川氏)
もう海外カンファレンスも恐くない?――AIで変わるユーザー体験
ここからは、アプリケーションユーザーのエクスペリエンスが、AIによってどのように変化するのかを示すものとして、Microsoft製品へのAIの適用例が幾つか示された。
最初に紹介されたのは「Presentation Translator」。PowerPointを用いたプレゼンテーションのリアルタイム音声認識・翻訳機能だ。講演者は、Microsoftの翻訳ツールである「Translator」のエンジンをPowerPointのプラグインとして組み込むことで、この機能を使えるようになる。聴講者は、マルチデバイスに対応したMicrosoft Translatorアプリを使うことで、スマホやPCで好きな言語でプレゼンテーションを視聴し、講演者にチャットで質問することもできる。デモでは、講演者がスペイン語で話す内容や、iPhoneで聴講している人による英語の質問が、日本語に翻訳される様子が示された。これは、実験的に開発を進めているMicrosoftの「ガレージプロジェクト」の1つだという(参考)。
「デベロッパーはコグニティブサービスからAPIを利用することで、自らが開発するアプリケーションに、Presentation Translatorのようなリアルタイム翻訳機能をすぐに実装できる。ぜひ楽しんでほしい」(デモを行った、日本マイクロソフト テクニカルエバンジェリストの戸倉彩氏)
Guggenheimer氏は、Windows 10に搭載されたサポートエージェント「Cortana」などにも触れつつ、「われわれは、AIのプラットフォームを提供して全ての技術者がAIを活用できるようにするとともに、われわれ自身の製品開発にもAIの適用を進めている。AIを使うことで、企業がビジネスプロセスをどのように最適化していけるかがこれから重要になってくる」と付け加えた。
AIとデータによって「ビジネスプロセス」の最適化が進む
「AIによって、ビジネスプロセスを最適化していくに当たり、重要なのはデータだ」(Guggenheimer氏)――「Microsoft Graph」と、そこからアクセスできる多様なビジネスデータの組み合わせによって、これまで想像できなかったような新たなアプリケーションを生み出し、ビジネスプロセスを変えていくことができるというのがMicrosoftの考えだ。
Microsoft Graphは以前「Office 365 unified api」と呼ばれていた、Office 365で提供されているサービスやデータにAPIベースでアクセスできる機能群の総称だ。ここでは、「自動車保険」の販売代理店を想定し、「Dynamics CRM」の顧客データとチャットbotを組み合わせた新規契約受付のシナリオが示された。
顧客はチャットbotを通じた会話によって、契約のプロセスを開始する。botのバックエンドではCRMから取得した顧客情報が呼び出され、もし既存の顧客であれば、それに応じた適切な返答が行われる。botの指示で、顧客が購入した新車の画像をアップロードすると、その画像から車種が自動的に認識され、新たな保険の見積もりが提示される。ここまでは、完全にAIによる自動的なプロセスだ。
見積もりに対し、顧客が値引きを要求した場合など、自動応答のスクリプトから外れる場合には、人間のオペレーターに取り次いでプロセスが進んでいく。その際、AIは予測モデルを参照して、その顧客が他の保険会社へ乗り換える可能性や、「何%値引きすれば、契約する可能性がどの程度高まるか」といった情報を瞬時にオペレーターに提示する。CRM上のデータに対する分析結果を、個々の顧客に向けたアプローチへ落とし込む過程を、AIのサポートにより効率的に進められるという。
後編へ続く
Guggenheimer氏は、ここまでの内容を振り返りながら次のように述べて、基調講演の前半を締めくくった。「今回お見せしたデモの多くは、既に利用可能な技術を基に作られている。AIをどのように自社のプロダクトやビジネスプロセスの変革へと取り入れられるのか。ぜひ試してみてほしい。AIは人間の創造力を豊かにするテクノロジーであり、MicrosoftのAIプラットフォームには、大きなチャンスがある」
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