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企業が“デジタルジャーニー”に旅立てない理由――Lakeside Software創業者マイケル・シューマッハ氏に聞く「人がハッピーになれなければ、ITに意味はない」

クラウドやモバイルが社会に深く浸透し、ITがビジネスや生活、社会に直結している今、ITサービス/システムの運用方法にも再考が求められている。では、どうITを運用すれば、人、企業、社会を幸せにすることができるのか?――2017年9月に日本法人を立ち上げたLakeside Software創業者 マイケル・シューマッハ氏に話を聞いた。

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デジタルトランスフォーメーションの取り組みを左右する「可視化」

 デジタルトランスフォーメーションのトレンドが進展し、ビジネスはITサービスを通じて提供する「顧客体験価値の競争」に変容しつつある。注目すべきは、ITサービスが収益、ブランドを左右する重要な顧客接点となった今、サービスの企画性、機能性だけがビジネスの勝敗を決する要因とはなっていないことだろう。

 全く新しい価値を、いかに競合に先んじて開発、リリースしたところで、レスポンスが遅れたり、快適に使えなかったりすれば、むしろ逆効果になってしまう。具体的には、「アプリケーションの性能劣化がユーザー体験にどのような影響を与えているか」「ユーザー体験が低下したことでどのくらいサービスから離脱したか」「その結果、ビジネスにどのような影響が出たか」といったビジネスへの影響度をさまざまな視点から計測、分析することが不可欠となっている。

 問題は「利便性、快適性」だけではない。例えば、「新サービスを展開しているWebサイト上にセキュリティリスクが発生していないか」「サービスを提供するためのインフラやデバイスが、ライセンスなどのガバナンス、コンプライアンスを満たしているか」などだ。

 無論、こうした監視を行う上で、アプリケーションパフォーマンス監視、ログ管理、IT資産管理など、個別の管理ツールはこれまでも使われてきた。だが、ITサービスとは企業のビジネスモデルであり、いわば企業の顔となる存在だ。従って、「フロントエンドからバックエンドまで一貫した視点で監視し、ビジネスを阻害する問題にプロアクティブに対処する」ことは、ますます重要になっている。社内向けのITサービスについても、それがビジネスの推進を支えている以上、同じことがいえるだろう。


Lakeside Software CEO マイケル・シューマッハ(Michael Schumacher)氏

 そうしたパフォーマンス管理からIT資産管理まで、一貫したビューで可視化できるツールが存在する。2017年9月に日本法人を立ち上げたLakeside Softwareのワークスペース アナリティクス ソリューション「SysTrack」だ。1997年、Lakeside Softwareを創業し、CEOを務めるマイケル・シューマッハ(Michael Schumacher)氏は、昨今のデジタルトランスフォーメーションのトレンドについてこう話す。

 「ビジネスに限らずどんな取り組みでも、きちんと将来像を描いてゴールまでのジャーニーを明確に定義することが必要です。しかし昨今は経営環境変化が速く、人々のニーズも多様化しており、ジャーニーを定義することがより難しくなっています。一方、技術面では、クラウドの普及によってセルフサービス化が進み、企業内ではシャドーITが問題になっていますし、多様なデバイス、アプリケーションの利用が広がるなど、社内・社外を問わず、現在はITの全てを把握・コントロールすることが難しくなっています。しかしデジタルトランスフォーメーションのトレンドが進展し、ITがビジネスに直結している以上、変化が激しい経営環境の中でもジャーニーを追求するためには、ITを使ったビジネス/サービスが誰に、どのように使われ、どのような影響をもたらしているのか把握することが肝要です。つまり、自社が関わるITの状況を『どう可視化するか』が、ビジネスの成否のカギを握っているといえるでしょう」

 かといって、ユーザーの利便性を阻害してまでITの使われ方をコントロールするのはナンセンスだ。逆にコントロールすることも現実的には難しいだろう。ではどうすれば良いのか?――SysTrackが評価される理由は、そうした点にあるという。シューマッハ氏は「ユーザーの自由度とITガバナンスはクルマの両輪です。両輪をうまく回すために、SysTrackではユーザー体験とガバナンス状況を数値化し、相関分析によってコントロールしていくことができるのです」と話す。

ユーザー体験やガバナンス状況を数値化・相関分析し、より良い対策を支援

 では「ユーザー体験やガバナンスの数値化」とはどのように行われるのか。SysTrackが掲げているコンセプトは、「ワークスペースアナリティクスソリューション――ユーザーの操作とシステムの状況を定量的に可視化・分析することで、“ビジネス全体を成功に導くための価値ある洞察を提供する”」というものだ。

 具体的には、「ユーザー体験の管理」「ライセンス管理」「ユーザー行動の監視」「アプリケーションの性能管理」という大きく4つの機能を統合して実現する。一般的には、これら4つはアプリケーションパフォーマンス管理ソフト、IT資産管理ソフト、操作ログ管理と分析ソフトなど、個別のソフトウェアで管理されている例が多い。SysTrackはこれらを統合し、それぞれから得られる項目を相関分析することで、ビジネスの生産性やユーザー体験向上につながる、より効果的・合理的な施策の実施を支援することを狙っている。

 例えば、社員のテレワークを推進しようとする際、SysTrackを利用すると、社員の働き方を把握しながら、きちんとしたユーザー体験が提供されているかを確認できる。「PCを使って自宅で働いているのか」「タブレットを使ってカフェなどで仕事をしているのか」「その際のネットワークの状況はどうか」「アプリケーションのレスポンスの状況はどうか」など、社員1人1人の働き方とITの使われ方を把握できる。もちろんリアルタイムの状況だけではなく、蓄積された情報を基に任意の期間の傾向も把握できる。


SysTrackの画面

 しかし個別の管理ソフトウェアを組み合わせて使っている場合、各ソフトウェアからいったんデータを収集してIT部門などが分析してレポートしなければならない。SysTrackはそうした手間なく、即座に1つの画面から全ての状況を把握可能としているわけだ。

 シャドーITの監視など、セキュリティリスクの把握にも有効だ。SysTrackは「各IT資産が、権限を持ったユーザーによって正しく利用されているか」を監視できる。シャドーITとして申請なくIT資産が利用された場合は、それが記録され、グラフィカルに実態を把握できる。

 「ソフトウェアのライセンス状況の可視化」「利用していないストレージやサーバなどの発見」なども行えるため、不要なライセンスやリソースの削減にも役立つ。もちろん、アプリケーションのパフォーマンス劣化の予兆や原因を過去データから検知・分析し、プロアクティブな解決を支援する機能も備えている。

 この他、「PCがWindows 10に移行できるかどうか、アプリケーションの互換性とハードウェアスペックを分析する」機能などもあるという。シューマッハ氏は「ユースケースを1つ1つ数え上げていったら180件くらいにはなります」と話す。

 「中でも典型的なユースケースは、物理/仮想/クラウド環境を含めたヘテロジニアスな環境におけるIT資産の利用状況のアセスメント、社員のユーザー体験のスコアリングと評価、ハードウェアをどの時期にリプレースすべきかの分析、Office 365などのクラウドサービスへの移行による効果の算定などです。これらは単一のソフトウェアでは算出が難しいのですが、SysTrackなら簡単に行えます」

 例えば、ある自動車メーカーでは、社内で使われているCADソフトのライセンス数と利用状況を調査した。さまざまな環境で多様なCADソフトが使われており、利用実態が分からなかったが、SysTrackで調査したところ、インストールされているライセンスのうち900台は利用に問題があったという。それらを削減したり、低価格のCADソフトやビューワーなどに入れ替えたりすることで、数千ドルの投資を抑制できたという。

IBM Watsonを活用し、問題を自動的に特定、事前に対処

 なお、SysTrackは対象となるエンドポイントにエージェントをインストールし、エージェントから得られるデータを収集・分析する仕組みだ。1000種類以上のデータ項目が15秒ごとに収集され、マスターに集約される。製品のコンポーネントとしては、システム全体の状況を可視化するダッシュボードのための「Visualizer」、リアルタイム分析をする「Resolve」、KPIに基づいたリアルタイムヘルスチェックを行う「vScape」、ダッシュボードやレポートをカスタマイズする「Dashboard」などがある。

 技術面での大きな特徴の1つは、エンドポイント側にいったんデータを保存する仕組みとすることで、SysTrackを稼働させるサーバのCPUやメモリ、ストレージ、ネットワークに負荷をかけずデータを収集できることだ。CPU使用率は0.5%、メモリ使用量は50MB未満、ネットワークは1日150KBで済むという。

 もう1つの特徴は、分析エンジンとしてIBM Watsonを活用し、診断の自動化やエンドユーザー自身による問題解決を支援できることだ。「Ask SysTrack」というコンポーネントを利用すると、自然言語対応の検索インタフェースが提供され、問題の特定を素早く行える。

 「PCが重たくなって、社内のIT部門に調べてもらった経験のある人は多いでしょう。私もそうです。ヘルプデスクに電話して問題を報告し、調査を待って事態が改善するまでに何時間もかかる場合もある。ただ、私が経験したトラブルの場合、原因は本来1Gbpsでつながるべきネットワークインタフェースが条件によって10Mbpsでしかつながらなくなったことでした。こうしたことは本来ヘルプデスクに問い合わせるまでもないことです。問題を速やかに自己診断できればいいし、さらには問題が起こらないよう、ITが自動的に対処してくれればいい。SysTrackはWastonを使うことでそうした対処の自動化を支援します」

 今後は例えば、ビデオ通話を行っている際に映像が乱れたら、原因を特定して「Wi-Fiのアクセスポイントに近づいてください」といった提案を行うなど、ITで対処できる範囲を超えた、よりきめ細かな問題解決支援を実現する予定だという。

日本法人を立ち上げ、日本企業のインフラ変革、人の役割変革を支援

 日本での展開については、前述のように2017年9月に日本法人レイクサイド ソフトウェアを立ち上げ、急ピッチでソリューションパートナーや販売パートナーとの関係作りを進めているところだという。このタイミングでの日本参入について、「20年の実績の中で、金融、製造、保険など4000社に導入されてプロダクトが成熟し、ITを使う“人”の利便性に、よりフォーカスできるようになったこと」「コンセプトを含めて日本企業へのローカライズがようやく整ったこと」が背景にあったという。

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「Lakeside Softwareが追求しているのは、“真の意味でのピープルセントリックなソフトウェア”。ITで効率性と生産性を上げ、人生をハッピーにできることにこそ、ソフトウェアの価値があります」

 「Lakeside Softwareが追求しているのは、“真の意味でのピープルセントリックなソフトウェア”です。単にプロダクトを利用しやすく作るのではなく、それぞれの企業が作ってきたITの在り方や人の在り方を踏まえ、それを最適化するためのツールを提供したいと考えています。ITは“人”ありきです。ITで効率性と生産性を上げ、人生をハッピーにできることにこそ、ソフトウェアの価値があります」

 日本国内で進むデジタルトランスフォーメーションなどの新しい取り組みについても、「社員がハッピーにならなければ意味はない」と話す。特にIT部門は、運用管理を中心に目の前に山積する課題にリアクティブに対応することで日々忙殺されている。新しい取り組みと人手不足がそれに拍車を掛けている。

 「運用の効率化や自動化によって、できるだけプロアクティブに対応できる環境作りを進めていくことが重要です。最終的には運用がプロアクティブにならなければ、開発がないがしろになってきます。IT運用を自動化し、マニュアルジョブを減らし、より付加価値が高いジョブをこなす方向にシフトしていく。SysTrackはそうした役割の変革を推進するツールでもあります。日本の企業が新しい取り組みにどんどんチャレンジできるよう、ツールを通じて支援していきたいと考えています」

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