Scrum Inc.に聞く、アジャイル開発がうまくいかない理由と、イノベーションを起こすために必要なこと:DX時代のDevOps/アジャイルヒーローたち(1)(3/3 ページ)
デジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドが進展し、テクノロジーの力を使って新しい価値を打ち出す「企画力」と「スピード」が、ビジネス差別化の一大要件となっている。その手段となるアジャイル開発やDevOpsは企業にとって不可欠なものとなり、実践に乗り出す企業も着実に増えつつある。だが国内での成功例は、いまだ限られているのが現実だ。本連載ではDevOps/アジャイル開発の導入を支援しているDevOps/アジャイルヒーローたちにインタビュー。「ソフトウェアの戦い」に勝てる組織の作り方を探る。
変わるなら、今このタイミングしかない
編集部 内製が一般的な米国企業とは異なり、日本では開発を外部のSIerやパートナーに依頼していることがほとんどです。そうした企業がアジャイル開発を取り入れるにはどうすれば良いとお考えですか?
シュナイアー氏 一番良い方法は、自社の中にアジャイル開発をよく知るエバンジェリストやコーチを招くとともに、アジャイル開発チームを設置し、SIerやパートナーのメンバーと一緒に実践し、取り組みを進めることです。アジャイル開発を導入したい企業が、まずアジャイル開発を学び、自らプロジェクトの推進役になるのです。それが難しいなら、アジャイル開発をよく分かっているパートナー企業に頼み、全てのメンバーが同じ部屋で席を並べて一緒に取り組む。絶対にしてはいけないのは、「アジャイル開発はよく分からないから」と外部に丸投げすることです。
編集部 一方、SIerとしてはアジャイル開発にどう取り組んでいくべきでしょうか?
シュナイアー氏 アジャイル開発はデジタルトランスフォーメーションの文脈に限らず、これからのシステム開発に欠かせない手法です。エンジニアを育てる環境がないというなら、ノウハウを持つエンジニアを雇用したり、もしくはアジャイル開発に強い企業を買収してでも事業に組み込んだりしていくことが求められると思います。
編集部 アジャイル開発が日本で普及しないのは、そもそも社会や企業におけるエンジニアの知見・スキルへの無理解や待遇の問題があるともいわれています。
シュナイアー氏 そう思います。日本におけるアジャイル開発やスクラムのビジョナリにKDDIの藤井彰人さんや永和システムマネジメントの平鍋健児さんらがいます。彼らがScrum Inc.に来た際、強く訴えていたのは「エンジニアの地位が低いと、良いシステムを作れない。だからそこから変えたい」ということでした。私も強く同意します。エンジニアをエンパワーしていくことで、組織やビジネスを変えていくことができるのですから。
参考リンク:なぜ、今アジャイルなのか?〜社員の価値向上、本当に役立つサービス開発へ〜(KDDI Cloud Blog)
編集部 今後、日本企業が変わっていくためには、どうすればよいとお考えですか?
シュナイアー氏 アジャイル開発やスクラムの考え方に触れた若い人をどんどん登用することです。また、ビジョナリの人を雇って、強いリーダーシップでチームをリードしてもらう。経営トップは、態度をオープンにして、言いたいことを言えるような環境を整える。エンジニアは口に出して自分の意見を述べる勇気を持つ。オープンさと勇気が一緒になれば、イノベーションが起こります。変わるのを待っていては手遅れになります。ミスを犯すことを恐れることこそ最大のミスです。
編集部 冒頭でのお話のように、企業全体でスクラムの考え方を取り入れていくことが求められるということですね。
シュナイアー氏 その通りです。スクラムはリスクマネジメントの手法でもあります。変化が激しい経営環境において、全てを定義してから開発に取り組むウオーターフォール型開発だけではリスクが大き過ぎます。アジャイルのタイムボックスで、小さく失敗して速く失敗から学ぶことが重要です。周知の通り、デジタルトランスフォーメーションへの対応が遅れることで、ビジネス基盤そのものがひっくり返される可能性も生じています。自社を強い組織に変えるなら、今このタイミングしかないと思います。
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