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Pivotal Labsに聞く、日本企業とエンジニアが共にハッピーになる方法DX時代のDevOps/アジャイルヒーローたち(2)(1/2 ページ)

デジタルトランスフォーメーションのトレンドが進展し、ビジネスが「ソフトウェアの戦い」に変容している。戦いの手段となるアジャイル開発やDevOpsはもはや不可欠なものとなり、実践に乗り出す企業は着実に増えつつある。だが国内での成功例は、いまだ限られているのが現実だ。そこで本連載ではDevOps/アジャイル開発の導入を支援しているDevOps/アジャイルヒーローたちにインタビュー。今回は、Pivotal Labsに話を聞いた。

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アジャイル開発を行う潜在能力を持つ人材は、どんな会社にも必ずいる

 デジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドが進展し、ビジネスが「ソフトウェアの戦い」に変容している。「価値を生み出すスピード」が勝敗のカギを握るという認識も多くの企業に浸透し、その実現手段となるアジャイル開発に取り組む企業が着実に増えつつある。

 だが周知の通り、DXトレンドが立ち上がるずっと以前から、多くの企業が取り組んできながら、うまく実践できずに失敗してしまったケースは枚挙にいとまがない。とりわけ大規模企業における失敗例を受けて、「スタートアップなど小規模組織には向くが、ステークホルダーが多い大企業には向かない」といった短絡的な解釈も流布してしまうなど、多くのチャレンジが、かえって企業の心理的ハードルを高めてしまった傾向も見受けられる。しかし、そうしたフェーズにとどまり続けることは、もはや市場環境が許さない状況になっているといえるだろう。

 「今、アジャイル開発には多くの企業が関心を寄せていますが、まだまだ多くの誤解があるのが現実です。プロジェクトが失敗してしまうのも、そうした誤解があるまま取り組みを進めてしまうためだと考えます」

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Pivotal Labs Tokyo シニアディレクター ダニー バークス(Danny Burkes)氏

 こう語るのは、Pivotal Labs Tokyoのシニアディレクター、ダニー バークス(Danny Burkes)氏だ。CI/CD実践基盤となるPaaSソフトウェア「Pivotal Cloud Foundry」(以下、PCF)を提供している米Pivotalが運営するPivotal Labsは、1989年、サンフランシスコに設立されたコンサルティングファームが始まり。

 以来、25年以上にわたって多くの企業にアジャイル開発のノウハウを伝えてきた実績を持ち、「PCFを実際に使いながら、アジャイル開発ための知識、ベストプラクティス、先端テクノロジーを習得できる拠点」として、今や世界中の企業に知られている。バークス氏は、サンフランシスコのPivotal Labsで責任者を務めた後、2015年から東京で責任者を務めている人物だ。

 多数の企業を見てきた同氏によると、アジャイル開発には大きく2つの誤解があるという。1つが「アジャイル開発はウオーターフォール開発をスピーディーにしたもの」という、ずっと以前からある誤解だ。例えば「要件定義から設計、開発、単体テスト、統合テストまでのスケジュールを、1年ではなくもっと短いスパンで実施していく」といった具合に誤解してしまう。

 「アジャイル開発はそういったものではありません。最小限の機能を持つMVP(Minimum Viable Product)を作り、短いスパンで機能改善を繰り返すイテレーションを行いますが、繰り返すものはウオーターフォール開発で行う要件定義〜設計〜開発〜テストとはまったく違います。そもそも要件を初めからしっかりと定義することはまれです。ここが理解されていない例が多く、イテレーションでつまずくケースが目立ちます」

 もう1つが「アジャイル開発ができる人材が社内にいない。だから社外に丸投げせざるを得ない」という誤解だ。

 「どんな企業にもアジャイル開発の推進役となり得る人材は必ずいます。単にその能力が発見されず、日々黙々と作業をこなしているだけなのです。そうした人に光を当て、能力を解放してあげると本来の力を発揮しだすと思います。その支援をするのがPivotal Labsです」

事業部門の担当者と開発者が“ひざを突き合わせて開発”する

 アジャイル開発に対する誤解や失敗を生む一要因としてバークス氏が指摘するのは、やはり「米国と日本の開発体制の違い」だ。周知の通り、米国企業では、多数のエンジニアを自社で雇用し、開発を内製化していることが多い。一方、日本の情報システム部門のミッションは企画・設計が中心で、実際の開発・運用はパートナーやベンダーに外部委託しているケースが一般的だ。

 従って、開発プロジェクトは主体となる企業と複数のパートナーが共同で進めることになるが、そもそも組織が異なるため人材交流が進まず、スキルや知見、ノウハウが共有・継承されないという課題が生じやすい。またプロジェクトに関わるIT部門、業務部門、パートナー、ベンダー、それぞれの責任範囲も曖昧になりがちな上、利害が相反することも少なくない。結果として、チームとして一体的に開発に取り組むことが難しくなり、失敗するというわけだ。

 「その解決策は、プロジェクトの主体企業とそのパートナー/ベンダー、それぞれの担当者が直接ひざを突き合わせて開発を進めることです」とバークス氏は話す。Pivotal Labsは「イノベーションワークショップ」という週40時間のソフトウェア開発プログラムを通じて、その実践を支援する。

 「イノベーションワークショップ」では、受講企業のプロジェクトマネジャー、エンジニア/開発者、プロダクトデザイナーなどが、Pivotal Labsのオフィスに毎朝“出社”して、「実際にビジネス展開するプロダクト」をPivotal Labsのトレーナーと共にペアプログラミングで作り上げていく。

  定時は9〜18時で、9時6分から全体朝礼(デイリースタンドアップ)とチーム朝礼(チームスタンドアップ)を行う。朝礼を行うスペース近くには、付箋(カンバン)を貼るためのホワイトボードをはじめ、軽食を取るコーナー、卓球台などが設置されており、休憩時間には外出せずに昼食を取ったり、卓球に興じてリラックスしたりすることができる。

 開発作業は専用スペースで行う。顧客企業ごとにPivotal Labsのトレーナーが付きっきりでペアプログラミングを行い、プロダクトを開発していく。天井付近には大型モニターが設置され、タスクやスケジュールの進捗(しんちょく)がひと目で分かるようになっている。ただし、情報管理はチームごとに行うことで、業務上の秘密などは他社に漏れないよう工夫されている。

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Pivotal Labsのコーチとペアプログラミングを行い、アジャイル開発を体得する

 1日の開発作業が終わると、その日の反省会(レトロスペクティブ)を行う。毎週金曜日には週の反省会があり、翌週の開発計画を確認する。反省会では、ビールの小瓶を片手に和気あいあいと行われることもあるそうだ。毎日18時には全員が退社する。残業する人などもちろんいない。ノウハウ、スキルのみならずカルチャーも含めて、アジャイル開発をまさしく“体得”できるプログラムとなっているのだ。

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