マダイ養殖の選別作業をAIで自動化、日本マイクロソフトらがシステム開発:1200万匹の目視検査を効率化
近畿大学水産研究所と豊田通商、日本マイクロソフトは、AIを活用した「稚魚自動選別システム」を開発した。画像解析と機械学習技術を組み合わせて、これまで作業員の経験と集中力に頼っていた作業を自動化する試みだ。
近畿大学水産研究所と豊田通商、日本マイクロソフトは2018年8月21日、「稚魚自動選別システム」を開発したと発表した。AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)などを活用して、従来人手に頼っていた養殖現場での稚魚選別作業の自動化を目指す。
近畿大学水産研究所は、「近大マグロ」など、多くの魚種の養殖研究を手掛けている。その大きな柱の一つがマダイだ。同研究所が近畿大学水産養殖種苗センターで生産しているマダイの稚魚は約1200万尾で、これは日本の年間生産量の24%に当たる。
稚魚の出荷に当たっては、生育不良のものを取り除くなど、専門作業員が選別している。具体的には、いけすからポンプで吸い上げた稚魚をベルトコンベアーに載せ、作業員が生育不良の個体を目視で見分ける。この作業は、作業員の経験と集中力が高度に要求されるため、作業員の体力的負担が大きく、自動化が長年の課題になっていた。
近畿大学水産研究所が、豊田通商や日本マイクロソフトと共同開発したのは、画像解析と機械学習技術を組み合わせた稚魚の自動選別システムの第1段階。豊田通商は、自動化システムのハードウェア設計とプロトタイプ構築を担当。日本マイクロソフトは、移送ポンプの流量をリアルタイムで自動調節するシステムを開発した。これには、Microsoft AzureのIoT機能「Cognitive Service」とAI機能「Machine Learning」を活用した。
ポンプの水量調節に課題があった
現在稼働している自動選別システムは、選別工程全体のうちポンプ制御に関する部分。稚魚の選別工程で重要なのがポンプの流量調節だ。水量が多すぎると一度に吸い上げる稚魚が多すぎて、人手による選別作業が追い付かなくなる。水量が少ないと稚魚が少なくなり、作業効率が落ちる。
そこでポンプの前後に監視カメラを置いて画像を撮影し、Azure Machine Learningで解析、結果をポンプのインバーターに送り、稚魚の流量を自動制御した。
具体的にはベルトコンベアー上の魚影面積と隙間の面積をAIによって解析し、まず、一定面積当たりの稚魚数を分析する。並行して稚魚選別作業員の作業ワークロードを機械学習させた。これらの情報を基に選別作業の最適値を求め、ポンプの流量を自動調節している。
2018年8月現在は実証実験の段階。今後は実証実験によって取得したデータを分析し、それを基に改良した制御システムを、2019年3月までに本稼働させることを目指す。
稚魚自動選別システムでは今後も自動化できる部分を拡張する予定だ。第2段階では、現在目視に頼っている生育不良個体を取り除く作業についても、画像解析と機械学習を活用して自動化する計画だ。
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