【Wi-Fi】Wi-Fi速度のギモンを解消。2019年版Wi-Fiの教科書:ITの教室(1/2 ページ)
最新の無線LANルーターを購入したのにもかかわらず、全く性能が向上しない、速度向上を体感できない、といった経験がある人もいるだろう。また、無線LAN(Wi-Fi)は多くの規格があり、分かりにくく、どういった製品を購入したらよいか分からないという人も多いのではないだろうか。そこで無線LANルーターを例に、購入ポイントとなる規格を整理する。
現在では、インターネット接続を行う「ルーター」と無線LANの「アクセスポイント」は一体化されているものがほとんどで「無線LANルーター」「Wi-Fiルーター」などと呼ばれている(携帯電話回線を利用するものは、「モバイルWi-Fiルーター」と呼ばれ、本稿では対象にしない)。光ファイバー接続やADSLなど、さまざまなインターネット常時接続サービスでは、こうした無線LANルーターを使うことが少なくない。
さすがに企業規模が大きくなると、社内に有線のネットワークを構築するため、ルーターと無線LANアクセスポイントは分離されるが、マンションや雑居ビルの一室程度の小規模な事務所、サテライトオフィスや店舗などでは、無線LANルーターで済ませているところも少なくないだろう。
無線LANルーター市場には多くの企業が参入しており、家電量販店などでも多数の製品が並んでいる。価格にも幅があり、安価なものもあれば、高価な製品もある。高価な製品の多くは、高速な無線LAN接続をうたう。しかし、実際に使って見ると、速度向上を体感できないこともある。これはなぜだろうか?
例えば、タスクマネージャーの[パフォーマンス]タブにある[Wi-Fi]項目を見てみると、現在、接続している速度や電波(シグナル)の強度を確認することができる。この画面を見て、予想よりも遅い速度でしか接続できていないような場合には、何らかの問題があることが分かる。
タスクマネージャーの[パフォーマンス]タブにある[Wi-Fi]項目
この画面を見ると、実際の通信速度などが確認できる。なお、グラフの縦軸のスケールは接続している状態によって変わるので注意。また、コマンドラインで「netsh wlan show interfaces」とすることで、仕様や信号強度(%表記)、論理最大速度などを表示させることもできる。
なお、無線LANルーターや無線LANアクセスポイントなどを「親機」、そこに接続するPCやスマートフォンを「子機」と呼ぶことがある(一部の専門家には不評だが……)。また、USBの無線LANアダプターなどを子機側に含めることも少なくない。もともとは、家庭向けのコードレス電話などで、本体と、分離可能な部分という意味で「親機」「子機」という表現があったのだが、同じように無線を使うため、こうした名称を使うことが多い。
本稿でも無線LANルーターや無線LANアクセスポイント、無線LAN中継器などネットワーク側機器を「親機」、PCやスマートフォン、無線LANコンバーターなど無線ネットワークの末端となる機器を「子機」と総称することにする。これは対象を列挙すると文章が煩雑になるからだ。
速度が出ない原因は、それは子機にあり
無線LANルーターを最上位機種に変えても、速度向上を体感できない原因は、子機側が最新ではないからだ。他にも下表のような原因も考えられるが、主に子機に要因がある。
原因 | 理由 | 対策 |
---|---|---|
古いスマホやタブレットをまだ使っている | IEEE 802.11nはIEEE 802.11b/gが混在すると速度が落ちる | クライアント機器を最新の対応機器に変更(最低でもIEEE 11n対応、できればIEEE 802.11ac対応) |
集合住宅で近隣家庭でも無線LANを使っている | 高速になるほど広い帯域を使う。近所の無線LANと利用周波数が同じになっていると速度が出ない | 他の家が使っていない周波数を使う |
2.4GHzで接続している | 高速な通信は、5GHz帯でのみ可能。安価なPC、スマートフォンなどは2.4GHzにしか対応していない | 5GHzのIEEE 802.11acに対応した機器に変更 |
家(利用エリア)が広すぎる | 電波の強さは距離の2乗に反比例する。また壁などで吸収されて弱くなる | 無線LANルーターの位置を動かすか、無線LAN中継器を買う |
インターネット接続速度が速くない | 数字が示すのは無線LANの速度。インターネット接続は契約や接続方式、プロバイダーで速度が違う | インターネット接続契約の確認、プロバイダー変更など。ローカル接続で最大速度が出る |
高い無線LANルーターを買ったのに意外にスピードが出ない理由と対策 |
子機が対応している仕様が古いために、無線LANルーターが搭載している最新仕様に対応できないためだ。つまり、無線LANルーターだけを最新のものに変更したとしても、子機がそれに対応していなければ、速度は変わらない。
1つの仕様の中でも、技術の進歩に合わせて発展できるように、オプションとした機能がある。オプション機能は、当初、業務用などの高価な製品には搭載され、半導体などのコストがある程度下がってから一般向けの製品に搭載されることが多い。このため、同じ仕様であっても、やはり年々改良され、性能が上がっていく。
しかし、子機側、スマートフォンやPCを毎年買い換える人はまれで、普通は、2〜3年、場合によっては数年以上使うこともある。無線LANの仕様は基本的にはハードウェアで実現されているので、子機側のソフトウェアのバージョンアップで新しい機能に対応したり、性能が上がったりすることはほとんどない。
そもそも、無線LANルーター側は、性能や機能が「セールスポイント」であるため、それを全面に出して販売する。しかし、スマートフォンやPCに関しては、無線LANは、幾つもある機能のうちの1つにすぎない。CPUやクロック周波数、搭載メモリ量やストレージ容量に比べると、注目度は低く、カタログなどでも、単に仕様名が記載される程度で、仕様の中でどの機能に対応しているのかなどは記載されないこともある。
子機の仕様を確認することが重要
PCやスマートフォンなど子機側の仕様を正確に得るには、メーカーのサイトを調べたり、問い合わせたりするなどしか方法がない。しかし、簡易な方法として、製造年と仕様の制定年を比べることで、大まかにどの仕様に対応しているのかを知ることができる。ポイントは、子機をいつ買ったのかではなく、子機がいつ作られたのかである。子機が製造された年に存在していなかった仕様に対応するのは不可能なので、ここから類推することになる。
PCやスマートフォンは、毎年、新機種が登場するため、よほどの事がない限り、数年前の製品が販売され続けることはない。メーカーサイトで、該当機種の発表年や発売時期(2017年秋モデルなどの表現)を捜せばいい。発売後2〜3年ぐらいは市場に商品が残ったり、旧機種の設計を元に廉価版の製品を作ったりすることもあるが、そうした機種は少ないだろう。
下表は、仕様の制定年から無線LAN仕様を推測するための手掛かりだ。現在主流の無線LANの高速通信は、IEEE 802.11acとIEEE 802.11nという仕様に基づいたもので、これ以前の仕様では、無線LANルーターがうたう最高速度は利用できない。ポイントは、「2009年」「2013年」「2015年」の3つの年である。簡単に言えば、2016年以降に登場した製品は、高速な通信が行える可能性がある。
ただし、5GHz帯への対応は、認証コストが高く、低価格な製品では搭載していないことが多い。また,IEEE 802.11ac対応でも「ピン」から「キリ」まである。
年 | 対応規格 | 説明 |
---|---|---|
2009年 | IEEE 802.11n | 製造時期が2009年よりも古いスマートフォンやPCはIEEE 802.11nに対応していない。 2.4GHz IEEE 802.11g 最大速度54Mbps 5GHz IEEE 802.11a 最大54Mbps |
2013年 | IEEE 802.11ac WAVE1 | 製造時期が2013年よりも古いスマートフォンやPCはIEEE 802.11acに対応していない。 2.4GHz/5GHz IEEE 802.11n 最大600Mbps |
2015年 | IEEE 802.11ac WAVE2 | 製造時期が2015年よりも古いスマートフォンやPCはIEEE 802.11ac WAVE2に対応していない。 2.4GHz IEEE 802.11n 最大600Mbps 5GHz IEEE 802.11ac WAVE1 最大1300Mbps MIMO |
2016年 | 製造時期が2016年以降で5GHzに対応していれば、IEEE 802.11ac WAVE2に対応している可能性がある。 2.4GHz IEEE 802.11n 最大600Mbps 5GHz IEEE 802.11ac WAVE2 最大1733Mbps MU-MIMO |
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子機の製造年と無線LANの仕様の制定年からおおよその対応を推測できる。少なくとも仕様が制定される前に作られた子機は、新しい仕様には対応していない。 |
なお、2019年中にIEEE 802.11axと呼ばれる最大速度9.6Gbpsに対応した規格の製品が提供される予定だ。この規格が提供されるようになると、規格名での呼び方を変更し、IEEE 802.11n対応の製品は「Wi-Fi 4」、IEEE 802.11ac対応の製品は「Wi-Fi 5」、IEEE 802.11ax対応の製品は「Wi-Fi 6」という呼び方に変更される。
無線LANルーターの性能差はどこにある?
実際、無線LANルーターの性能に幅があるのも、このIEEE 802.11acという仕様の中で「オプション」とされている仕様の実装程度により、論理的な速度が変わるからだ。それがコストに反映されるため、価格と性能に幅がでることになる。これは、子機側の無線LANについても同じだ。
IEEE 802.11ac対応の無線LANチップにも、さまざまなものがあり、一般に価格が高いデバイスほど高性能になり、これは当然、製品価格に反映される。その他、高速なネットワークになると、子機側のシステム全体の処理速度も影響が大きくなる。Webページの表示やダウンロード速度は、ネットワークからメモリ、メモリからストレージなどへの転送速度にも影響を受ける。
CPUが十分な性能を持っていなかったり、メモリが少ない、ストレージが遅いなどのハードウェアスペックと同時に行われている他の処理などが影響したりして、ネットワークを利用するブラウザの表示やダウンロード速度が落ちてしまう可能性もある。デスクトップPCなどでは、比較的リソースが豊富で、ハードウェアはボトルネックになりにくいが、PCでも安価なタブレット製品やスマートフォンなどでは、ハードウェア性能が影響する可能性は否定できないところだ。
もう1つ注意することは、古い仕様の無線LANを使う機器と最近の仕様に対応した機器がネットワーク内に混在すると、ネットワーク全体の速度が遅くなることだ。無線LANの仕様には、現在では大きく5つあり、このうち、3つは、制定時期が古く、低速な仕様である。古い仕様のデバイスを使わないようにすれば、無線LANのネットワークは高速に動作できるようになる。
また、インターネット接続方式や契約などについても確認しておく必要がある。ネットワーク機器が「速くない」と感じる原因の1つは、Webページの表示やダウンロードなどのインターネットの利用時である。
しかし、インターネット接続の最大速度は、契約や接続方式で決まり、無線LANルーターを高速化したからといって速くなるわけでもない。インターネットの場合、そもそも相手側のサーバがそれほど速くない、あるいは速くない接続を使っている可能性があり、一概に自分の契約や接続方式が問題になるわけではないが、少なくとも理論上の速度は、インターネットプロバイダーなどとの契約や接続方式で決まってしまう。
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