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「目指すは家全体のスマート化」、“IoT建材”で凸版印刷が狙っていること予備知識ゼロから始まった開発(2/2 ページ)

建材のIoT化で、建材ビジネスを新たなステージに導こうとしている凸版印刷。電子機器という未知の領域との組み合わせで、どのような価値が生まれようとしているのだろうか。

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2カ月に及ぶ実証実験で有効性を検証


凸版印刷 生活・産業事業本部 ビジネスイノベーションセンター 主任の小林浩希氏

 2018年の6月から9月にかけて、実際にロケーションフロアを使った疑似住居環境を用意し、14人の被験者の協力を仰いで大々的な実証実験を行った。凸版印刷 生活・産業事業本部 ビジネスイノベーションセンター 主任の小林浩希氏は、そのときの印象を次のように振り返る。

 「横浜市、NTTドコモなどが進めていた『未来の家プロジェクト』に参加し、実証実験を行いました。ロケーションフロアのデータを集計するためのクラウド環境には、NTTドコモのIoTアクセス制御エンジン『Symphony』を利用しました。当初は一部の床にのみセンサーを設置する予定でしたが、NTTドコモの提案で全面に設置してみました。すると、住居内の人の動向が本当に手に取るように可視化されたので、直観的に『これは面白い!』と感じました」(小林氏)

 ちなみにセンサーから送られてきたデータを、ゲートウェイ装置からクラウドに送信する処理については、かなりチューニングを重ねる必要があったという。

 「床全面に設置したことにより、取得するデータ量が増えました。そのため、APIを通じてゲートウェイからクラウドへデータを送る際、データの量や送信タイミングをうまく調整しなければ全データを送信できません。そこは、NTTドコモの技術者と相談しながらプログラムのチューニングを行いました。この点については、今後もまだまだ改善の余地があると考えています」(小林氏)

左:実証実験で構成したシステムの概念図(出典:凸版印刷)、右:IoTアクセス制御エンジン「Symphony」(出典:NTTドコモ

 なお、将来的には、凸版印刷で独自のクラウドプラットフォームを持つことを視野に入れている。同社の他のIoTサービスから送られてきたデータを集計したり、サードパーティーのIoTサービスからのデータも受け入れたりできるオープンなプラットフォーム作りを構想しているという。

 「テクノロジー的にも大きなチャレンジになりますし、ビジネスモデル的にもこれまでの製品売り切り型のビジネスから、継続的にサービスを提供していくサブスクリプション型ビジネスモデルへの転換が必要となります。他の事業ドメインでは既にサブスクリプション型ビジネスを実現しているので、そのノウハウを生かせれば実現はさほど難しくないと考えています」(藤川氏)

今後はオープンなIoTプラットフォームの構築を目指す

 なお凸版印刷は、ロケーションフロアを発表した1カ月後に、2つの新たなIoTソリューション「ステルスヘルスメーター」と「インフォウォール」を発表している。

 ステルスヘルスメーターは、床材に体組成計を埋め込んで、日々の生活の中で自然と体重や体脂肪率といった健康に関わる情報を取得できるというもの。ロケーションフロアと同様、建材を通じて家の情報を取得する同社の「トッパンIoT建材」シリーズのコンセプトに基づいて開発された商品だ。

 現時点では既製品の体組成計をそのまま埋め込んでいるが、ゆくゆくは独自の体組成計の仕組みを導入し、クラウドプラットフォーム上にデータを集めることで健康に関する情報を使ったさまざまなサービスを展開する予定だという。

ステルスヘルスメーター

 インフォウォールは、凸版印刷独自の壁材の技術を活用し、化粧シートとディスプレイ装置を組み合わせて壁に文字や絵を表示させるというもの。ロケーションフロアとステルスヘルスメーターがIoTにおけるデータ収集の役目を担うのに対して、インフォウォールはデータをアウトプットするインタフェースの役割を果たす。家の中で家族全員の目に付く場所に情報を表示することで、家族間の情報共有やコミュニケーションを活性化させる効果が期待できるという。

 「ロケーションフロアの実証実験で、被験者にインフォウォールを試していただき、その使い勝手についてアンケート調査を実施しました。その結果、『スケジュール情報が表示されると便利』という回答を多く頂いたので、今後はそうした機能を実装していきたいと考えています」(小林氏)

インフォウォール

 なお、今回紹介した凸版印刷の3つのIoTソリューションは、同社が考える建装材分野でのIoT戦略の中ではまだ初期段階にすぎず、今後段階的にその内容を拡充していく予定だという。今回はまずロケーションフロアをはじめとするデータ収集の基本的な仕組みを構築した。今後データがクラウド環境上でたまっていけば、それらを活用した新たなビジネスの可能性が広がってくると藤川氏は期待を膨らませる。

 「現在『スマートホーム』と呼ばれているサービスのほとんどは、IoT家電やスマートスピーカーといった個別製品を家に持ち込むことでその実現を目指しています。しかし私たちは『家自体をスマート化する』ことで、スマートホームをさらに前進させていきたいと考えています。さらにその先には、IoTを使って家だけではなく町全体の暮らしやすさや健康作りにも貢献していきたいというビジョンを持っています。そのために今後は、データを他社にも広く提供できるプラットフォームを実現して、オープンなビジネスモデルを構築していきたいと考えています」(藤川氏)

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