ベンダーは見つからないって言ったじゃないか!――ふたりはライバル:コンサルは見た! 情シスの逆襲(6)(3/3 ページ)
営業主導で動いているオンラインショップ開発の企画にぶつけるように、情シスは独自の企画を役員会議で提案した。しかも、既にベンダーも決まっているという──羽生、俺をだましたのか?
友達だと思っていたのに
小塚は、何も言わずに資料を見つめた。
確かに面白いアイデアだ。オンラインショップが売り上げ増大で、AIはコスト削減。まさに攻めと守りのITだ。同期入社の羽生の企画でもあるので、普段なら自分も応援したいところだ。だが、この企画が実現するとは思えなかった。
小塚と同じ疑問を口にしたのは、他ならぬ高橋社長だった。
「確かに良いアイデアですね。しかし、開発を請け負ってくれるベンダー探しが大変なんじゃないですか? スマホ・デ・マルシェでは、小塚君が随分と苦労をしたようですが」
その通りだ。あのときは、マルシェに出入りのITベンダーはもちろん、国内の信頼できそうなベンダーが皆、忙しいからと仕事を断ってきた。あれからまだ3カ月、人出不足の状況が改善したとは思えない。
しかし羽生は、高橋の質問に余裕の笑みを浮かべて答えた。
「心配いりません。ウチの在庫管理システムを構築、運用している『i-SAS社』がやってくれるそうです。彼らは最近AIの技術者を急速に集めていますし、技術力は国内でもトップクラスです」
「なっ!」
小塚は思わず声を上げた。
「どういうことだ、羽生! 俺がスマホ・デ・マルシェの開発ベンダーを探していたとき、ウチの出入り業者は全て手いっぱいだと言ったじゃないか!」
小塚の大声にも羽生は動じなかった。
「i-SASは基幹系やAIは強いが、ECサイトは……」
「あそこは大手だ。オンラインショップ作れるエンジニアはいくらでもいるだろう。どうして……」
「小塚君」
村上の押さえつけるような声が、小塚の言葉を止めた。
「そっちはもう開発が進んでるんだろう? 何が問題なんだ」
「しかし……」
小塚の気持ちはどうにも収まらなかった。同期入社で友達だと思っていた羽生が、自分をだましたのかもしれない。そんな疑念が持ち上がり、小塚の感情を高ぶらせた。
部屋の奥から高橋の落ち着いた声が響いた。
「羽生君、具体的な計画を持ってきてください。攻めと守りの両輪でラ・マルシェを復活させましょう」
その言葉に村上が拍手を始め、つられるように他の取締役たちも拍手した。しかし小塚は、笑顔を浮かべる羽生をじっと見つめるしかなかった。
つづく
「コンサルは見た! 情シスの逆襲」第7話は11月14日掲載です。
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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