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損害賠償、対価の支払い、どちらでもいいですよ――知り過ぎている男コンサルは見た! 情シスの逆襲(8)(1/3 ページ)

契約前作業を強いた「ラ・マルシェ」に、作業の中止とそれまでにかかった費用1億6000万円の請求を内容証明で通告した「ルッツ・コミュニケーションズ」。日本支社長の本田は法律に詳しく、関係の修復を促す美咲たちを論破する。

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コンサルは見た!

連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。



登場人物

ルッツ・コミュニケーションズ

大連に本社を置く、社員数30人ほどのITベンダー

honda

本田修三

日本支社長。「ラ・マルシェ」からオンラインショップの開発を請け負っていたが、開発着手から2カ月たっても契約を締結できないので、強気の手段に打って出た


A&Dコンサルティング

大手コンサルティングファーム

misaki

江里口美咲

ITコンサルタント。凄腕系。小塚の相談に乗っており、一連の流れに不自然なものを感じている


sirase

白瀬智裕

「A&Dコンサルティング」に化粧品メーカーから出向中の新米コンサルタント。

情に厚いタイプで、窮地に陥った小塚のことを心配している

ラ・マルシェ

都内に十数店舗を展開する、創業50年の高級スーパーマーケットチェーン

kozuka

小塚大地

取締役 兼 営業部部長。オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」を発案し、EUCで開発を進めていたが、ベンダー「ルッツ・コミュニケーションズ」より突然、作業の中止とそれまでの開発費用1億6000万円を請求する内容証明を送り付けられ、困り果てている

前回までのあらすじ

老舗スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」が、IT化施策の目玉として開発を進めているオンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」。だが、2カ月も契約前作業をさせてしまったため、ベンダーの「ルッツ・コミュニケーションズ」から開発の中止と1億6000万円の支払いを求められてしまった。

「スマホ・デ・マルシェ」担当の小塚から相談を受けたITコンサルタントの江里口美咲と白瀬は、一連の流れに不自然なものを感じた……。

殺風景なオフィスですね

 東京メトロの日本橋駅から歩いて3分ほどの雑居ビルの5階に、「ルッツ・コミュニケーションズ」の日本支社はあった。

 わずか50平方メートルほどの事務所は、グレーの机が5本ほど並び、その1つ1つにノートPCが置かれていたが、それ以外には何もないサッパリとしたものだった。

 美咲と白瀬は入り口脇のミーティングスペースで、奥の机の脇で電話をしている本田の姿を眺めていた。本田は電話をしながら、時々美咲たちの方を気にしていた。早く電話を切り上げたい様子だった。

honda

 「……ですから、こちらにも事情がありまして。この時期にはもう他の……いやいや、そうは申されましても、いつまで続けるかは、当初のお約束には……ええ……ええ……あの、申し訳ないんですが、今お客さんを待たせてましてね……。ええ、後ほどこちらから……ええ、申し訳ございません」

 本田はそう言いながら電話を切ると、急ぎ足でミーティングスペースにやってきた。

 「いやあ、お待たせしました」

 本田は先ほどの電話とは打って変わって愛想の良い笑顔を、美咲と白瀬に向けた。

misaki

 「いえ。こちらこそ、突然お邪魔しまして申し訳ありません」

 美咲はそういうと、軽く頭を下げた。

 「いやいや、天下のA&Dさんとあれば、いつでも大歓迎ですよ」

 美咲と白瀬が所属する「A&Dコンサルティング」は、世界中に拠点を置く巨大コンサルファームだ。大規模案件を多数抱えており、「A&Dに認められれば、下流工程を幾つももらえるので安定した経営を続けられる」と言われている。2人の訪問の真意を知らない本田は、そんなことを期待してか、満面の笑みを見せた。

sirase

 「今は社長さん、お一人ですか?」

 ガランとしたオフィスに違和感を覚えた白瀬が尋ねた。

 「はい。本当は営業が2人と、プロマネ、技術者もいるんですが、皆、客先に出払っておりまして」

 何か言いたげな白瀬を押しとどめて、美咲が口を開いた。

 「本日は、私共のクライアント『ラ・マルシェ』のことで参りました」

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