リモートワークの増加で日本のトラフィックはどう変わったのか? 動画サービスは?:ものになるモノ、ならないモノ(86)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によってリモートワークが増え、インターネットへの影響が言及されることが多くなった。どこまで影響が出ているのか? インターネット回線のトラフィック増の話と動画サービスの話を切り分けて考察してみよう。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響でリモートワーク、テレフォンカンファレンスなどのテレワークが推奨され、それを実践している組織や個人も多いだろう。そこで、真っ先に心配したのがトラフィック増によるインターネット接続速度への影響だ。例えば、在宅でのリモートワークや余暇時間の動画視聴が増えれば、平時とは異なるトラフィック増が時間帯や地域といったくくりで発生する。プロバイダーなどは、この事態に対応するために苦労しているのではないかと想像した。
結論から言おう。トラフィック増にまつわる、障害や輻輳(ふくそう)などの影響は極めて限定的だ。つまり、心配するほどのことではない、ということだ。意外な印象だが、理由を聞けば大いに納得する。
その一方で、Netflix、Amazon Prime Video、YouTubeといった動画サービスの速度や品質に対する不満めいた声もチラホラと見掛ける。2020年3月以降、筆者の家庭では「Netflix、最近反応が鈍くなってない?」という会話が時々交わされている。ただ、これも常に起きているわけではなく、ほとんどの利用時間においては、特段のストレスなくドラマや映画を楽しんでいる。
昼間3割程度のトラフィック増。全く問題なし
ここでは、インターネット回線のトラフィック増の話と動画サービスの話を切り分けて考察してみよう。まず、トラフィックについて。
2020年3月24日、高市総務大臣閣議後の記者会見の質疑応答において、新型コロナウイルスの影響とトラフィック増の関係について記者から質問が出た。それに対し大臣は、「『平日昼間』の数値が2割程度増加して、『休日昼間』並みまで伸びております。一方で、『夜間』の数値については、平日・休日を問わず大きな変化はございません」と回答している。
その上で、「通信ネットワークは、日本の場合、利用ピークに耐えられるように設計されており、夜間の通信量に大きな変化がないことから、現状では、問題はないと認識しております」と結論付けている。つまり、通常、トラフィックのピークは、夜間にあり、それに合わせて設備を設定しているので、昼間に2割程度増加しても問題はない、というわけだ。
それを裏付けるような現場の声もある。2020年3月13日付けのIIJ Engineers Blogにおける『新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響』というエントリーでは、トラフィック状況のグラフを示しつつ、「マクロレベルでは平日昼間のトラフィックが少し増えたものの現状では何とか既存の容量に収まっている状況です」と結論付けている。
このサイトのグラフを子細に見ると、安倍首相の要請を受けて学校の臨時休校が始まった2020年3月2日以降、確かにダウンロード、アップロードともに昼間のトラフィックが増加している。一方、夜間のピーク時は、昼間ほどの増加は見られず、想定の範囲内に収まっているという。
この傾向はIIJに限らず、他のプロバイダーも同様である。ある最大手級プロバイダーの幹部も、「日本全体で平日の昼間が休日並に増えた程度で、特に問題はない。弊社では平日昼間のトラフィックが3割程度増えた程度」と明かす。昼間のトラフィックが3割増えた程度では、設備に余裕がある、ということだ。
先のIIJ Engineers Blogのエントリーは、「フレッツ網の光分岐やPPPoE終端装置で輻輳している可能性」を指摘している。つまり、NTT東西のフレッツ網の輻輳が原因でプロバイダー側に流れるトラフィックが抑制され、プロバイダー側では問題となっていない、という見方である。SNSで不満を訴えている人は、フレッツ網に起因する「パケ詰まり」現象を被っている可能性がある。
フレッツ網に起因するパケ詰まりについては、小生のコラム「固定回線でも『ギガ不足』におびえる時代が到来か、トラフィック急増により現場で起きている悲劇とは」で詳しく説明している。簡単に解説すると、NTT東西の局舎内に設置してある網終端装置が原因でパケ詰まりが発生し、プロバイダーが増設したくてもNTT東西が定めたセッション数などの増設基準が原因で思い通りの運用ができないという話である。
「画質に変化なし」と太鼓判を押すNetflix
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