キャリアのGPSを使う? アプリをプリインストール? QRコードにキャッシュレス?――プライバシーフリーク・カフェ(PFC)リモート大作戦!02 #イベントレポート #完全版:厚労省のアプリに代替案はあるのか(3/4 ページ)
日本国は巨大プラットフォーマーに負けたのか?――Apple、GoogleのAPIを採用して作った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)接触確認アプリは最適なのか、鈴木正朝、高木浩光、板倉陽一郎、山本一郎の4人が適度な距離を保って議論した。※本稿は2020年6月10日に収録したオンラインセミナーの内容に加筆修正を加えたものです
GPSを使え→使えません
山本 GPSを使え、という話は結構前からあったじゃないですか。使い勝手がいいんじゃないかとか、もしくはこうやって使えばもう少しできることが多いんじゃないかとかありました。そもそも、なぜそういう声が出ているかがちょっとよく分かっていなくて。
高木 最近、もうBluetooth方式のアプリは入れる人が少ないのでは、だから強制にしろという声もある。つまりプリインストールしろということですよ。NTTドコモとかauとかに入れたまま売れとかいう人もいますけど。Googleは知りませんけど、Appleはそういうのは一切許しませんので。できないんですよ、それは。
そうすると今度は、精度を高めるためにGPSを使えという声が出てきた。インストールする人が少なければ位置情報を取ればいいじゃないのというわけですね。言い忘れましたが、Bluetoothではどこで接触したかは分かりません。過去2週間に陽性者と接触したかが分かるだけです。そこに、接触した位置まで取れるようにせよという声がいろんな専門家から出ているという話を耳にします。
われわれとしては、オプトインであればそういうのもありだとは思います。つまり、公衆衛生のためですから、分かっていて使うのであればGPSで全て記録してもいいわけです。
その一つとして、民間の例ですが、自分のライフログを記録するためのアプリを作っているベンチャー企業を見つけました。そのアプリがCOVID-19対応として、自分でもどこに行ったか覚えていないだろうから全部記録しておいて後で何かあったときに確認するような使い方もできる、と宣伝していました。これは良いアプローチだと思います。自分で分かっていて記録するのであれば、思い出すのに役に立ちますし、やりたい人がやればいいんです。
そういう話はあるのですが、先ほどの「インストールする人が少ないならGPSを使え」といってもですね、実際にできるかというと疑問です。まず、バッテリーの持ちの問題があります。シンガポールのアプリのようにずっと動かし続けなければならないものだったら、バッテリーの限界で普及率を下げてしまう面もある。
板倉 私はGoogleのロケーション履歴をオンにしていてたまに見ています。なぜ見るかというと、タクシー乗車の経費精算する際に履歴をさかのぼると全部分かるからです。でもGoogleのロケーション履歴で、歩いた道まで全部出るかというとそうではない。ポイント、ポイントで取れる位置情報でロケーション履歴を作ってくれているだけです。
Googleは、個人データの取り扱いについて透明性が足りないとデータ保護機関などに怒られ続けた結果、ロケーション履歴も汎用(はんよう)的なフォーマットでダウンロードできるようになっているわけです。Googleのロケーション履歴を本人が提出したら、保健所で受け入れて使うという体制はあっていいのではないかと思います。
山本 現状はそこまで保健所にやらせると過負荷なので、大変なんだろうと思います。何か手を考えないといけませんかね。
板倉 JSON形式でダウンロードできるんで、使えるといいですね。
山本 そもそも可能なのかという点でいうと、先ほどのバッテリー問題を含めていろいろ技術的な限界があるように思いますが。
高木 この前、携帯電話のキャリア事業者が持っているGPS情報を使えばいいと言っている人もいました。なぜキャリアがGPS情報を持っているんですかと。
山本 キャリアはGPS情報は持っていないでござるよ。
高木 そういう漠然とした誤解があるんですよね。
山本 キャリアがこの人をトレースするという別の理由で追っかけていればできる方法があるかもしれませんが、基地局のセル情報までですよね。
高木 そうです。基地局のセル情報じゃ、感染者の近くにいた人を割り出そうとしても無理ですよね。
山本 せいぜい250メートルメッシュです。そこにたくさんの人がいるわけなので無理です。
高木 歴史的な経緯があって、説明すると長くなるので省略しますが、GPS位置情報も、キャリアのシステムでボタンを押すと契約者の位置をピンポイントで取れるという、日本独自の機能があります。Appleとかにはない機能です。それを使えば位置情報が取れることを知っている人が、それを使えと思っているのかもしれませんが。
山本 簡単に発動できるものではない。
高木 そもそも連続して取得できませんから。GPSはキャリアは持っていないんですよ。
山本 ないんですよね。
高木 しかもですよ、Appleなんかはアプリの位置情報取得について規制を強化していて、位置を取り続けているアプリがバックグラウンドで動いていると、時々お知らせが出るようになりましたね。「いいんですか、これ動いてて」と。今やそこまで配慮されているわけです。OSレベルで。
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