検索
連載

デザインは文字の扱い方で決まる 感覚に頼らないフォント選びの基準とは非デザイナーも知っておきたいデザインの話(3)(2/2 ページ)

今日から使えるデザインに関する知識をあれこれ紹介する本連載。第3回は書体の歴史、特徴、選び方について。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

欧文フォントの選び方 セリフ書体、サンセリフ書体、スラブセリフ書体etc……使いどころと使い分け

 欧文書体の種類も数が多く、セリフ書体、サンセリフ書体、スラブセリフ書体、スプリクト書体、ブラックレター書体、と5種類あります。さらにその中で、セリフの形が違ったり斜体の種類が違ったりと細かな差異があります。

 ここからは、macOSに標準搭載されている書体から定番かつ有名な書体を紹介していきます。

名前は知らなくても全て見たことがあると思います
名前は知らなくても全て見たことがあると思います

セリフ書体

 セリフとは文字のラインの先端に付いた飾りのことです。より手書き風のものを「ブラケットセリフ」、細くて繊細なものを「ヘアラインセリフ」と呼びます。古代ローマの碑文を元に開発されました。ヘアラインセリフの方が直線的でよりモダンな印象です。ちなみに、古代ローマの碑文に小文字は存在しません。

よく見ると印象が違います
よく見ると印象が違います

 以下が定番かつ有名な書体です。

大文字だけで組んだときや、字間でも印象が変わります
大文字だけで組んだときや、字間でも印象が変わります
フォント名 使いどころ、使い分け
Baskerville 1750年代にイギリスで開発された書体です。伝統的な印象を受けます
Bodoni 72 単なるBodoniと、数字が付いたものがあります。通常のBodoniはヘアラインセリフで定番のモダン書体なのですが、72は少しクセが強いので、個性が必要な画面でないと使いづらいでしょう
Big Caslon Caslonという書体がありますが、こちらはわざわざ「Big」とついています。見出し専用にデザインされた書体です
Didot 定番のモダン書体です。ハイブランドファッションのロゴや海外のファッション雑誌に使われるなど、とにかく洗練された印象を受けます
Times New Roman イギリスの新聞『The Times』のために開発された書体です。新聞紙の粗い印刷に耐えられるよう太めに設計されています

サンセリフ書体

 サンとはフランス語で「ない」を意味します。サンセリフとは、「セリフのない書体」という意味です。国ごとに呼び方が違い、日本ではゴシック体と呼ばれます。しかし、欧州ではゴシック体=ブラックレター書体なので、最近は日本でもサンセリフ書体という呼び方で統一され始めました。

 サンセリフ書体は、視認性の高い看板文字として開発されました。欧州の道路標識でもこの書体が使われています。

全体を眺めて印象を確認した後、細部を見て適切な箇所で使用しましょう
全体を眺めて印象を確認した後、細部を見て適切な箇所で使用しましょう
フォント名 使いどころ、使い分け
Avenir 「o」や「p」は正円に近く、洗練された印象ですが、Futuraほど幾何学的な印象を受けません。非常に使いやすい書体です
DIN Alternate DINにたくさんある派生系の書体です。元のDINはドイツで開発された書体です。非常に可読性が高く、日本を含む全世界で人気です。海外の道路標識にも使われています
Arial Helveticaのそっくりさん。Helveticaより細部に少し個性があります
Helvetica Neue 無個性で主張がなく、大変使いやすいためありとあらゆる場所に使われています。駅名看板のローマ字表記の書体です
Futura モダンなサンセリフ書体の代表です。幾何学的で洗練された印象を与えますが、小文字のaとoの見分けがつきにくいなどの問題もあるため、判読性が求められる場所では使用しない方がいいでしょう。このようなaを「一階建て」と呼びます
Gill Sans 小文字のaにあるようなセリフなど、少しニュアンスのある書体です。人間味のあるサンセリフとして分類されています

スラブセリフ書体

 スラブとは「厚い」を意味します。その名の通り、分厚いセリフが特徴です。

 スラブセリフ書体もセリフ書体の一部に見えますが、実はサンセリフ書体と同じ時代に作られました。セリフ書体が15世紀後半ごろに開発されたのに対して、スラブセリフ書体とサンセリフ書体の登場は19世紀前半ごろ。広告用のタイトルや見出しなど目を引くための書体として生まれたものです。今では本文に使われていても可読性を保てる書体も開発されています。

和文書体に合うものがなさそうなので、飾りとして使うことが多そうです
和文書体に合うものがなさそうなので、飾りとして使うことが多そうです
フォント名 使いどころ、使い分け
Copperplate 小文字が大文字をそのまま小さくしたような形、スモールキャップを用いているのが特徴です。高級感や信頼感を感じさせるデザインで、発売当初から医師、弁護士、銀行家などに好まれたそうです
Rockwell セリフがありますが、サンセリフ書体のようなモダンさを感じさせるデザインです

スクリプト書体

 いわゆる筆記体のことを指します。15世紀に銅版に彫られた書体が始まりで、銅版印刷に使われました。17世紀には活版印刷に対応するため、活字となっていきました。

 現在でもデジタル書体として開発は続けられており、多彩なバリエーションがあります。特に文字と文字がつながっているような装飾がなくても、手書き風であればスクリプト書体と呼ばれているものもあるようです。

使う場合は字間を調整してしっかりつながっているように見せましょう
使う場合は字間を調整してしっかりつながっているように見せましょう

 これらの書体は読ませる文字として使用することはほぼできないので、飾りとして使用しましょう。

ブラックレター書体

 こちらが別名ゴシック体です。ペン先の使い方が変わったことにより生まれた書体です。縦のラインは始まりと終わりが斜めになっており、ひし形になっていることが特徴です。黒い部分が強いことからブラックレターと呼ばれています。

 日本ではあまり使いませんが、欧州ではそれぞれの国で独自に進化しています。

 こちらはMacに標準搭載されている書体がない上に、筆者は仕事でもプライベートでも使ったことがありません。しかし海外では新聞の名前や、レストランなどで使われているそうです。

 「Adobe Font」という、Adobe Creative Cloudのサービスを使用している場合は商用利用も可能な書体が幾つかあるため、そこから利用できます。フリーの書体をダウンロードする場合は著作権に留意して使用してください。

日本ではバンドのジャケットで見ることがあります
日本ではバンドのジャケットで見ることがあります

かっこ悪いと思われる書体とは

 ここまで解説した書体は定番かつ有名なため、書体好きを自称する方であれば既知の内容だったかもしれません。もっと珍しい書体を知りたいと思った方もいるかもしれませんが、定番であるというのは間違いがない書体でもあります。デザインや書体のことを専門的に勉強していなければ、先述した書体を見分け、使い分けるだけで十分な書体選びのセンスがあるといえます。

 それでも他の書体を選ばざるを得ない場合、ここを避ければ「いかにも素人くさい」デザインにならずに済むポイントがあります。そちらを紹介していきましょう。

そもそもの製作背景が現代とマッチしていない書体

 MS系、HG系の書体を選ぶのはやめましょう。前回解説したように、製作背景がすでに現在の使用状況に合っていません。高精細なディスプレイ、緻密な印刷技術の前では、細かなバランスを無視した書体はアンバランスに見えるだけです。

長文で組むと太さが違ったりデコボコしたりとアンバランスです
長文で組むと太さが違ったりデコボコしたりとアンバランスです

 和文フォントに含まれる欧文(従属欧文)はそのまま使わない方がよいでしょう。書体によってはあまり力を入れて開発されているとはいえません。全角で使うと字間が広く、パラパラし過ぎて読みづらく、半角で使うと潰れ過ぎていると感じたことがある人もいると思います。

 その場合、思い切って欧文の箇所だけ欧文書体を使ってしまいましょう。ここまで読んで、書体の特徴がどこに現れるのかを押さえたら、合う欧文書体を見つけるのは難しい作業ではないはずです。

 「凸版文久明朝」に使われている従属欧文はパラパラとして読みづらく、「こぶりなゴシック」に使われている従属欧文は半角カナのように細過ぎます。数字の1もローマ字のIと見分けがつきません。そこでそれぞれ、凸版文久明朝の欧文を「Baskerville Regular」に、こぶりなゴシックの欧文を「DIN2014 Light」に変更しました。

欧文書体の方が合うケースが多いでしょう
欧文書体の方が合うケースが多いでしょう

まとめ

 今回は書体の歴史や見分け方を理解し、選び方の基準が明確になるように解説しました。同じ明朝体やセリフ体の中でも古風なものとモダンなものを見分け、使い分けてデザインをしていきましょう。伝えたい雰囲気が自分の持つイメージにぐっと近くなるはずです。

 次回は、連載第1〜3回で解説した内容を踏まえ、本当に理解されるレイアウトを紹介します。

参考文献

  • きれいな欧文書体とデザイン 名作書体の特色とロゴづくり/ビー・エヌ・エヌ新社/甲谷一/2010
  • TYPOGRAPHY Issue_03 厳選フォント350/グラフィック社/2013
  • MdN/エムディエヌコーポレーション/2016 11月号
  • アルファベットの事典/創元社/ローラン・プリューゴープト/2007

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る