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第244回 第11世代CoreプロセッサはIntelの流れを変える一石になるか?頭脳放談

Intelから第11世代のCoreプロセッサが発表された。プロセッサの出荷の遅れが続いている一方で、AMDのRyzenシリーズに追い上げられているIntelにとっては、勝負をかけたプロセッサともいえる。第11世代Coreプロセッサの見るべきポイントは?

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Intelの第11世代Coreプロセッサ
Intelの第11世代Coreプロセッサ
コードネーム「Tiger Lake(タイガーレイク)」で呼ばれるIntelの新しいプロセッサ。グラフィックス機能やThunderbolt 4の統合、人工知能向けの新しい命令セットのサポートなど、さまざまな強化が行われているという(Intelのプレスリリース「Intel Launches World’s Best Processor for Thin-and-Light Laptops: 11th Gen Intel Core」より)。

 少し前だが、Intelも「IDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合型のメーカー)」であることを止めて外部のファウンダリに依存するかもしれない、というニュース(思惑記事)が流れた。まだ可能性の話なのであって、決まりではないと思う。もちろん正式なリリースなど出ていない。しかし、一部アナリストなどはもう織り込み済(?)らしい。

 だが、どこの会社もそうだがIntelほどの大企業ともなれば、実は内部は一枚岩ではないと思う。トップが「かもしれない」とにおわせる。すると危機感を抱いたファブ(製造工場)関係者は、「そうはさせない」と必死に働いているのではないかと想像する。

 巨大なIntelである。ファブに使っている金額も、雇用されている人員も、そして関係者(これは会社の中だけでなく取引先など多岐にわたる)も多い。それに、既に出来上がっている工場があるのだから、すぐにファブが切り替わることはないにせよ、先があるのとないのでは天国と地獄の差がある。ファブ関係者にしたら、「此処を先途と(ここをせんどと:勝敗を決する大事な場面)」と必死にならざるを得まい。うがって見れば、偉い人にしたらそれで発奮させるのが狙いか。

 プロセスが遅れに遅れ、デリバリーがずっと問題含みであることに加え、AMDのZen2アーキテクチャ(ご存じの通り、製品はTSMCファウンダリによる製造)が互角以上のコスパでIntelをリードしている(このあたりの事情は、頭脳放談「第225回 なぜ「IntelのCPU不足」はなかなか解決されないのか?」「第230回 AMD Ryzenが高コストパフォーマンスを実現した3つの理由」参照のこと)。

 Intelは、ジリジリとx86 CPUのシェアを落としているようだ。過去にない割合まで下がっているのではないかと思う。アナリストにわざわざ指摘されなくても、誰が見ても危機だと思う。現段階ではあれこれ言われても、売り上げや利益はまだ確保できているようだが、ここで挽回の手を打たないとダダ滑りにちょうらくしてしまう可能性だってある。どんな手を打つのか、みんな固唾を飲んで見ているだろう。

「Tiger Lake」で巻き返せるかはデリバリー次第?

 さて、そこに今回発表したのが第11世代の「Intel Coreプロセッサー・ファミリー」である。コードネーム「Tiger Lake(タイガーレイク)」だ。AMDをたたきつぶすようなものが出てきたのだろうか?

 当面のターゲットは、ノートPCのようだ。頭脳放談「第241回 CoreとAtomを重ねて実装、新プロセッサ『Lakefield』の技術的挑戦」で、「Lakefield(レイクフィールド)」という名のモバイル向けプロセッサを取り上げさせていただいた。Lakefieldは、タブレット的なモバイルらしいモバイル狙いであるのに対し、今度出てきた「Tiger Lake」はノートといっても主力PC狙いだ。ビジネスパーソンが普段机の上に置いて使っているやつだ。ここを死守して反攻をかけなければ、お先真っ暗といえる。

 記者発表会のプレゼンテーション資料を読んでみる。マーケティング資料であるから、当然いいことずくめだ。第11世代ともなると、過去の世代で積み重ねた経験からアピールすべきところも決まってきたのだろう。

 実際、いつにも増して各担当者がそれぞれ担当部分を頑張って大幅性能向上しました的なアピールが素晴らしい。まぁ、危機感あるはずだから、そうでない方がおかしいが。

 しかし、各部個別の性能アップを列挙していっても、実際の使用シーンでどこがどれだけ効くかとなると別である。用途によっては遊んでいる部分もあり、最高性能を出せる条件にならない部分もあるからだ。性能評価が定まるのは、商用の実機が出回った後、競合の実機と条件を合わせて第三者が比較してみた後である。

 それすらも十分ではない。結局のところ、コスパとデリバリーの問題が大きかったのだから、プレゼンテーション資料からはまったく欠落しているこの2つの状況が判明しない限り、反攻の成否は予想しえないだろう。

記者発表会のプレゼンテーション資料から見るTiger Lake

 そこをあえて、プレゼンテーション資料のスライドを眺めながら考えてみた。2枚ほど取り上げたい。最初の1枚は「従来型アーキテクチャーとの比較 ダイナミック・レンジの拡大」と題する従前の「Sunny Cove(サニーコーブ)*1」と「Willow Cove(ウィローコーブ)*2」の比較である。

*1 10nmプロセスで製造される第10世代のCoreプロセッサ(コードネーム「Ice Lake」)が採用するプロセッサコア
*2 第11世代のCoreプロセッサ(コードネーム「Tiger Lake」)が採用するプロセッサコア


「従来型アーキテクチャーとの比較 ダイナミック・レンジの拡大」
「従来型アーキテクチャーとの比較 ダイナミック・レンジの拡大」
「Willow Cove」と「Sunny Cove」の電圧と動作周波数の関係を比較したもの(発表会のプレゼンテーション資料より)。

 同じ電圧であれば、より高い周波数、同じ周波数であればより低い電圧、そして全体としても旧世代を完全に包含している。半導体設計としては、まさにそうあるべきな姿ではある。しかし、うがった見方をすると、「結局のところ周波数が上がったから速くなったんかい」というツッコミもできそうだ。ゲームチェンジャー的な新技術ではなく、正攻法だ。新機軸を打ち出すという点では、前回のLakefieldの方が非対称な5コアという構成でチャレンジがあった。あれは脇のラインの製品だからできる革新か(?)。主力はあくまで保守的である。

 結局のところ周波数頼みということを裏付けるようなもう1枚のスライドもあった。今回の目玉の1つに新しい「SuperFin(スーパーフィン)テクノロジー」という題目があり、そこに掲げられている「新しい高性能トランジスター」というページだ。

新しい高性能トランジスター
新しい高性能トランジスター
「Tiger Lake」で新たに導入された「SuperFin」と呼ぶ新しいトランジスタの構造(発表会のプレゼンテーション資料より)。

 どうもプロセスがトラブルを起こし始めてから、同じプロセスで次々と改良版を出す傾向が激しくなっているようにも思える。今回は10nm世代で3つ目になるようだ。それを「SuperFin」というカッコイイお名前で包んでいる。プロセスの改良そのものは悪くはないが、同じ10nm世代でも先行する製品はこれ、後続の製品はあれ、と細かくプロセスが分岐してくると量産性はどうなのか? そういう多プロセス共存が普通の同業他社と比べ、同一プロセスで大量に流すことがIntelの強みだったはずなのだが、どうなのだろう。派生が3つくらいならうまくさばけていけるのか?

 さてそのSuperFinテクノロジーのトランジスタの改良のうち、図の真ん中あたりに書いてあるチャネル移動度向上とか抵抗軽減・歪を増加(歪シリコンだし)とかにはひっかかるところがない。

 しかし、左側にこっそり(?)と書いてある「ゲートピッチ拡張、駆動電流の増大」という項目にはひっかかった。「拡張」が英文ではどうなっているのか確認してみると「Additional」だった。

 素直にゲートピッチに加える、広げると解釈していいのだと思う。ピッチを広げた分、電流の通り道が広がって電流増となりました、と理解できる。電流が増えればトランジスタの性能は向上し、速くなるのは当然である。集積度という観点からすれば、「広がった分、デカくなるんじゃないの?」という疑問も残る。そのあたりの始末については何も書いていない。

 どこもかしこもよくなりましたと数字を列挙している裏には、トレードオフで妥協した部分もそこかしこにあるように思えてくる。それを悪いとは言わない、取捨選択するのが設計の本質だ。けれども今回は、かなりの割合で、「プロセスがうまくやる」「作り切れる」ということに依存しているようにも見える。

 コスパとデリバリーの競争には相手がいる。AMDも2020年10月にはZen3を発表するそうではないか。勝負の行方は互いの新機種が市場でぶつかりあうころにハッキリする。川中島か、関ヶ原、というところか。

Intelのロゴ変更は会社の体制を反映する?

 今回のプレゼンテーション資料を見ていると、ちょうどIntelのロゴの変更期とぶつかったせいか、初期の英文資料は「楕円の中にintel」印、日本語の翻訳資料は新しい周りの楕円のなくなったintel印だった。

Intelロゴの変遷
Intelロゴの変遷
一番右側が最新のIntelロゴである。

 ロゴの変更そのものは多くの会社が時々やることだし、変えたからといって何か技術的に変わるわけでもない。若者はずっと「楕円にintel印」しか見ていないだろうから、少々違和感あるかもしれないが、筆者のような年寄りは、楕円がなかったころのintelロゴに戻って来た感がある。

 今回のロゴの方がフォントもモダンで、「i」のドットに色が付き、そして何より「e」の文字が一列で下がっていない。

 ただ思い出すのは、楕円のなかったロゴの時代、「Intelは出荷します」というスローガンの割りに、Intelはデリバリーの悪い、価格の高い会社として知られていた。楕円が付いてからは、近年のプロセス問題に至るまでは、値段はともかく、デリバリーは悪くなかった。製品発表した瞬間に量産出荷されているのが普通の時代が続いていた。

 今回の第11世代で、AMDを押し戻して覇権を取り戻せば、このロゴはめでたいシンボルとして使い続けられる気がする。逆にずるずるとシェアを落として行くようだと、また早晩変更の憂き目を見ることになるだろう。ロゴは時代を映すし、会社の体制も反映することが多い。当然か。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


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