PJはワンチーム、会社の垣根を越えて助け合わないとねえ:コンサルは見た! 偽装請負の魔窟(4)(1/3 ページ)
イツワ銀行の勘定系システム刷新プロジェクトで、テストデータが消えた。その原因は……?
登場人物
サンリーブス
ベンチャー企業。AIソフトの開発を得意としていたが、最近はさまざまな案件を請け負っている
東通
大手老舗ITベンダー。イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクトでは、顧客の信用管理機能のスコアリングパートを受け持っている
イツワ銀行
日本を代表するメガバンク。勘定系システム刷新プロジェクトの真っ最中
前回までのあらすじ
メガバンク「イツワ銀行」の勘定系システム刷新プロジェクトでは偽装請負が横行していた。パートナー企業の「サンリーブス」も契約外の作業でイツワや他のベンダーの手伝いにメンバーが奔走しており、プロマネの澤野翔子がイツワに是正を依頼するが状況は変わらない。そのころ主力パートナー企業の「東通」でテストデータの消失が判明し……。
上からも話を通してください
9月頭。サンリーブスのオフィスで、マネジャーの田原は1本の電話の対応に悪戦苦闘していた。
「ですから、こんなことはやめていただくように、田原マネジャーからもお口添えいただきたいんです」
「う……ん……」
澤野翔子の上司である田原の歯切れは悪かった。電話口から聞こえる翔子の主張は法的な知識も踏まえた論理だったので、反論は難しい。しかし、そういう理屈を盾にイツワ銀行に契約外作業の禁止を申し出ても、相手の反感を買い、せっかくこれまで築いてきた関係を壊してしまう。「何としてもこのプロジェクトを成功させて、サンリーブスを成長させろ」というのは、社長の布川から厳命されていることでもある。
「私だけがイツワの田中課長にお願いしても、状況は変わりません。田原マネジャーからもぜひお願いします。他社の手伝いや契約外の要件定義なんて、工数はもちろん、責任問題にもなりかねません」
田原は、田中を知っている。プライドが高く、ベンダーを見下している彼が、そう簡単に自分の非を認めて態度を改めるとは思えない。しかし、とにかく今この口うるさいコンサルタントの電話を切るには、色良い返事をするしかない。
「分かった、分かった。田中さんね。それより、どうですか? プロジェクトの進捗(しんちょく)は」
電話口の向こうで少し間があったのは、ごまかされたと憤慨してのことだろうか。田原はそんなことを考えながら翔子の言葉を待った。
「ここからが山場です。モックを作ってエンドユーザーに確認していただいている画面回りの要望がまとまりつつあるようです。そろそろ本格的な開発に入ります」
「要望はたくさんありそうなの?」
「その辺りは何とも。野口さんは、そんなに大きな問題は出ないだろうと言っていますが」
「彼がそう言うのなら、そんなに心配はいらないだろう」
「そうかもしれませんね。確かに、サンリーブスメンバーは高い技術力を持っています。今回の画面も、これまでのものとは違う洗練されたもののようですし。でも、まだモックだけで、本格的な開発はこれからです。気は抜けません」
「まあ、いずれにせよ、お願いしますよ。天下の『A&Dコンサルティング』さんから来てもらった、プロマネ専門コンサルさんですから、その辺りは信頼してますけどね」
「はい、それは重々。それよりも田中課長へのお話、くれぐれもお願いします。もう、よその仕事なんかやっている時間はなくなりますから」
「分かってますって。なるべく早く田中さんと会うから……ね」
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