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デザインへのアドバイスを上司に求めるコツ、間違っても言ってはいけない禁句とはデザイナーの取扱説明書(2)

デザインが関わるプロジェクトで起きがちな「好き勝手な指示」「どんどん増える要望」について対策方法を解説します。

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デザインの目的とターゲットを忘れてはいけない

 大きなプロジェクトになればなるほど、関係者の数や承認を受けなければいけない回数が増えていきます。上司に言われた通りに修正し続けた結果、誰をターゲットに作っているものか分からなくなるという“わな”に陥りがちです。

 徹底的に議論し、綿密な計画を立て、何度も設計をやり直し、やっとデザインにこぎ着けたというのに、デザイナーから上がってきたデザインを上司に見せると、ここまでの行程を無視して好き勝手な指示が飛ぶ。その指示をそのままデザイナーに伝えても、上がってきた修正は全く良いものに見えません。原因は一体何でしょうか。

上司がこう言ってて……
上司がこう言ってて……

 「指示を出してきた上司が悪い」と言ってしまえば簡単ですが、何の解決にもなりません。では、ぶっきらぼうに指示を出す上司を何とかしつつ、デザイナーとプロジェクトを完成させる方法はあるのでしょうか。

 まず、担当者(依頼者)であるあなたは、デザイナーと対等な関係を築きましょう。「このクライアントには何を言っても無駄」と思われていたらまずい状況です。どのようなフィードバックをしても言われた通りに上がってくるだけで、提案をされることはありません。時間をかけて作った設計を無視していれば、プロジェクト破綻まっしぐらです。

 第1回でも解説したようにデザイナーには「まず相談」です。上司の言ってくる無理難題をそのままデザイナーに戻さず、相談してみましょう。上司が思っていることを理解して、新たな提案とともに修正してくれるかもしれません。

 本当に無理難題ならば、論理的に「この修正でこのプロジェクトの目的が達成できない理由」を解説してくれるはずです。そのときはもう一度上司に、プロジェクトの目的、デザイナーの意見、そして依頼主であるあなたの意見を説明してみてください。

 上司に確認をとる場合は、何が必要なのか明確にします。得たいものは「フィードバック」です。「承認」ではありません。建設的な意見をもらえるように質問の方法を考えます。

 「このデザインでどうでしょうか?」と上司に聞いてはいけません。どうでしょうか、と聞くと、好き、嫌い、ちょっと微妙、という感覚的な話になりがちだからです。デザイナーは目的を達成するために文字の大きさ、ボタンの配置、全体の色を決めています。「目的を達成するために、このようなデザインにしました。足りないと思う機能はありますか?」というように上司が答えやすい質問をしましょう。そうすれば適切なフィードバックが得られるはずです。

どんどん増える要望。どんどんブレるコンセプト

 目的も明確で、小中規模のプロジェクトが計画されていたはずなのに、やることが次々と増えて収拾がつかなくなったことはありませんか? なぜそうなるのか、原因と対策を考えてみます。

 例えば、ECサイトに商品誕生ストーリーを新たに掲載するという目的だったはずなのに、「商品に加えて、その会社と、会社のある地域と歴史を知ってもらうオウンドメディアとして運用し、ユーザーへの理解を促す」といった壮大な計画になってしまうような状況です。突如付け加えられ、壮大になった計画は、何とか公開までこぎ着けても、メディアなのに全く更新されなかったり、存在を知られていないかのようにアクセスがなかったり、早々にサービス終了に追い込まれたりと散々な結果になりがちです。

やる気はすごいけど……
やる気はすごいけど……

 ページ数や実装する機能の規模、数で工数や予算も変わってくるのに、そうした状況でも上司は好き勝手に言いたいことを言います。もしくは、上司の顔色を気にしすぎて、機能を追加してしまう。こういった場合も、デザイナーの目線から意見をもらうことが重要です。デザイナーと建設的な意見を交換できる関係をしっかり築くことが大切です。

 筆者が関わったWebサイトの制作案件でも似たようなことが起きました。ある地域の商業店舗を取りまとめる企業からオウンドメディア制作の依頼が来ました。メディア内のカテゴリーの一つが「地域の商業店舗を紹介する」というものだったのですが、あくまでその依頼をした企業は店舗を取りまとめているだけで、各店舗は傘下や支店ではありません。インタビューや資料集めが難航し、最初の1回で連載が終わってしまいました。

 関わるからには、デザイナーもそのプロジェクトを成功させたいと考えています。当初の目的からズレてきて、ボタンをタップしても有用な情報が得られない、内容の薄いコンテンツが多い場合、ユーザーにとっては信用ならないサイトとして認識される結果になります。

 デザイナーの、「いや、その修正はおかしくないですか?」という一言を「修正するのを面倒だと思っているな」と考えず、一度耳を傾けてみてください。工数が増えることを嫌だと考えているだけなら、論理的な説明は無理でしょう。

ブランディングの意味を分かっていない人に邪魔をさせない

 モノやサービスなどの商品があふれている昨今、スペックや価格だけで商品を売っていくのは困難です。ストーリーテリングやブランディングが大切だと言われはじめて随分たちましたが、利益を出さなければいけない企業にとって、実行し続けるのは大変です。具体的には、短期的な売り上げを見ない、商品の価値をブレさせないといった長期にわたる施策が必要だからです。

 既存の商品ブランドをリニューアルし、そのブランド価値を醸成するためのサイトを作るというプロジェクトが発足したとします。ECサイトにも誘導できますが、あくまでもブランディングがメインです。ブランディングとはその商品のイメージを醸成することなので、数日で達成できるものではありません。

 しかし、やはり会社的には売り上げを伸ばしたいという思いが強く、担当者の思いとは裏腹に、上司から何度も売り上げ目標はどうなっているのかと聞かれます。そうなるとユーザーの感情は犠牲になります。

売り上げは大事だけど……
売り上げは大事だけど……

 ブランド価値の醸成は、単に美しいビジュアルの作成や、商品のストーリーを訴求するだけでは成り立ちません。ありとあらゆる商品との接点、全ての体験がブランドイメージにつながります。例えば、ファーストビューで見られる情報量、画面をスクロールしたときやボタンをタップ(クリック)したときのモーション一つで感じ方が違います。情報量が多ければにぎやかで低価格帯の商品を、情報量が少なければ落ち着きがあって上品になり、高価格帯の商品だと印象を与えられます。

 つまり、ブランドサイトのユーザー体験(UX)全てがブランドイメージそのものになるのです。その中で、売り上げを伸ばすためにセール情報のポップアップ広告が出てきたらどうでしょうか。商品との信頼関係を築いている途中に「今なら安い! 買ってください!」。ユーザー体験として最良とはいえません。長期的なファンになるユーザーがいなくなり、最終的にはマイナスです。

 もし依頼者の会社が他にも事業を手掛けていて、この「ブランドのリニューアル」をすぐにでも成功させないと倒産するという危機でもなければ、そのことをしっかりと上司に伝えてください。短期的に売り上げを伸ばしたいなら、LPサイト(*)を作成し、広告を打てば良いのではないかと。そうではなく、長期的なファンを作りたいのであれば、最低でも1年待ってほしいと。

(*)ランディングページの略称。広告バナーやリスティング広告から訪問する、商品情報の掲載に特化した1ページのWebサイトのこと。企業の情報などはなく、多くは購入や問い合わせさせることだけを目的としています。

 デザイナーにはあらかじめ「ブランディングをお願いしたい」と伝えておきましょう。言われた通りにバナーやポップアップ広告を作成するだけの役割ではないということがデザイナーにも伝わるはずです。繰り返しになりますが、デザイナーは依頼者の言われた通りに仕事をこなすことができますし、依頼者が頼んでいないことを提案することもできます。任されていることがブランディングであるとしっかり自覚していれば、とんでもない依頼が来たとしても、「それはブランド醸成にはマイナスの施策です」と提案できます。

まとめ

 上司のちょっとした一言で、あっという間にズレてしまうコンセプトや目的を、デザイナーに止めてもらう方法を解説しました。もちろんデザイナーがいれば万事解決という案件はありません。ですが、「外部の人だし」「部署が違うし」「忙しいだろうし迷惑かも」と考えて、一言相談すれば解決できたかもしれない小さな問題を、大問題に発展させてしまうのは非常にもったいない印象です。デザイナーという立場を利用してもらい、状況によってはブレーキをかけてもらいましょう。

 依頼者の皆さまはデザイナーと上司に挟まれる難しい立場かもしれません。ですが、筆者はデザイナーの1人として、読者の皆さまや、似た境遇の人たちを応援しています。次回は、優秀なデザイナーとは何かを考えます。デザイナーと名の付く職業はWeb、UI、グラフィック、プロダクト、ファッションなど多種多様です。必要な知識はかなり違ってきます。Webとグラフィックを行き来してきた経験を基に解説します。

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