次の新天地はアフリカか、ソフトウェア開発者の現状をTungaが調査:モーリシャスと南アフリカ共和国、モロッコ、チュニジアが有望
アフリカ諸国におけるソフトウェア産業とソフトウェア開発者の現状に関する調査結果をTungaが発表した。開発者の人口が多い17カ国について人数やプログラミング言語の順位を挙げた他、ソフトウェアを含むテクノロジー産業がどのような状況にあるのかを調べた。
オランダとウガンダ、ナイジェリアでIT人材派遣とソフトウェアアウトソーシングを手掛けるTungaは、2021年2月19日(ケニア時間)、アフリカ諸国におけるソフトウェア産業とソフトウェア開発者の現状について発表した。
ソフトウェア開発者の多い3カ国は
TungaはLinkedInとGitHub、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)のアフリカに関するインターネット経済のレポートに基づき、アフリカ諸国のソフトウェア開発者の人数を推計した。
それによれば、アフリカ連合(AU)に加盟する55の国と地域には約69万人のソフトウェア開発者がおり、そのうち90%以上が上位17カ国に集中していたという。そのうち、10万人を超えたのは南アフリカ共和国(13万3195人)とエジプト(12万5270人)、ナイジェリア(11万4536人)だった。この3カ国でアフリカ全体の約54%を占めた。いずれも人口が5000万人を超える国だ。
次いで10位までにケニア、モロッコ、チュニジア、ガーナ、アルジェリア、ウガンダ、エチオピアが並んだ。11位以下はセネガル、タンザニア、カメルーン、モーリシャス、ジンバブエ、ルワンダ、コートジボワール(Ivory Coast)である。
人口100万人当たりのソフトウェア開発者の数が1000人を超えたのは6カ国で、順にモーリシャス(5454人)、チュニジア(4120人)、南アフリカ共和国(2234人)、モロッコ(1345人)、エジプト(1224人)、ケニア(1095人)だった。
どのようなプログラミング言語に精通しているのか
今回の調査では上位17カ国で活躍するソフトウェア開発者について、どのようなプログラミング言語を用いているかを推計した(アフリカ諸国のソフトウェア開発者の人数を推計した際と同じ手法を採用)。これは開発者の自己申告に基づいており、開発者本人が重要だと考えているスキルに偏っている可能性があるという。
世界の他の地域で人気のある言語はアフリカ諸国でも変わらないが、例外が3つある。第一にSQLがトップになったこと、第二にC言語とVisual Basicが10位までに入っていないこと、第三にiOS用のプログラミング言語が極端に少ないことだ。iOSのシェアがアフリカ諸国では非常に低いことが第三の結果を生んだと、Tungaは推測している。
同様に開発プラットフォーム(フレームワーク)については、.NET、Android、Node.jsの順に自己申告が多かった。約10%のソフトウェア開発者が.NETプラットフォームに向けて開発していることになる。
モーリシャスと南アフリカ共和国、チュニジアはLinkedInの利用者の割合が高い
Tungaによれば、テクノロジー分野の専門性の高さをごく大まかに見積もるには、人口当たりのLinkedIn利用者数が参考になるという。
人口に占めるLinkedInユーザーの割合が10%を超えたのはモーリシャス(19.0%)と南アフリカ共和国(10.1%)だった。モーリシャスの人口は約130万人、南アフリカ共和国は約5800万人であり、国の人口規模がかなり異なる。
ソフトウェア開発者の給与レベルでは南アフリカ共和国がトップに
企業がソフトウェア開発者と契約する際に、給与レベルが重要な指標になるとTungaは指摘している。給与について公開されている情報源のうち、米国のGlassdoorとPayscale、オランダのWageIndicator Foundationを重視した。
17カ国のソフトウェア開発者の給与水準を比較すると、最も低いのがエチオピアであり、中央値は約229ユーロ、南アフリカ共和国は最も高く、中央値はエチオピアの約8倍、最高値は約15倍に達した。
次のグラフにある縦棒の下端は中央値の給与、上端は最も高い給与を示している(つまり給与が中央値より少ない開発者は図に示されていない)。
給与水準とソフトウェア開発者の人数を比較して、ナイジェリアやエジプト、チュニジアのように人材プールが大きく、給与が低い国に潜在的な発展の可能性があるとTungaは結論付けている。次いでガーナ、アルジェリア、ウガンダに可能性があるという。
技術エコシステムとビジネス環境はソフトウェア開発者の数と相関する
今回の調査ではソフトウェア開発者だけではなく、アフリカの技術エコシステムについても触れている。
まず移動体通信事業者の業界団体であるGSM Association(GSMA)の調査結果と今回の調査を関連付けた。GSMAは毎年アフリカの技術ハブの数を計測しており、そのうち約半数はハイテクインキュベーターとアクセラレーターを示すという。次の図では2019年と2017年のGSMAの報告書を重ね合わせて、技術ハブの数の変化を示している。この結果はTungaが調査したソフトウェア開発者の総数と良い相関がある。Tungaによればハブの数が最も多い8カ国は目覚ましい成長を遂げているという。
アフリカ諸国のICTセクターの現状、アウトソーシングか自国向けか
アフリカ諸国のICTセクターの規模を推測するために、TungaはGDPに占めるソフトウェア支出の割合を用いた。OSとデータベース、開発ツール、ユーティリティーソフトウエア、アプリケーションソフトウェアを対象とし、企業内部のソフトウェア開発と外部に委託したカスタムソフトウェア開発の数値は含んでいない。
それによれば上位5カ国は、エジプト、ジンバブエ、チュニジア、セネガル、南アフリカ共和国だった。ジンバブエは2008年以降にハイパーインフレに襲われ、経済基盤が著しく損なわれたのもかかわらず、2位に入っている。
ICTサービスの輸出(アウトソーシング)の上位5カ国はセネガル、モロッコ、ケニア、モーリシャス、カメルーンだった。
Tungaは世界知的所有権機関(WIPO)が発表したイノベーション指数と、世界銀行が発表したドゥーイングビジネスランキングから、アフリカのテクノロジービジネス環境の全体像を示している。
イノベーション指数はテクノロジービジネスが繁栄するための条件が良好かどうかを示しており、これはソフトウェア開発者の置かれた環境に直結する。ビジネス制度や人的資本と研究開発費、インフラの整備状況などを勘案した指数だ。
ドゥーイングビジネスランキングは開業の容易さや資金をどれほど得やすいか、ビジネス環境の安全性などを示しており、ある国でビジネスを始め、広げていくことが容易かどうかを示す指標だ。
テクノロジービジネスの環境が整った国は次の図の左下に位置する。モーリシャスが最も優れており、南アフリカ共和国やチュニジア、モロッコ、ケニアが続いている。この中でチュニジア以外はソフトウェア開発者の給与レベルがいずれも高い。
Tungaによればルワンダはビジネス環境がかなり高いにもかかわらず、ソフトウェア開発者の人数がかなり少ないという。
GDPに占めるソフトウェア支出の割合と、ICTサービスの輸出を比較することで、TungaはアフリカのICTセクターの全体像を示した。
次の図の左下に位置する国々では比較的ICTアウトソーシングが進んでいると考えられるという。右下の国々はICTセクターが地域経済に向いているとした。右上は今回の上位17カ国のうち、ICTセクターがあまり発達していないと考えられる国々を示している。
モーリシャスと南アフリカ共和国、モロッコ、チュニジアが先駆者
今回の調査を結論付けるために、Tungaは上位17カ国を4つのグループに分けた。先駆者、覚醒しつつある巨人、有望なアウトサイダー、遅咲きだ。
- 先駆者
先駆者に属するのはモーリシャスと南アフリカ共和国、モロッコ、チュニジア、ケニアだ。いずれも人口100万人当たりのソフトウェア開発者の人数が多く、英語(モーリシャス、南アフリカ共和国、ケニア)やフランス語(モロッコとチュニジア)の習熟度が高い。チュニジアを除いて、比較的高い給与レベルにあり、魅力的なテクノロジービジネス環境が備わっている。
アフリカ諸国のソフトウェア開発者と契約する場合、先駆者のリスクが最も低いものの、料金はチュニジアを除いて高くなる。
- 覚醒しつつある巨人
ナイジェリアとエジプトはいずれも人口が1億人を超えており、人材が豊富だ。ビジネス環境は理想的とはいえないものの、急速に改善している。技術ハブも大きく成長している。このため、この2カ国は、アフリカで今後数年間に期待できる国だとした。
- 有望なアウトサイダー
ガーナとセネガル、ウガンダ、ルワンダ、カメルーンは有望なアウトサイダーだという。
このグループには個性がある。ガーナとウガンダはかなりの開発者人口があり、優れた英語能力と中程度の給与レベルを兼ね備えている。
セネガルとカメルーンはICTセクターが比較的よく発達しており、フランス語能力が高い。給与レベルは中程度だ。ただし、カメルーンのビジネス環境には大きな懸念があるという。
ルワンダのビジネス環境は非常に良く、給与レベルは中程度だと位置付けた。
- 遅咲き
残りの国々が遅咲きだ。エチオピアとタンザニア、ジンバブエ、コートジボワール、アルジェリアには可能性があるものの、現状はソフトウェア開発者にとっては必ずしも望ましい状態にない。
エチオピアはナイジェリアとエジプトに並んで人口が1億人を超えており、潜在的な人的資本は膨大な数だ。しかし、調査の結果、ほとんど全ての指標は低い水準にある。
タンザニアとジンバブエのソフトウェア開発者の人数はそれほど多くないものの、重要な開発者プールとなっており、英語能力に優れる。給与水準は、テクノロジービジネス環境のスコアがはるかに高い他の国と比較しても高い水準にある(つまり割高だ)。
コートジボワールとアルジェリアの開発者はフランス語の能力が高いものの、英語能力が非常に低いという。アルジェリアのソフトウェア開発者プールは大きく、給与は低い。コートジボワールのプールサイズはかなり小さく、給料は高額だという。しかし、ビジネス環境は、最下位にあるアルジェリアよりもはるかに優れていると結論付けた。
Tungaの創設者であるErnesto Spruyt氏は、今回の調査について次のように語っている。
「Tungaの使命はアフリカの若い専門家に魅力的なITの仕事を創造することだ。広く一般の人々にもアフリカ市場の明確なイメージを提供することが使命の一つであると考えている。デジタル化が進み、ソフトウェア開発者のニーズは依然として高いので、アフリカのテクノロジーセクターを紹介する必要がある。特に、質の高い人材に対して手頃な価格で契約できないEUや米国の中小企業にとって、アフリカ諸国はこれまで考慮されていなかった魅力的な選択肢だと感じている」
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