Windows 10の「機能更新プログラム(有効化パッケージ)」の秘密を暴く:その知識、ホントに正しい? Windowsにまつわる都市伝説(192)
2021年後半、Windows 11と同時期に、Windows 10の機能更新プログラム「バージョン21H2」のリリースが予定されています。大規模なアップグレードだったWindows 10 バージョン2004に対し、Windows 10 バージョン20H2、バージョン21H1と小規模なアップデートが続きましたが、次のバージョン21H2も小規模なアップデートになるようです。
有効化パッケージによる、必要なパッケージは既にローカルに存在する
Windows Updateで「Windows 10」を更新している場合、最新の「バージョン21H1(May 2021 Update)」は現在、「更新プログラムのチェック」をクリックした一部の先進ユーザー(Seeker)に対して提供されています。しかし、「更新プログラムのチェック」をクリックした全てのユーザーに対して提供されるわけではありません。その対象は段階的に拡大されています(画面1)。
画面1 Windows 10 バージョン21H1の機能更新プログラムは、「更新プログラムのチェック」をクリックした先進ユーザーに提供され、その範囲は段階的に広げられる。つまり、「更新プログラムのチェック」をクリックした全てのユーザーに必ず案内されるわけではない
Windows 10はWindows 10 バージョン1903(May 2019 Update)以降、正式リリース直後は「更新プログラムのチェック」をクリックしたユーザーに対して、機能更新プログラムが利用可能であることが案内され、ユーザーからの明示的な指示(「今すぐダウンロードしてインストールする」や「ダウンロードしてインストール」のクリック)がなければ自動的に更新されることはなくなりました。
Windows 10 バージョン1903に対してバージョン1909は、小規模なアップデートとして毎月の品質更新プログラムと同じような方法で、最小限のダウンロードと短時間のインストールでバージョンアップができました。これには小さな「有効化パッケージ(Enablement Package)」が使用されます。
Windows 10 バージョン2004は大規模なアップグレードとして、従来の機能更新プログラムと同じアップグレードインストールが行われました。そして、Windows 10 バージョン20H1とバージョン21H1は、Windows 10 バージョン2004以降に対して有効化パッケージによる小規模なアップデートでした(画面2)。次のWindows 10 バージョン21H2も、Windows 10 バージョン2004以降に対する有効化パッケージによる小規模なアップデートになる予定です。
画面1 Windows 10 バージョン2004以降をWindows UpdateでWindows 10 バージョン20H2以降にアップデートした場合、非常に小さな有効化パッケージ(Enablement Package)が使用される
非常にサイズの小さい有効化パッケージ(21H2の有効化パッケージは23KB程度)は、機能更新プログラムとは全く異なります。有効化パッケージの中に、Windows 10の新バージョンのコンポーネントは全く含まれていないと思います(ただし、Windows 10 バージョン20H2のときは、Chromium版「Microsoft Edge」のインストーラーが含まれる関係で80MB程度のサイズでした)。
有効化パッケージでアップデート可能な対象のWindows 10には、Windows 10の新バージョンが正式にリリースされるまでの品質更新プログラムで、既に新バージョンの新機能が“非アクティブな状態で追加済み”となっており、有効化パッケージはそれをアクティブ化しているのです。
実証、機能更新プログラムのインストールなしでバージョン20H2を21H1にしてみた
Windows 10 バージョン20H2を新規インストールして、2021年7月までの品質更新プログラムをインストールした状態の環境を用意しました(画面3)。「更新プログラムのチェック」をクリックしても、この環境にはWindows 10 バージョン21H1の機能更新プログラムの案内はまだ表示されません(何らかの理由でまだ対象になっていません)。
画面3 「更新プログラムのチェック」をクリックしても新バージョンが案内されないWindows 10 バージョン20H2だが、「C:\Windows\Servicing\Packages」ディレクトリにはバージョン21H1用のパッケージが既に準備されている
「C:\Windows\Servicing\Packages」ディレクトリの中で「21h2」という文字列を含む拡張子「.mum」のファイルを検索してみると、8つのファイルが見つかりました。うち1つは「Microsoft-Windows-21H1Enablement-Package」というファイル名で始まるパッケージです。
これらのパッケージは、新規インストール直後には存在しませんでした。Windows 10 バージョン20H2を実行中の場合は、同じ場所に「20h1」の有効化パッケージも確認できます(恐らくOSに追加済みの状態)。そして、2021年5月以降の品質更新プログラムがインストールされていれば、次のWindows 10 バージョン21H2のパッケージの準備が進んでいるのを目にすることもできます(※バージョン21H2は開発中であり、2021年7月時点で新機能は追加されていません)。
これらのパッケージを「DISM」コマンドでOSに追加し、OSを再起動してみると、Windows 10のバージョンは20H2から21H1に切り替わりました。「更新の履歴」を確認してみても、機能更新プログラムのインストールの記録がないことが分かるでしょう。コントロールパネルの「インストールされた更新プログラム」には、有効化パッケージを使用していないのにもかかわらず、有効化パッケージ(KB4562830)のインストールが記録されていました(画面4、画面5)。
実験的な試みにつき、絶対にマネをしないでください
今回の実験は、有効化パッケージが既にローカルに準備されている新バージョンの機能をアクティブ化しているということを示したにすぎません。有効化パッケージが実際に行っていることの一部を手動で行っているだけで、正規の方法ではないことに注意してください。
例えば、Windows 10 バージョン20H2の機能更新プログラムの有効化パッケージでは、インストールされていない場合にChromium版Microsoft Edgeをインストールするという追加の処理を行っていました。また、Windows Updateによるインストールではないため、「セーフガード」(既知の互換性問題の影響を避けるため、機能更新プログラムのインストールを一時的にブロックする機能)も働きません。有効化パッケージには、その他にも何か重要な役割を実施している可能性もあります。筆者が今回行った方法で新バージョンにして、それが正常に機能するとはいえないのです。
「更新プログラムのチェック」をクリックしても、機能更新プログラムが案内されないからといって、この方法は使用しないでください。正規の方法で他にも簡単に有効化パッケージをすぐに入手してアップデートする方法は幾つかあります。詳しくは、以下の筆者の個人ブログ記事を参考にしてください。
- Windows 10 May 2021 Update(ver 21H1、build 19043.985)リリース(山市良のえぬなんとかわーるど)
- さっさと20H2にWindows Updateで上げる裏技(ver 2004 Pro 以上向け)+おまけ(山市良のえぬなんとかわーるど)
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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