MicrosoftによるMirantis Container Runtimeのサポートは「2022年9月」に終了:Microsoft Azure最新機能フォローアップ(171)
MicrosoftはWindows Server 2016でWindowsコンテナのサポートを開始し、コンテナランタイムとしてのDocker Enterprise Edition(現在のMirantis Container Runtime)のライセンスと、Microsoftによるサポートを提供してきました。このランタイムのMicrosoftによる提供とサポートは2022年9月末で終了し、Mirantisに完全に移管されます。
WindowsコンテナのランタイムとしてのMCRは無料から有料サブスクへ
「Windows Server 2016」でDocker対応のWindowsコンテナのサポートが提供されるのに合わせ、Microsoftは「Docker Enterprise Edition(Docker EE)」(その後、Docker Enterpriseに改称)の使用ライセンスと、Microsoftを窓口としたサポートを提供してきました。DockerのEnterprise部門が2019年末にMirantisに買収され、Mirantisの下でDocker Enterprise 3.1がリリースされましたが、その後、「Mirantis Container Runtime(MCR)」に名称変更されて、現在に至っています。
その間も、MicrosoftによるWindows Server上でのMCRのサポートは提供され続けてきました。これには、MCRをWindows Serverに導入するための「DockerMsftProvider」APIの提供およびメンテナンスも含まれています(画面1)。ただし、2022年に入ってからリリースされたMCRの更新バージョンについては、現状、DockerMsftProviderは対応していません(Mirantis提供のinstall.ps1スクリプトで更新できます)。
画面1 Microsoftが提供するDockerMsftProviderにより、Windows ServerへのMCRの導入と更新が簡素化されるが、現在対応しているのは2021年末までにリリースされたバージョン(最新バージョンは2022年4月リリースのMCR 20.10.11)
MicrosoftとMirantisは、2021年9月、WindowsコンテナのランタイムとしてのMCRのMicrosoftによるサポートを2022年9月末で終了し、Mirantisに移管することを発表しました。その期限が数カ月先に迫っています。
- Updates to the Windows Container Runtime support[英語](Microsoft Tech Community)
- Windows Server container users: Mirantis is here to support you[英語](Mirantis Blog)
Microsoftは、2022年10月以降、事前インストールされたMCRおよびDockerMsftProviderを含むWindows Server各バージョンの「with Containers」イメージ(Windows Server 2022 with Containersは未提供)の新しいイメージの公開を停止し、既存イメージも2023年3月末には削除する予定です(画面2)。既存のイメージを使用してデプロイされたWindows仮想マシンについては、2022年10月以降、MCRおよびDockerMsftProviderのMicrosoftによるサポートがなくなることに注意してください。
画面2 Windows Serverの「with Containers」イメージは、2022年10月以降、更新されたバージョンは提供されなくなり、2023年3月末には削除される。既に現在ある最新のイメージも、OSの品質更新は最新になっているが、MCRについては2021年末のバージョン20.10.9で止まっている
2022年10月以降もオンプレミスまたはクラウド上でMCRの利用を継続するには、有料サブスクリプション(500米ドル/年のBASIC以上)を購入する必要があります。また、Mirantisにより作成されたイメージが、Azure Marketplaceで利用可能になる予定です(価格は未定)。
- Support Update for Docker Engine-Enterprise[英語](Mirantis)
2022年10月以降もサポートが継続されるAzureのコンテナオプション
Microsoftが2022年10月以降、Windowsコンテナのランタイムとしてサポートするのはオープンソースの「containerd」のみとなり、これに基づいたMicrosoft Azureのコンテナ対応の各種サービスではWindowsコンテナが引き続き正式にサポートされます。
Azureのコンテナ対応サービスとしては、「Azure Container Instances(ACI)」「Azure App Service(Web Apps for Containers)」「Azure Kubernetes Service(AKS)」「Azure Container Apps(プレビュー)」などがあります。
- Container Appsと他のAzureコンテナオプションの比較(Microsoft Docs)
Microsoftサポートのオンプレミス向けランタイム環境はAKS on HCI/Windows Server
オンプレミスでは、追加コストなしでMicrosoftまたはMirantisのサポート付きでWindowsコンテナをホストする環境は存在しなくなります。Azureの有料サブスクリプションになりますが、オンプレミスの「Azure Stack HCI」または「Windows Serverホストクラスタ」上に構築、運用することができる「AKS on Azure Stack HCI」または「AKS on Windows Server」を利用すれば、Microsoftによる公式なサポート付きでWindowsコンテナをホストすることができます(画面3)。
画面3 Windows Admin Centerを使用すると、Azure Stack HCIまたはWindows Serverホストクラスタ上にAKS環境(有料サブスクリプション)を導入できる。これがMicrosoftが公式にサポートするWindowsコンテナの事実上、唯一のランタイム環境
ただし、その場合、少なくとも30GB以上のメモリが仮想マシン用に利用可能で、クラスタ共有ボリュームに1TB以上の空き領域が必要になるなど、AKSクラスタをホストするために多くのリソースを必要とします。
なお、「Windows Admin Center」には、スタンドアロンのWindows Serverをボタン1つでWindowsコンテナ用のホストとしてセットアップする機能がありますが、これはDockerMsftProviderを利用したMCRの導入を自動化したものであり、2022年10月以降はサポートされないランタイム環境が構築されてしまうことに注意してください(画面4)。
画面4 Windows Admin Centerのコンテナホストのセットアップ機能は、DockerMsftProviderによるMCRランタイムの導入機能であり、2022年10月以降はサポートされなくなる
Windowsコンテナのランタイムとしては、Dockerが提供する「Docker Desktop」のHyper-Vバックエンド(WSL《Windows Subsystem for Linux》2バックエンドはLinuxコンテナ用)がありますが(画面5)、こちらはWindows/Linuxコンテナに関係なく、既に商用利用が有料サブスクリプションに移行しています。ただし、従業員数250人未満で年間売上高1000万ドル未満のスモールビジネスの場合は引き続き無料で利用可能です。
- The Grace Period for the Docker Subscription Service Agreement Ends Soon - Here’s What You Need to Know[英語](Docker)
最新情報(2022年10月3日追記)
WindowsコンテナのランタイムとしてのMCRのMicrosoftによるサポートと、Azure Marketplaceからのイメージの削除は、2023年4月30日に延期されました。Microsoftは、2022年9月22日に予告通りAzure Marketplaceから「with Containers」イメージを削除しましたが、その後、復活させています。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2009 to 2022(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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