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Windows 11一般提供開始、企業での導入/展開時に注意すべきポイントは?企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内(110)

MicrosoftはWindowsデスクトップOSの最新バージョンである「Windows 11」を正式にリリースし、Windows 11対応ハードウェアを搭載したWindows 10デバイスに対して、無料アップグレードの段階的なロールアウトを開始しました。

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企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内

企業クライアントとしてのWindows 11、十分に評価した上で導入を

 Microsoftは2021年10月4日(米国時間)、「Windows 10」の後継デスクトップOSとなる「Windows 11」を正式にリリースしました。製品名は「Windows 11」、OSビルドは「22000」、バージョンは「21H2」です。リリース時点の詳細なビルドは、それまでWindows Insider Betaチャネルで提供されていた最新ビルド「22000.194」から変わりありません。

 Windows 11のリリースに合わせ、OEMベンダーからはWindows 11プリインストールPCの出荷が開始されています。個人向け(ボリュームライセンスのWindows 10ではない場合)には手動でアップグレードする方法も用意されています(ただし、Windows Updateによる配布を待つことが推奨されています)。

 なお、半期チャネル(1年に2回リリース)のWindows 10とは異なり、Windows 11に対する機能更新プログラムは年次リリース(1年に1回)になり、Home、Proエディションはリリースから24カ月(バージョン21H2は2023年10月10日)まで、Enterprise、Educationはリリースから36カ月(バージョン21H2は2024年10月8日まで)、サポートされます。

 一方、企業向けにはボリュームライセンスセンター(VLSC)でのISOイメージの提供の他、「Windows Server Update Services(WSUS)」や「Windows Update for Business」での配布も同日より可能になっており、「Windows 11 Enterprise」の180日評価版の提供も開始されています(画面1)。

 また、Microsoft Azureでは、「Azure Virtual Desktop」向けのWindows 11イメージが利用可能になり、正式なサポートが開始されました。「Windows 365 Cloud PC」についてもEnterpriseプランでは新規のWindows 11デスクトップの展開が可能になっています(Businessプランについては今後数週間のうちに対応予定)。

画面1
画面1 Windows 11 Enterprise評価版

 これから企業でWindows PCを新規導入する場合は、Windows 11対応デバイスのWindows 10プリインストールPC、またはWindows 11プリインストールPCを選択すればよいでしょう。企業の主力のクライアントPCとして長期間利用できるからです。

 しかし、既存のWindows 10クライアントをWindows 11に移行しようと考えているなら、慎重に検討してください。なぜなら、全てのWindows 10クライアントがWindows 11にアップグレードできるとは限らないからです。

Windows 11のハードウェア要件とハードウェア互換性のチェック

 Windows 11はWindows 10の後継となる、最新のデスクトップOSです。Windows 11のカーネルは、これまでWindows 10として開発されてきたカーネルの最新のパブリックビルドであり、まだ多くの部分はWindows 10の最新ビルドと共通であると思われます。しかし、これまでのWindows 10の機能更新プログラムとは異なり、全てのWindows 10デバイスがそのままWindows 11にアップグレードできるというわけではありません。

 Windows 11では、ハードウェア要件が厳格化されます。Windows 11は64bit版のみが提供され、ハードウェア要件は以下の通りです。

ハードウェア 最小要件
プロセッサ 1GHz以上、2コア以上のx64プロセッサまたはSystem on a Chip(SoC)
メモリ 4GB
ストレージ 64GB以上
ファームウェア UEFI、セキュアブート対応
セキュリティチップ トラステッドプラットフォームモジュール(TPM)2.0
グラフィックス DirectX 11互換/WDDM 2.x、9インチ/HD解像度(1280×720ピクセル)以上

 ただし、プロセッサについてはここ数年内(2〜3年)のモデルに限定されることに注意してください。例えば、Intelプロセッサの場合は、第8世代以降(および第7世代の一部)がサポートされます。そのため、導入して3年以上経過しているPCの場合、ほとんどの場合Windows 11にアップグレードすることはできないでしょう。具体的にサポートされるCPUの一覧については、以下の「Windowsのプロセッサ要件」のページで確認できます。

 その他の要件も、企業の既存のクライアントPCが対応しているとは限りません。大量のPCを一括で導入する場合、メモリ容量やTPMチップはコスト抑制のために犠牲にされることがあるからです。

 個人用のPCについては、早いものでは既に「設定」アプリのWindows 11のページに、Windows 11へのアップグレードの案内や、アップグレードできないことの通知が表示されています(画面2)。

画面2
画面2 筆者の手元のPCの1台には、既にWindows 11へのアップグレードができないことの通知が来ていた。3年前に購入したPCで、プロセッサモデルが対応していない

 まだ通知が来ていない場合は、以下のページからダウンロードできる「PC正常性チェックアプリ」を実行してWindows 11にアップグレードできるかどうかをチェックすることができます。

 残念ながら、Windows Updateが管理されている場合(WSUSやWindows Update for Businessで管理されている場合など)、「PC正常性チェックアプリ」は対応状況を報告してくれない場合があります(画面3)。

画面3
画面3 WSUSやWindows Update for Businessで管理されている場合、「PC正常性チェックアプリ」はチェックを実施しない

 その場合は、一時的にポリシー設定を解除してチェックしたり、既にあるインベントリツールを使用してハードウェア情報をチェックしたり、既にある、または今後提供されるその他のチェックツールを使用したり、独自のスクリプトでチェックしたりするなど、Windows 11へのアップグレードの可否を判断するために、何らかの工夫が必要になるかもしれません。

WSUSやWindows Update for Businessは既にWindows 11対応

 先に触れたように、WSUSやWindows Update for Businessでは、Windows 11のリリースと同時にWindows 11の配布が可能になっています。

 WSUSの場合はWindows 11のリリース日以降の同期により、「製品と分類」で「Windows 11」が利用可能になり、これを選択して再同期することで、Windows 11のアップグレードの承認と配布を実施できます(画面4)。

画面4
画面4 WSUSでは既にWindows 11アップグレードを承認して配布できるようになっている

 Windows 10のWindows Update for Businessのポリシー設定「ターゲット機能更新プログラムのバージョンを選択する」には、2021年9月の累積更新プログラムまでの更新で製品のバージョンとして「Windows 10」または「Windows 11」を指定するオプションが追加されました。

 ここに製品バージョン「Windows 11」、機能更新プログラムのターゲットバージョン「21H2」を指定することで、すぐにWindows 11のダウンロードとインストールを開始できます(画面5)。

画面5
画面5 Windows Update for Businessを利用すれば、Windows Updateによる段階的なロールアウトを待つことなく、すぐにアップグレードを開始できる

 ただし、Windows 11に対応していないハードウェアの場合、「Windows 11へのアップグレード」のダウンロードの初期段階で「このPCは現在Windows 11のシステム要件を満たしていません」と表示され、失敗します。そしてポリシー設定を変更しない限り、失敗を繰り返すことになります。

 企業におけるWindows 11へのアップグレードは、Windows 11対応ハードウェアのチェックに加え、業務アプリケーションの互換性、周辺機器の互換性などを含め、事前に十分に調査した上で実施してください。事前検証なしでWindows 11のアップグレード展開を始めてしまうと、ビジネスを長期間ストップさせてしまう事故につながりかねません。

ビジネスの継続性を考えれば、企業の運用環境は当面Windows 10を維持すべき

 MicrosoftはWindows 11にアップグレードできないPCのために、Windows 10のサポートを「2025年10月14日」まで継続することを発表しています。直近では、Windows 10の次の機能更新プログラムである「Windows 10 バージョン21H2」(ビルド「19044」)が間もなく(年内)提供されるでしょう。その後の機能更新プログラムについては、今のところ情報はありませんが、少なくとも2025年10月まではセキュアな状態で継続して利用できます。

 また、Microsoftは特殊な用途向けに「Windows 10 Enterprise LTSC」の次期バージョン(LTSC 2022または2021になると思われます)のリリースも年内に予定していますが、バージョン2019までの10年サポート(メインストリーム5年+延長サポート5年)とは異なり、次期バージョンサポート期間はメインストリームのみの5年に短縮されます。

 企業クライアントとしてWindows 10 Enterprise LTSCの次期バージョンを検討している企業があるかもしれませんが、推奨される利用シナリオではない上、長期間利用できるわけではないことにご注意ください。

筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2009 to 2022(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。


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