クラウドに移行する目的、対象、方法を合理的に選択するには:Gartner Insights Pickup(279)
ビジネスインパクトが、クラウドサービスを効果的に統合するための重要な判断基準となる。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
要約
- ワークロードのクラウド移行の成功とは、最小の労力とコストで最大の効果を得ることだ
- 経営幹部は、クラウドに移行する目的の設定に当たって、組織の文化とビジネスの優先順位を考慮しなければならない
- インフラストラクチャの複雑さを軽減しアジリティを高めるとともに、コンプライアンス要件を満たすのに過不足のないプライベートクラウドが必要になるだろう
ワークロードのパブリッククラウドへの移行を加速することは、企業がコストの上昇を相殺し、不況を乗り切るために必要な、明確な目的に基づくデジタル化の鍵となる。だが、クラウド導入・移行は、定石が決まっているわけではない。ビジネスケース(論理的な理由付け)の内容は、コスト削減と戦略上および業務運営上のメリットの両方に左右される。
パブリッククラウドのメリットには、次のようなものがある。
- クラウドは、ITの一般的な制約(価値創造までの時間の長さや限られたリソース、互換性のないシステムなど)への対処を可能にし、デジタルビジネスを支える
- クラウドは、ハードウェアとソフトウェアの運用、保守の業務負担を軽減する
- これにより、IT人材は組織にとって価値の高いイノベーションや成長の取り組みに集中でき、ITの取り組みの投資収益率(ROI)を高められる。その結果、収益や競争力が向上する可能性がある
問題は、どの組織もアプリケーションポートフォリオの固有の技術的および非技術的要素を抱える中で、どのようにビジネスケースを作成し、成功するクラウド移行を計画するかだ。「経営幹部はCIO(最高情報責任者)と協力し、ビジネスの差別化に不可欠で、かつ最小の労力とクラウド移行コストで最大の効果が得られるIT機能を特定し、優先順位を付ける必要がある」。Gartnerのアナリストでバイスプレジデントのケビン・ジー(Kevin Ji)氏はそう説明する。
クラウドファーストは何を目指すか次第
クラウドの取り組みを成功させるには、組織が既存のソーシング(調達)プロセスを見直し、変更して、さまざまなタイプのサプライヤーを利用する必要がある。
クラウド移行計画を策定するための3つの重要なステップ
1.SaaSへの移行に適したワークロードを特定する
パブリッククラウドへの移行(アウトソーシングの一種といえる)の目的設定をしている経営幹部は、各アプリケーションの重要性に注目する必要がある。重要なアプリケーションは、ビジネスの売上高と利益を支え、同業他社との能力やコアコンピタンス(中核的な強み)の差別化を実現する。
一部のアプリケーションは日々の業務を維持する上で重要だが、企業はそれらを強化してもビジネスを差別化できない。電子メールや人事、財務システムなどのアプリケーションは、パブリッククラウドのインフラやプラットフォームサービスで運用する必要がないため、多くの企業がこれらのアプリケーションをSaaS(Software as a Service)プラットフォームに移行している。
Gartnerの顧客企業に確認したところ、オンプレミスから同じプロバイダーのクラウドに移行しているケースが多い。SaaSに移行する目的のトップ3は、機能の拡充と使い勝手の向上、ユーザーインタフェース(UI)の強化だ。
2.クラウドの取り組みの成果をビジネス目標に整合させる
パブリッククラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)を利用する場合、組織は利用する資産を所有しない。これは、システムのハードウェアとソフトウェアが設備投資による資産であるオンプレミスデータセンターとは全く異なる点だ。そのため、パブリッククラウドへの移行に伴い、費用の種類は設備投資(CAPEX)から運用経費(OPEX)に変わる。
クラウド移行プロジェクトの効果的なビジネスケースの作成は、適切な目的設定に大きくかかっている。経営幹部は、組織の文化やビジネスの優先順位を踏まえ、以下をはじめ、どんな目的が組織内で共感を得られるかを検討する必要がある。
- アジリティ(俊敏性)とスケーラビリティ
- ビジネスのイノベーション
- 地理的分散の拡大
- コストの最適化
さらに経営幹部は、クラウドへの移行によるコストメリットを、以下のようなビジネスの最適化領域に整理するとよい。
- ビジネスシステムの可用性の向上
- プロジェクト期間の短縮
- 技術的な柔軟性
- セキュリティの向上
経営幹部はIT部門と連携し、OPEXモデルへの移行に必要なリソースを把握する必要がある。クラウドの導入は技術的に複雑であり、変革的な成果が期待されている場合は、特にそうだ。
3.過不足のないプライベートクラウドを維持する
プライベートクラウドは、従来のビジネスインフラストラクチャをモダナイズするための選択肢の1つであり、主にアプリケーション導入サイクルの高速化や、信頼性と可用性の向上(特に、規制の厳しい業種)に重点を置いている。
経営陣は、パブリッククラウドの全機能を備えたプライベートクラウドの構築を計画してはならない。組織の戦略や価値観に合わない高度な機能を避け、プライベートクラウドプロジェクトの複雑さを軽減する必要がある。
プライベートクラウドの導入目的として、次のことが挙げられる。
- 規制の厳しい業種におけるコンプライアンス要件への対応
- データセンターのスペースとホスティングコストの削減
- サーバのプロビジョニングにおけるアジリティの向上
- 信頼性と可用性の向上
- セキュリティ要求の確実な実現
- 低遅延のネットワークの確保
出典:Migrating to the Cloud:Why, How and What Makes Sense?(Smarter With Gartner)
筆者 Lori Perri
Content Marketing Manager
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