お前とは絶交だ! 契約も解除してやる!:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(103)(3/3 ページ)
社長同士のトップ営業で決まったシステム案件。だが、出来上がったシステムには不具合が多く、社長たちの信頼関係にも不具合が発生。この契約、解除できるのか――!?
裏を返せば、開発に関係する信頼の棄損は解除につながるということに……
私が今回この裁判を取り上げたのは、「社長同士がケンカしたからといって、システム開発契約には関係ない」とお伝えしたかったからではない。皆さんに知っておいていただきたいのは、その裏の意味合いだ。
判決や法律の条文の中にはその文言を裏返して読まなければならないものが多い。恐らく、これもその一つであろう。
「代表者同士の個人的な信頼が棄損されたからといってシステム開発自体の問題ではないから契約の解除はできない」とは、裏を返せば、「個人的な信頼棄損ではなく、システム開発を巡る信頼の棄損があるなら、契約解除の理由となりえる」となる。
少し深読みが過ぎるとお考えの方もいらっしゃるかもしれないが、民事裁判では、信頼の棄損は立派な契約解除の理由になる。実際、誰もが知る大きなIT裁判においても、「ベンダーのパッケージソフトウェアに関する情報が不十分かつ不正確であったことが両者の信頼を棄損した」と契約解除が認められた。
そう考えると、危険なのはシステム開発に直接関係しない代表よりも、双方の担当者の振る舞いかもしれない。
ベンダーの担当者がユーザー企業からの問い合わせに答えない、あるいは遅れる。提案やキックオフで実施すると約束していたプロジェクト管理を実施しない。投入すると言っていた人員を投入しない。誤った情報提供をする――こういうことは全て信頼の棄損につながる。
ユーザー企業担当者が出ると言っていた会議に出ない、情報提供や意思決定が遅れるなどの行動も同じだ。こうした行動があると法的紛争の場においては重大な弱みになるし、損害賠償を払うべき者が逆になるケースもあり得る。
むろん争いが裁判にまでなることはまれかもしれないが、そもそも信頼の棄損自体がプロジェクト失敗の大きな原因ともなり得る。一つ一つは細かいこと、ちょっと謝罪すれば済むことだと思えるかもしれないが、これらの積み重ねが、後で取り返しのつかない事態を引き起こすこともあり得るのだ。
システム開発に限ったことではないが、自分の行動が相手の信頼を損ねることにつながらないかを常時気にしておくことは必要だ。
細川義洋
ITプロセスコンサルタント。元・政府CIO補佐官、東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。
独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまでかかわったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。
2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わった
個人サイト:CNI IT Advisory LLC
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