日本のエンジニアは信じられないくらい細部にこだわる だがそれがいい:Go AbekawaのGo Global!〜Julian Garthwaite(後)(2/3 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回もセキュリティエンジニアのJulian Garthwaite(ジュリアン・ガースウェイト)さんにお話を伺う。同氏が日本のエンジニアに感じる“美点”とは何か。
試行錯誤でたどり着いた「マネジメントで大切なこと」
阿部川 エンジニアの仕事はじっと座って本を読んでいるだけでできるものではないので、ジュリアンさんのようにさまざまな媒体から情報を集めたりイベントに参加したりしないといけない。ではマネジメントのスキルはどうやって向上させていますか。
ジュリアンさん マネジメント論の本や論文も読みますし、スキル向上のための講座を受講して学ぶこともあります。私の仕事は9割型、人を納得させたり説得したりすることですから、そのための方法は数え切れないほどあるわけです。特にエンジニアの場合、自分に自信を持っているタイプが多いので、ただ彼らの話を聞くだけではなく、積極的な聞き手として彼らの主張や行動を理解しないといけません。
メンバー全員に周知したり徹底したりすることも必要です。例えばハンズオンで実際やる方が得意なメンバーもいれば、何でも自分で決めて自分で実行できるメンバーもいます。そして、そのどちらでもないメンバーも。マネジメントとは人と対峙(たいじ)することなので、こちらでやり方やスタイルを一方的に決めるものではないと思っています。誰をマネージしているのか、どうすればベストのマネジメントができるのか、それによって変わってくるものだと思います。
阿部川 おっしゃる通りだと思います。
ジュリアンさん 私のチームはさまざまな国の出身者で構成されているので、文化の違いを言い出したら切りがありません。この業界であればシリコンバレーから生まれたグローバルに通じる手法がありますが、必ずしもその手法でチームがうまく動くとは限りません。GoogleやAmazon.comはそれを踏襲して成長してきたと思うのですが、今は少し違ってきていると感じます。
「ボス(上司)より先に帰れない」「出社は必ず上司より早く」といったあしき習慣はもうないとは思いますが、生産性に関する誤解のようなものは今でもあると思います。私たちは人間で、ロボットではありません。従業員としてだけではなく、個人としてやらなければならないこともたくさんある。子どもをデイケアに連れて行かないといけないとか、医者に診てもらわないといけないとか。しかしそれでも仕事は完了しないといけないわけです。拘束される時間も多いけれど、個人の時間の自由度もある程度は必要になります。
私も初めから余裕のあるマネジメントをできたわけではありません。以前は「早くやれ!」とか、「あれはどうした!」などと(と言いながら、椅子の肘掛けをトントンたたく)やっていました。「君は忙しくは見えない、暇なんだろう」と。今は、「君も人間であることはよく分かっている、若いし家族もいるし、自分が必要と思うことをやってくれ」と言えます。
自分のやりたいようにやらせればチームはカオスな状態になり、マネジャーとして気が休まることはありません。でも、一生懸命仕事をしようと思っているのは皆同じで、到達すべきゴールがあることも信じているのです。達成すべき共通の目標があれば、どうやってそれをやるかはあまり重要ではありません。
以前、小さなチームを持っていたことがありますが、少人数でもメンバーはそれぞれ特性が違うのでどう管理すればいいか途方に暮れたことを思い出しました。そういうときって型にはまったマネジメントをしがちなんですよね、その方が楽なので。でも「一生懸命仕事をしようと思っているのは皆同じ」「一人一人それぞれの人生があり、大切にしていることがある」という話を忘れないようにしないといけませんね。
東京はまるで「『スター・ウォーズ』の円形会議場」のようだ
阿部川 ちなみにWovenには日本のエンジニアもたくさんいると思いますが、他の国のエンジニアと比べて、何か違いとか特徴とかを感じることはありますか。
ジュリアンさん 日本のエンジニアは、信じられないくらい細部にこだわりますね。セキュリティ関連の業務にとって、それは非常に大切なことです。スペックを間違えたり見逃したりは論外ですから。日本に良いセキュリティのエンジニアが多いのもうなずけます。西洋の私たちはどちらかというと「まあ動いているんだからいいだろう」となってしまいます(笑)。この日本の細部への心配りは、素晴らしいと思います。
言葉の壁はやはりありますね。グローバルで展開している企業のトヨタでも、もともとは日本の企業ですから、やはり言語の問題はあります。それとチームのメンバーのライフスタイルというか、仕事に対するスタイルも違います。インターナショナルな環境では各自がしっかりしたオピニオン(意見、主張)を持って仕事をしていて、それをはっきり言いますが、日本のチームはあまり言わないですね。
細かいことをいえば服装も違いますね。私は結構ラフな格好で会社に来て仕事をしますけど、批判する人もいます。
阿部川 ああ、そういえば聞きそびれていました。来日を決めた理由を教えていただけますか。
ジュリアンさん 日本はとても刺激にあふれていて、ずっと行ってみたいと思っていました。日本の文化や自然などが本当に大好きで、中でも東京という都市そのものが好きです。スカイツリーから夜景を見たことがありますか? どこまでも続く近代都市が見えるはずです。東京はまるで、『スター・ウォーズ』の円形会議場のように、どこまでも続いて際限がないように見えます。すごいと思います。
阿部川 そう言っていただけるとうれしいです。今後、日本で仕事を続けられるのだと思いますが、伸ばしたいスキルや取り組んでみたい分野はありますか。
ジュリアンさん 引き続き、人間としてのスキル、それとコミュニケーションスキルを高めたいですね。仕事としては、CIO(最高情報責任者)としての仕事がこなせるようにマネジメントのスキルをもっと学びたいと思っています。もちろん、セキュリティも主要な分野として学ぶつもりです。この分野が好きですし、今後も大切な分野だと思いますし。ITシステム全体についても今よりももっと知識を身に付けたいと思っています。
電源だろうがモーターだろうが、現在では全てのものにコンピュータの制御が必須ですから、ITの現在の方向性が大きく変わることはないと思います。とにかく今は日本にいてとても楽しく仕事ができているので、これは変わらず続けていくと思います。本当に日本は美しいので。
阿部川 学ぶことは一生涯続きますし、それはIT業界だけではないですよね。
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