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準委任契約だけど、責任は取ってください「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(108)(1/3 ページ)

準委任契約で要件定義を行い、請負契約で設計以降を行ったシステムが使用に耐えないものだった。悪いのはベンダー、ユーザー、どっち――?

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「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

準委任契約と請負契約

 今回は、システム開発の要件定義工程の契約形態についてお話しする。

 本連載の読者ならご存じの方も多いと思うが、情報システムの開発は、準委任契約に基づいて行われる場合か請負契約に基づいて行われる場合が多い。そして1つの開発においても、要件定義工程は「ユーザーの作業を支援する」という意味合いで、成果物の完成責任を負わない準委任契約で、設計以降の工程(ここでは便宜的に「開発工程」と呼ぶ)は「ベンダーが主体となる」ために成果物の完成責任を伴う請負契約で行う場合がよくある。準委任契約は、「専門的知識やスキルを持つ人間が契約で合意した時間働けば、その対価は払ってもらえる」というのが原則である。

 では、専門家が一定時間働きさえすれば責任を果たしたことになるのだろうか。

 今回取り上げる事件は、ITベンダーが要件定義工程から開発工程までを一貫して行ったが、要件定義に抜け漏れがあったため、結局使えないシステムが出来上がってしまったものだ。要件定義工程は準委任契約だったのだが、果たしてITベンダーには本当に責任はないのだろうか。

準委任契約のITベンダーに成果物責任はある?

 事件の概要からご覧いただくこととしよう。

東京地方裁判所 平成22年9月21日判決より

ある学習塾運営企業(ユーザー企業)が、自社の業務システム更改をITベンダーに依頼した。システムは勘定系基幹システム、教室管理システムおよび教務システムであり、いずれも旧システムの更改であった。開発は要件定義工程から設計、製造、テストまで当該ITベンダーに依頼されたが、契約形態は要件定義が準委任契約、以降の工程は請負契約であった。

ITベンダーはユーザー企業の業務分析を基に要件定義を行い、費用の支払いもなされたが、定義された要件には旧システムが具備していた機能が複数欠落(生徒の通塾パターンの変更処理や学費の請求に関わる機能など)しており、これを基に開発したシステムは業務に使えるものではなかったため、ユーザー企業は検収を拒否した。

ITベンダーは「システムが要件として定義した機能を具備しており、その要件自体は準委任契約であった」ことを理由に、残額の支払いを求めたが、ユーザー企業は「要件定義の不備の責任もITベンダーにある」として、要件定義費用を含む既払い金額の返還と損害賠償を請求して反訴を提起した。

出典:Westlaw Japan 文献番号 2010WLJPCA09218009

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