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仕様は確認しないし、運用テストもしません 全部出来上がってから確認します「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(92)(1/3 ページ)

説明拒否、確認拒否、追加開発強要、契約なし――協力義務違反の展覧会のようなユーザー企業に対して、ベンダーの専門家責任はどこまで求められるのか。

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「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

 ソフトウェア開発における「ベンダーの専門家責任」は、恐らくベンダーが考える以上に重い。

 開発失敗の責任を争う裁判では、ユーザー企業の不作為や非協力、非見識でさえも「ベンダーがITの専門家としてユーザー企業をリードしなかったためだ」と厳しい判断を下されることもある。本連載でごく初期に取り上げた平成16年3月10日の裁判は、ユーザー企業が要件変更を繰り返してプロジェクトが破綻してしまった責任を、「ユーザー企業の要望を断ったり、追加見積もりをしたりするなどして、プロジェクトの安全を図らなかったためだ」としてベンダーに負わせる判決が下され、当時私も末席を汚していた東京地裁のIT調停委員の間で話題になった。

 無論、全てのプロジェクト破綻の責がベンダーにあるというわけではなく、ユーザー企業がしかるべき時期に必要な判断を下さない、必要な情報提供を行わないなどがあれば、「ユーザーの協力義務違反」という不法行為に当たるが、ベンダーにとって大きな痛手となることには違いない。プロジェクト管理義務責任を問われて、裁判に負ければもちろん、仮に勝てたとしても、ベンダーは裁判中に多大な労力を紛争解決のために費やす。顧客相手に裁判を起こしたとなれば、裁判相手だけでなく、他の顧客との商談にも影響を与えかねない。

 本連載では今までも「プロジェクト管理義務」と「ユーザーの協力義務」に関する話題を取り上げてきたが、今回は1つの事件の中に事象が幾つも詰め込まれた展覧会のような裁判例があったので取り上げる。ベンダーとユーザー企業のどちらが勝ったかという点に興味を持たれるかもしれないが、反面教師として、ご自身のプロジェクト成功の知見としても活用いただければと思う。

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