ITはサーキュラーエコノミー(循環型経済)の発展に貢献しているか:Gartner Insights Pickup(324)
ITハードウェアベンダーにとって、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への対応はもはや不可欠だ。Gartnerは、2030年までに対応製品が80%に達すると予測する。ベンダーはどう取り組むべきなのか。
ハードウェアベンダーの製品ポートフォリオのうちサーキュラーエコノミー(循環型経済)に配慮した製品が占める割合は、2023年の20%から2030年には80%に上昇する見通しだ。実際、寿命を迎えたデバイスをリサイクルや再製造を経て再利用されるようにすることは、世界のほとんどのハードウェアベンダーにとって大きな課題となっている。
循環型経済への取り組みの現状と、対応製品の割合が80%に達するために必要なこと
ハードウェア業界は製品の環境負荷を軽減するため、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を進めてきた。ベンダーは製品のサステナビリティ(持続可能性)向上を目指しているが、その重点の置き方はさまざまだ。例えば、一部のベンダーは梱包材に注目し、リサイクル材への全面的な転換を実現している。製品自体の素材に占める認定リサイクル素材の割合を増やしているベンダーもある。
さらに、回収、再利用/長寿命化、修理、再製造、リファービッシュ(再生修理)、リサイクルからなる循環型サプライチェーンを採用する動きも広がっている。
だが、もっとできることがある。例えば、ベンダーは新製品におけるリサイクル素材率の目標など、関連するKPI(主要業績評価指標)を設定することで、循環型サプライチェーンへの移行を加速できる。また、再生可能エネルギーの発電と貯蔵(バイオバッテリーなど)を推進し、原材料の抽出と加工による環境や社会への影響を軽減できる。
しかし、真の循環型製品を製造するには、製品の漸進的な改良ではなくシステムの転換が必要になる。実際に、ITを循環型経済に移行させるために、ハードウェアベンダーは環境効率の高い製品アプローチから環境効果の高い製品アプローチに移行しなければならない。環境効果の考え方は、本質的に新しい循環型システムの最適化を包含している。その主眼は、製品の価値をできるだけ長く維持し、拡張することにある。
既に、幾つかのハードウェアベンダーがこのアプローチを実践している。だが、より多くのベンダーがリサイクル部品や再生可能な素材を含み、分解や修理が容易な製品の設計を優先し、デバイスの寿命を延ばす必要がある。このアプローチは、ハードウェアベンダーの製品ポートフォリオのうち、循環型経済に配慮した製品の割合を増やすのに間違いなく役立つ。
生成AIは、ITにおける循環型経済の拡大に貢献できる
生成AIは、既に幾つかの分野でエレクトロニクス業界に影響を与えている。例えば、材料科学では、よりサステナブル(持続可能)な材料の設計に利用できる。AIやデジタルツイン、データアナリティクスを応用した材料情報学も、最終的に環境への影響を低減するものを利用して、材料開発の効率を向上させる。
特性がある新素材をより早く発見することは、幾つかの分野で重要な意味を持つ。例えば、既存の製品材料の新しいリサイクル方法や再利用方法の開発、エレクトロニクスのサステナブルな生産プロセスの開発などに貢献するからだ。
Gartnerは、2025年までに新薬や新素材の30%以上が、生成テクニックを用いて体系的に発見されるようになると予測している。現在のところ、こうして発見された新薬や新素材はまだない(2023年6月時点)。
法制化が進みつつある「修理する権利」や、EU(欧州連合)の「デジタル製品パスポート」(DPP)など、新しい法律は電子廃棄物を減らすのに十分か
これらの法律は良い出発点になるが、もっとやるべきことがある。Gartnerの調査では、IT資産は世界の電気電子機器廃棄物の7%を占めると推計している。「修理する権利」の法制化を目指すような動きが出てきたことは理解できる。これは、デバイスに機械的、あるいは技術的な故障が発生した場合に、エンドユーザーやビジネスユーザー、消費者が、自由に修理することを認める法律の制定を目指す取り組みであり、世界各国で広く進められている。
デバイスブランドも、数社が修理プログラムを導入し始めている。ユーザーがスペアパーツやガイドラインを入手できる修理プログラムを導入した企業や、自己修理に対応したスマートフォンのモデルごとに、特種な修理のためのリンクを見つけられる自己修理スマートフォンプログラムを運用し始めた企業などがある。
一方、デジタル製品パスポート(DPP)は、消費者やリサイクル修理業者、再製造業者に関連情報(環境指標や耐久性、再利用性、アップグレード可能性、修理可能性に関する情報など)を提供することを目的としている。間もなく、EUの家電メーカーに影響を与える見通しだ。
ベンダーは、DPPで要求される基準を今から評価し、循環型経済関連のデータをサプライチェーン全体で取得する仕組みを整える必要がある。だが、それだけでは不十分だ。ITリーダーもデバイスの調達から廃棄までを視野に入れ、地球環境への貢献や従業員へのエンゲージメント、ビジネスのサポートを両立させる方法で、デバイスの使用の合理化や維持、再構築を継続的に行わなければならない。
出典:Is IT Improving the Circular Economy?(Gartner)
筆者 Annette Zimmermann
VP Analyst
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